自然と共に生きる
本間 貴裕
株式会社Sanu 創業者兼ブランド・ディレクター
自然と共に生きる
本間 貴裕
株式会社Sanu 創業者兼ブランド・ディレクター

20代でゲストハウスなどを運営する「Backpackers’ Japan」を創業し、30代のステージとして人と自然が共生する社会の実現を目指す「SANU(サヌ)」を立ち上げた本間 貴裕(ほんま たかひろ)さん。「SANU 2nd Home」や「SANU NOWHERE」など、人と自然の関わり方に新しい選択肢を提供しています。その根底にはどのような想いがあるのでしょうか。

旅をして、世界を知った

東京・入谷の古民家を改装したゲストハウス「toco.」や蔵前の「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」など、インバウンドブームの先駆けともいえる宿泊施設を手掛けてきた本間さん。旅や自然をテーマにしたサービスを社会実装することにどのような想いがあるのでしょうか。

「私は福島県の会津若松で生まれ育ちました。こどもの頃から自然の中に暮らし、いまでも釣りやスキー、スノーボードが趣味です。地元が大好きだったのでそのまま福島大学に進み、学校の先生になりたいと思っていたのですが、19歳の時に司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を読んで大きく人生が変わりました。教員を目指すにしろなんにしろ、一度地元を離れて世界を見てこようと思ったのです。それで30リットルのバックパックを担いで1年間世界を旅して回りました。28都市を転々としながら、バックパッカーやヒッピー、サーファーの底抜けに明るい気風に触れ、世界の広さや風土の豊かさを存分に感じて帰国しました。その成田からの帰り道、下を向きながら電車に揺られる人々を見ていて『この違いはなんだろう?』と思ったのを覚えています。その時はいろんな人、特に当時の自分のような若い人に世界へ飛び出してほしいと思ったのですが、人を動かすのはなかなか難しい。じゃあ旅先で出会ったような人たちが集まれるような場所を作って呼び込むしかないと考えて、ゲストハウスを運営するBackpackers’ Japanを立ちあげたのです。当時はまだ今のようなインバウンドブームではなかったのですが、『あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を』という理念のとおり、外国人だけでなく地域の人にも利用してもらえる施設を生み出すことができたと思います」

自然と遊ぶための装置が欲しかった

2010年からおよそ10年間で5軒ほどの宿泊施設を手掛けます。その後、2019年に立ちあげたのがライフスタイルブランド「SANU」。「Live with nature./自然と共に生きる。」をコンセプトに掲げ、さまざまなサービスを展開しています。本間さんにとって、どのような変化があったのでしょうか?

「ゲストハウスのラウンジで国籍や年齢を問わずたくさんの人が集い、出会い、明るい未来に想いを馳せる。そんな心地良い空間を作れたことは自分のファーストキャリアとしてとても満足のいくものでした。東京、京都、大阪を拠点に1ヵ月のうち10日ほどは海外へ出掛けてホテルやゲストハウスに滞在する。そんな生活を続けていると、少なからずその先がどうなっていくのか想像できてしまう感じがあったのです。さらに、旅をしたりスポーツをしたりしているなかで衰えを感じる瞬間も出てきました。趣味のサーフィンやスノーボードなど、自然の中で遊ぶアクティビティも、せいぜいあと30年くらいかぁとか考え出したら、冬が30回来たら終わりって意外と短いなと。そこで、10年の区切りで次のステージを考えたとき、自分が遊んだり生活したりするのに必要なものは何かを考えたのです。経済的な成功より、生きることと仕事を重ねられる人生が良いな、そして地元の福島や自分たちが住む世界を良くして、明るい社会を作りたい。そのためには自由に動けるインフラというか、装置を作る必要がある。そういう私的な想いから始めたのが、自然の中にもうひとつの家を持つというコンセプトの『SANU 2nd Home』だったのです」

人生が動いた10日間

そうして株式会社SANUを立ちあげるわけですが、ビジネスプランなどの構想を練ってから立ちあげたのでしょうか? それとも、想いが先行した創業だったのでしょうか?

