いま、身近な旅先として国内の近距離旅行が注目を集めています。グルメ体験や名刹巡りにとどまらず、その土地の歴史や伝統に触れるアクティビティや、農業体験を通した生産者との交流など、知っているようで意外と知らない各地の魅力を再発見している方も多いのではないでしょうか。全国各地で地域課題の解決に取り組んでいるのが「株式会社47PLANNING(ヨンナナプランニング)」。長野県・奈良井宿の「BYAKU Narai」を皮切りに、地域の魅力を再構築する鈴木 賢治さんにお話を伺いました。
先日取材させて頂いた「BYAKU Narai」は、まるで時代劇のセットのような古き良き街並みと、モダンな宿のスタイルの組み合わせが印象的でした。宿が街とゲストを繋ぐ役割を果たしていて、その土地の奥深い魅力を知る良いきっかけになりました。
「奈良井宿の街並みや歴史に紐付いた文化や風習などは、同じ日本人でありながらとても新鮮な体験です。でも、この街に暮らす人々にとっては当然のことなので、特別な魅力を持っていることに気付いていません。また、都市部から来るゲストも遠目には興味深そうに眺めているけれど、一歩踏み込んだ先に広がる魅力はまだ知らない。若い世代にとってはSNSで“映える”と大喜びするような異文化体験です。つまり、同じ日本人同士であり、コンテンツの需要と供給も合っているのに、お互いにその価値をうまく交換できていないだけなんです。インバウンドのブームが再来する前に、日本人が日本人に魅力を紹介する。そんな翻訳のような役割が求められている時代なのかもしれません」
こんな魅力が日本各地に眠っているとしたら、とてももったいないことですね。わたしたちが地域の魅力を知ることで、観光内需が起きるというのはとても興味深い発想です。
「ご縁があって始まった塩尻市との取り組みですが、この街に初めて訪れたとき、そのポテンシャルに感激しました。しかし、市長に聞くと年間で63万人も訪れているのに、ひとり950円しかお金を使っていないというのです。これはやり方や見せ方を変えれば面白いことになるのではないかと直感しました。ちょうど、野外レストランプロジェクトの“DINING OUT”を立ち上げた株式会社ONE STORYの大類 知樹(おおるい ともき)社長が、古民家でレストランをやりたいと言っていたのですぐに相談したんです。そこから東京・外苑前の名店「傳(でん)」の長谷川 在佑(はせがわ ざいゆう)さんがレストランの料理監修を手掛けてくれるなど、奇跡のようなタイミングが連続しました。これからも街に眠るコンテンツをどんどん教えてもらいながら、ゲストに紹介していきたいと思っています」
「その土地の光を観る」という観光本来の在り方が見直されているようにも感じます。鈴木さんは27歳で47PLANNINGを立ち上げたと伺いました。どのような経緯で「地域の活性化」をビジネスにしようと考えたのですか?
「学生時代に対戦ゲームにはまってしまい、26歳までゲーム漬けの日々を過ごしていました。世界大会でベスト8までいったとはいえ、現実は無職です。このままではいけないと思い、あらゆる仕事を夢中でこなしましたが、お金は入ってもいまいち充実感がない。自分はなんのために生まれ、何を目指して生きていくのか。そんな自問自答の日々を過ごしつつ、地元の福島に想いを馳せたとき、改めて日本という国が好きだと気付きました。それで現在の会社を立ち上げ、震災の復興でも一助になることができました。こうした経験から、日本の各地をもっと活性化させることに自分のすべてを注ぎたいと思っています。「BYAKU Narai」のプロジェクトでは、やっとその想いが実現できそうだという手応えを感じています」
コロナ禍で初めて手掛けるホテルを開業するというのはなかなかチャレンジングな取り組みだったと思います。オープンして3ヶ月ほどが経ちましたが、どのような変化を感じていますか?
「この周辺では高価格な料金設定にもかかわらず、リピーターのお客さまがいらっしゃるのは嬉しいですね。東京から電車で3時間、車でも4時間かからないので、自分も月に3回ほど、計10日程度は滞在しています。移動時間も良いリフレッシュになり、いろんな仲間にこの場所を紹介している段階ですが、みんな良い刺激を受けています。お寺で朝のお勤めに参加したり、シェフと一緒に生産者さんのもとを訪れたりすると本当に色々なことに気付かされるみたいです。夜はその食材を美味しく頂いて、湧き水のお風呂に入ってぐっすり眠る。二日酔いになる人もいますが(笑)、それぞれが英気を養っているように感じられるのです。地域を理解し、地域の方々に理解してもらいながら、この地域に受け継がれた宝物を磨いていろんな人に届ける。それができれば、また違った景色が見えてくる気がします」
1982年生まれ、福島県いわき市出身。大学卒業後、イベント会社を経て2009年、(株)47PLANNINGを創業。東日本大震災が発生し実家も全壊する中、福島県いわき市駅前に復興飲食店街の夜明け市場を設立。空きシャッター街を年間10万人訪れる場所に再生する。現在、北海道から沖縄まで、全国各地の商業施設の運営や街作りに携わり、地域の魅力を最大化することで、観光人口、交流人口を増やし、47都道府県を活性化することに情熱を注いでいる。企業家団体であるEO東北第2期会長。
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