別府の新しい熱を感じる
GALLERIA MIDOBARU
ガレリア御堂原
別府の新しい熱を感じる
GALLERIA MIDOBARU
ガレリア御堂原

日本有数の温泉地として、古くから旅人を魅了してきた別府。市街地から少し離れた鶴見岳の麓、堀田温泉地区に2020年に開業した「GALLERIA MIDOBARU(ガレリア ミドウバル)」は、地層がそのまま立ち上がったような迫力のある外観と、全室源泉掛け流しの半露天風呂の組み合わせが斬新です。ローカルに焦点を当てたアートや、特注の白レンガ釜で調理した地場の食材など、これまでの別府のイメージを変える魅力を放っていました。

変わり続ける温泉都市「別府」

大分県別府市は、温泉郷として古くから湯治客で賑わいました。湧き出る源泉は2,847カ所と日本一を誇り、泉質も7種類と豊富です。明治4年に別府港が開かれると関西方面を中心に多くの観光客が訪れ、ほどなくして鉄道も通ったことで九州を代表する保養観光都市へと成長していきました。そして戦後には海外から多くの帰還者を受け入れ、人口は一気に1.5倍にまで膨れ上がったといいます。さらに米軍が駐留したことでジャズやキャバレーなどの新しいカルチャーも根付き、空襲を受けなかった街には今なお古い建物が残ります。立地的にも海洋交通の要衝として中国や東南アジアと永く交流を持ち、常に変化を受け入れながら進化してきました。

新しい価値を目指す関屋リゾート

2022年の調査によれば、別府の人口およそ11万人に対して観光客は500万人以上訪れています。そんな、コロナ後の新しい旅先として進化の過程にある街で新しいリゾートの形を模索しているのが、創業から120年以上の歴史を誇る株式会社関屋リゾート。1900年に別府市内で「関屋旅館」を開業し、2代目の代表取締役、林 太一郎(はやし たいちろう)さんが後を継いでから、2005年に別府初の高級旅館「別邸 はる樹」をオープン。その反響を受けて2015年には「テラス御堂原」をオープンさせます。4軒目となるのが2020年12月にオープンした「GALLERIA MIDOBARU」。その狙いについて林さんにうかがいました。

「別府は温泉地として知られていても、大型観光に向いた画一的なサービスから抜けきることができず、どこか閉塞感を感じていました。でも、県外で働いて戻ってくると、すばらしい風土や天然の資源にも恵まれていることに気付かされます。また、近年ではアートプロジェクトなども盛んで、若いエネルギーも感じます。そこで、海外や遠方からいらした旅慣れたゲストの拠点となるホテルが必要だと思ってこのホテルを立ちあげました。グローバルスタンダードを超えたサイトスペシフィック(その土地の特性を活かした)な体験価値を提供できる、別府の玄関になるような場所です。この堀田(ほりた)温泉は江戸時代に開かれた静かな山の湯治場で、別府湾を俯瞰できる景観が見事です。別府の奥深い魅力を知ってもらい、世界に通用するリゾート地へと進化させていくことで、この地域を元気にしていけたらうれしいです」

地層を拡張した光と影の建築

ダイナミックでモダン、それでいて違和感なく周囲に溶け込む建築は、大分市内のDABURA.m 株式会社によるもの。外側と内側の境界が曖昧な構造は、この土地の地層や断層をイメージし、壁面の赤みはRC造のコンクリに「別府石」の色調を混ぜて成形しました。型枠には大分県産の無垢杉が使われ、質感や偶発的なムラ、職人の手仕事による痕跡などが建物全体に独特のリズムを与えています。装飾は排しながらも、土のようでもあり、樹木のようでもある独特の表情が実にユニークです。また、館内には九州や大分を原産とする国産の素材をふんだんに使い、アイデンティティをさりげなくちりばめていました。断層崖から延長された地殻が立ち上がり、別府市内の路地のように入り組んだ空間には風が抜けます。解放的にも感じる一方、洞穴のような独特の閉塞感が心地よい安堵感を与えているのが印象的。これまでの温泉リゾートのイメージが鮮やかに覆される体験でした。