「両方です。というのも、SANUは福島 弦(ふくしま げん)という友人と2人で創業したのですが、彼と仕事をしたかったというのも動機のひとつです。彼とは株式会社Stapleの岡 雄大(おか ゆうた)という共通の友人の結婚式で出会いました。で、そもそも岡とも福島と会う10日前ぐらいに偶然知り合って(笑)。カウアイ島で結婚式をするからおいでよって誘われて、サプライズのつもりで結婚式前夜のBBQに行ったら福島と出会って一目惚れ。それからずっと『一緒に仕事しよう』って口説き続けましたね(笑)。そこからコミュニケーションが始まって、僕が持っている熱い想いを彼にぶつけて、彼と一緒にビジネスモデルに落としていくという流れでここまで来ています。僕は良いサービスを生み出したい、彼はたくさんの人に届くようなビジネスがしたいと言っていて、じゃあ良いサービスをたくさんの人に届けよう、と。人間と自然の関係って東京や日本だけの話ではなく、当然に世界とリンクする話なので、我々もその規模で物事を考えていければ良いインパクトを残せるのではないかと思っています」

友人になりたい人と仕事をしたい

会社の立ちあげから2年ほどで「SANU 2nd Home」をリリースしています。実際に現地で宿泊も体験しましたが、キャビンの建築モデルから開発されているのには驚きました。随所に環境への配慮や工夫がちりばめられているのですが、それがサービスの雰囲気や理念とバランスがとれていて、ちょうど良い雰囲気と居心地の良さを生んでいます。

「僕は常々、友人になりたくなるような人と仕事がしたいと思っているのです。そして、その人ができること、やりたいことを僕も一緒にやりたい。建築モデルを設計してくれている株式会社ADXの安齋 好太郎(あんざい こうたろう)も、大学の近くのクラブで知り合ったのがきっかけで仕事をしています。彼が『森と生きる。』という建築哲学を持っているので、その考えに沿ってCABINをゼロから設計しました。建築素材も生産エネルギーの低い木材を中心に、国内の森から生まれる間伐材を使っています。建物の基礎や敷地の整地に関しても、できるだけ悪影響を与えないように工夫して、解体まで考えて設計しているんです。あの建物は最終的にすべてパーツにばらせるので、解体時の負担も少ない。自然の中で遊ぶのに自然を破壊するのではなく、SANUが増えることで森が豊かになるサイクルを生み出しています。その延長で開発された『SANU CABIN MOSS』は、デジタルファブリケーションの工場ごと作って、そこでユニットを生産して現場で組み立てます。だから現地での工期はわずか2週間で、製造自体もどんどん効率化できていく。材料も人材も限りのある資源と考えれば、建築における進歩は非常に効果が大きいと思います。SANUの骨格は僕だけのものではなく、人と関わっていく中でできあがっていくのだと思います」

SANUは人格を持ったブランド

建築モデルも増え、拠点も順調に拡大し、サブスクリプションから所有まで順調にサービスが成長しているように感じますが、立ちあげ当初から変わらない部分と、変わってきた部分はありますか?

「いろいろと変化はありますが、まず変わらないものは『Live with nature./自然と共に生きる。』という理念です。最初は大言壮語にならないかと心配していたのですが、今は一点の恒星のごとくブレない自信があります。むしろそれ以外は時代のニーズに合わせて積極的に変化し、進化していくべきだと思います。SANUという言葉はサンスクリット語で『山の頂』『太陽』『思慮深い人』という意味があり、その三つの意味をロゴに込めました。そもそも我々の暮らしと自然は繋がっているのですが、そのすばらしさに畏敬の念を持ちつつ美しいと感じる姿勢は変わらないと思います。一方で、規模も大きくなってきましたし、仲間も増えたので少しずつSANUという組織が人格を持ち始めたような感覚はあります。最初は自分が中心になってサービスの仕組みやCABINの細かな部分も考えていたんです。それはサービスを立ちあげるおもしろさであると同時に、どこか自分の領域を出ない感覚もありました。ところが、3年目を迎えたあたりからスタッフだけでなく関係人口も増え、自分の意思の外ですばらしいものやことが生まれるようになってきました。スタッフも約5年間で50人ほどになり、それぞれが自律的に仕事に取り組んでいるのを感じます。自分の範囲を超えてすてきな出来事が起こっていることに、良い意味での驚きや戸惑いを感じています」

帰れる場所があれば、どこへでも行ける

2024年9月には東京・中目黒に「SANU NOWHERE」をオープンし、本社も人形町から移転してきました。どのような想いで立ちあげたのでしょうか。

「お酒が好きな人はバーに集まるし、音楽が好きな人はクラブやライブハウスに集まる。では、自然が好きな人はどこに集まれば良いのか。僕は自然の中で遊ぶことが好きですが、意外とアウトドアやアクティビティに興味ある友人を増やすのって難しい。なので、自然とそういう人たちが出会える場所が欲しかったんです。ここは東京の中目黒ですが、誰かが引いたその境界線をなくせば、地球のある一ヵ所でしかありません。都市と自然を軽々と超えて、自然を愛する人々が集まるラウンジがSANU NOWHEREなんです。ここで出会って、キャンプやSANU 2nd Homeのキャビンに泊まり、アウトドアの楽しさを知る。そこからサーフィンに誘われて、波の力強さや沖までパドリングするしんどさも体験する。朝焼けの美しさも知れば、油断すると生命の危機がすぐそばにあることにも気付く。そういうことを自然から学んでいくと、気象や地形にも興味が出てきたり、環境や気候などを自分事として感じたりするようになるかもしれません。そのときSANUのサービスは世界に広がり、どこにいても安心して帰れる場所としてライフラインを提供でき得るようになっていたいのです。都会に最も近い自然の入り口がSANU NOWHEREで、ここから『自然が好き』という人を増やしていけたらうれしいですね」

どこへでも帰れることが当たり前になる未来

また、ご自身も生活の拠点を北海道に移し、東京との二拠点生活を送っています。SANUのサービスや世の中はどのように変化していくと思いますか?

「山の近くで暮らしたいと思って、北海道に移住しました。ひと月の半分は東京にいますが、半分は北海道で生活しています。自然の美しさに癒やされると同時に、人知を超えた畏怖の思いもあるのですが、都市生活ではつい忘れてしまいがちです。効率が良くて安全な一方で、めまぐるしい変化や過剰な刺激に息苦しさも感じている人も増えてきた。でもそれは人間だけの話で、自然は変わらずそこにある。そして我々の暮らしは自然と完全に切り離されているわけではないというのを実感しています。僕はいま、北海道の自宅も東京のオフィスも、どちらも帰る場所になっています。そんな拠点が世界中に増えて、誰もが気軽に利用できるようになったら、いつでも出掛けていけますよね。どこへでも安心して出掛けていき、世界のすばらしさに触れて、人生を豊かにする。世界を消費するだけでなく、仲間を増やし、生きることの楽しさや自然の尊さの本質に触れる人が増えれば、社会はもっと豊かになっていくのではないでしょうか。SANUはそのための仕事でありたいと思っています」

ヒューマンスケールの豊かさ

本間さんの話を聞いていると、人生や社会に対してナチュラルでフラットなスタンスと、自然や未来に対するポジティブな視点を感じます。環境問題について話しているときも、「技術が進めば数十年後には解決している可能性もあるし、そこへ向かうべき」という言葉には、実践している者の言葉の重みを感じました。とかく、シリアスになりがちな環境問題に等身大の解決策で挑む。この自然体の姿勢はSANUのサービスからも感じることができます。その根底には、19歳で世界を旅した原体験から得た「何を豊かだと感じるか?」という価値観があるのかもしれません。生産性や効率だけが求められる成長の時代が終わり、多様な寛容性が求められる成熟期に入った私たちの暮らしでは、このヒューマンスケールの豊かさはとても心地良く感じます。セカンドホームのサブスクリプションサービスから始まったSANUが、「Live with nature./自然と共に生きる。」を軸にどのようなサービスがアップデートされていくのか楽しみです。私たちは、もっと未来に期待をしても良いのかもしれません。

SANU 2nd Home

セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードが
ご利用いただけます。
https://2ndhome.sa-nu.com

SANU 2nd Home Co-Owners

https://owners.sa-nu.com/

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