アートは言語を超える

そして、館内を彩るのがNPO法人 BEPPU PROJECTによるアートの数々。12組のアーティストによる作品は、このホテルのために制作されたものも多いといいます。入り組んだ館内の設計と相まって、ギャラリーを散策しているような気分にさせてくれます。いずれも別府を題材にしており、「ワイド(遠景)とマクロ(近景)の視点」がコンセプト。ロビーの大巻 信嗣による照明作品「Gravity and Grace -ゆだま-」や、西野 荘平によるフォトコラージュ「Diorama Map “Beppu” 別府温泉世界地図」など、それぞれの視点で切り取られた“別府”がインスピレーション豊かに展示されています。美術ユニットのオレクトロニカによる「もう一つの風景」は館内の至る所に配置されており、散策しながら見つける楽しみがあります。また、アクティビティの一つとしてアートツアーも開催。「作家のパーソナリティや作品の背景もお伝えするように努めています。言語を超えたダイナミズムを感じていただけるようで、海外のお客様にもとても好評です」と、主任の河村 藤太(かわむら とうた)さん。お仕着せの装飾品ではなく、ホテルを構成する重要な要素としてアートを活用している姿勢が伝わります。

山は富士、海は瀬戸内、湯は別府

全35室のゲストルームはすべて天然温泉の露天風呂付き。ホテル自体が高台に位置しているためテラスからは市内と瀬戸内海の別府湾を一望でき、弱酸性の硫黄泉が湧く堀田温泉の湯を堪能しながら夜景を楽しむこともできます。木目をふんだんに使ったインテリアは大阪のクリエイティブユニットgrafによるもので、館内のサイン計画なども統一されています。ホテルの特徴について、マネージャーの金丸 紘二(かねまる こうじ)さんにうかがいました。

「このホテルは多くのアーティストやクリエイターなど、地域の方々の協力によって完成しました。アートや温泉、食、アクティビティなど、さまざまな要素で別府の新しい魅力を表現しています。レストランも自信のあるお料理を提供していますが、あえて泊食分離することで近隣の飲食店のご利用もおすすめしています。また、ホテルとしては館内でゆったり過ごす静の時間も、外へ出てさまざまな体験をする動の時間もゲストの希望に合わせて楽しんでいただけるのが特徴です。スタッフもサービスよりホスピタリティを優先するよう努め、別府エリア全体の魅力を伝えるゲートウェイでありたいと考えています。この地域では登山などをされる海外のゲストも多く、滞在の拠点として長期滞在されるお客様も増えました。今後はさまざまなワークショップやアクティビティを増やして、自然とアート、食と人などが交流する起点となる場所を目指していきたいです」

釜の熱が味の決め手

敷地内のレストラン「THE PEAK(ザ・ピーク)」は、既存の建物を活かした再生建築。メインとなるのは特注の白レンガによる石窯料理。700℃の高温による遠赤外線で調理された地場食材が心も体も癒やします。シェフの今村 隆三(いまむら りゅうぞう)さんは、大分県出身。34歳でイタリアへ渡り、フィレンツェやサルデーニャ島で腕を磨きます。シンプルながらも起承転結のはっきりとしたコース仕立てに、「お腹いっぱいおいしい料理を食べていただき、旅の一部として楽しかった記憶が残る料理にしたい」と料理への想いを話します。クスクスを使ったサラダなど、前菜からしっかりとボリュームを楽しめ、スパイスのきいたトマト風味のペスカトーレや豊海牛のステーキ、近海の魚貝を使ったグリルなどイタリアンらしい味わいを旬の素材で楽しませてくれます。料理をするうえで大切にしていることについてうかがうと、「旅先での食事は奇をてらわず、シンプルで会話の弾むような料理が一番。これからは生産者が頭を悩ませる“未価値食材”なども活用して行きたい」と、笑顔で応えます。ワインを飲みながら頂くイタリアンは、旅のクライマックスにぴったりです。

一軒のホテルで街は変わる

別府というと九州を代表する大型保養地として大衆的なイメージが強く残っていました。しかし実際に街を歩いてみると、新しいものと古いものが融和し、時代を超越した独特の世界観が魅力的です。実際、街にはインバウンドの旅行者と比較的若い観光客が目立ち、新しい街の活力が少しずつ成長しているように感じます。漂白された都市に魅力を感じなくなった世代にとって、戦前から残るレトロな街の風情は海外旅行に匹敵する新鮮な体験なのです。代表取締役の林さんもマネージャーの金丸さんも、シェフの今村さんも、口を揃えて「県外に出たことでこの街の魅力に気付いた」と話していました。繁栄と衰退を乗り越えたいま、再び変化に対応しながら進化する鍵は外部からの新しい視点を取り込むことにあるのかもしれません。次のプロジェクトは鉄輪温泉(かんなわおんせん)エリアにコンドミニアムを計画しているとのこと。グッゲンハイム美術館の誕生によって都市が再生したスペインのビルバオのように、別府が世界的なリゾートになる日も遠くないかもしれません。

GALLERIA MIDOBARU

〒874-0831 大分県別府市堀田6組
Tel. 0977-76-5303

セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードが
ご利用いただけます。
https://beppu-galleria-midobaru.jp

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