海外では素面(しらふ)でいることを楽しむ新しいライフスタイルとして「ソーバー・キュリアス(飲めるけど飲まない)」が注目されています。日本でもノンアルコールのペアリングで料理を楽しむフーディーも増えてくるなど、世界的に高まるノンアルコールのムーブメント。お酒を飲むひとも、飲まないひとも、一緒に楽しめる新しいカルチャーとは、一体どのようなものなのでしょうか。ノンアルコールの専門商社「ALT-ALC(アルト・アルコ)」にお話を伺いました。
若い世代を中心に、アルコールとの距離感を見直す「ソーバー・キュリアス(Sober Curious)」というライフスタイルが世界的なムーブメントになっています。とはいえ、飲む、飲まない、という極端な二択ではなく、お酒の魅力は知っていながら「あえて飲まない、むしろ素面でいることを楽しんでいる」という印象です。そんなライフスタイルに欠かせないのが「オルタナティブアルコール(Alternative Alcohol)」というカテゴリ。“もう一つの選択肢”という意味のオルタナティブの言葉通り、ただアルコールが入っていないというだけではありません。そのポイントは、食事に合う飲み物であるということ。このオルタナティブアルコールを専門に扱う商社が「ALT-ALC(アルト・アルコ)」です。代表の安藤 裕さんにお話を伺いました。
安藤さんがこのビジネスをはじめたきっかけは「ワインの商社で働いていたときに、お客さまからのニーズはあったのですが、ノンアルコールの専門家がいなかった」からだといいます。「2015年にロンドンで『シードリップ(Seedlip)』というノンアルコールスピリッツが登場しました。このあたりから“これまでのノンアル”となにかが変わりはじめた」と、当時を振り返ります。その後、2017年にノンアルコールムーブメントの火付け役となった『Mindful Drinking(マインドフル・ドリンキング/Rosamund Dean著)』が出版され、2018年に発表された『Sober Curious(ソーバー・キュリアス/Ruby Warrington著)』によって、新しいライフスタイルとして世界中に認知され、2019年以降、一気に広がりました。
現在、安藤さんは日本初となるバーテンダーとソムリエによる、お酒のプロのためのノンアルコール専門通販サイト「nolky」を運営。世界中のトップバーテンダーによるモクテルのレシピや、独自のテイスティングコメントなど、日本におけるムーブメントを牽引しています。
2020年になると、世界中に蔓延した新型コロナウィルスの影響もあり、ノンアルコールへの関心と需要は急拡大します。現在、どのような種類の飲み物があるのでしょうか。
「フルーツビネガーをハーブや果実で香り付けしてソーダで割る“シュラブ(Shrb)”などは、禁酒法時代からある歴史の古い飲み物です。他にも、ノンアルコールのカクテルとしてバーやレストランで人気なのが“モクテル(Mocktail)”。そして、ワインやシャンパン、コニャックなど葡萄をベースとしたワインのような飲み物として、“オルタナティブアルコール”が世界中で注目を集めています。いずれも、お酒と食事のペアリングの楽しさを知っているひとでも満足できるのが魅力です。日本ではノンアルコールビールの需要も確実に伸びてきており、選択肢はますます増えていくでしょう」
「ソーバー・キュリアス(飲めるけど飲まない)」の興味深いところが、レストランやシェフなどの料理を作る側からもムーブメントが起きているというところ。その代表格といえるブランドが、「NON(ノン)」です。“世界一のレストラン”に何度も輝いた「NOMA(ノーマ)」出身のWilliam Wade(ウィリアム・ウェイド)がブランドの立ち上げをつとめた、メルボルンのワインオルタナティブメーカーです。ブドウ果汁をベースにハーブやスパイスを加えることで、味や香りが幾層にも重なる複雑な味わいを楽しむことができます。料理と組み合わせることで、どのような食の楽しみが広がるのか、イタリア郷土料理のレストラン「Pepe Rosso(ぺぺロッソ)」でお話を伺いました。
Pepe Rossoでは、「NON」をはじめ「シュラブ」やオリジナルのモクテルも提供しています。そもそもノンアルコールを提供するようになったのはなぜでしょうか。
「うちは手作りのパスタを取り入れたコース料理が中心で、常連のお客様も多数いらっしゃいます。そのなかで、話題になる面白いノンアルコールがないかと探していた時に、安藤さんと知り合ったのがきっかけです。酔いたくない気分のお客さまや、クルマできた方へのご案内はもちろん、ランチなどでの需要も増えました」と、反響は良いようです。
「また、料理に合う一本を考えるとき、ソムリエの私はワインのラインアップから選ぶしかできなかった。しかし、ノンアルコールならシェフと一緒に、最適な一杯を考えることができます。以前はバーテンダーだったこともあり、可能性が広がりましたね。アルコールという制限がなくなることで、料理とお酒、シェフとバーテンダーという垣根がなくなりました」と、マネージャー兼ソムリエの藤本 智さん。さっそくいくつか自慢のお料理とペアリングをお願いしてみました。
イタリアのロンバルディア州やエミリア・ロマーニャ州が発祥とも言われる「カボチャのクレマ」。オーブンでしっかりと水分を飛ばしたカボチャが実に濃厚。アマレット(杏仁)の甘い香りやバルサミコのような「モストコット」ソースとの風味が甘く、温かなデザートのような印象です。この一皿に合わせたのはNONの「No.2」。洋梨をキャラメリゼした香ばしい香りとアガベの優しい甘さがカボチャと良く合います。オリーブやバニラの特徴的な香りと昆布やチャイなどエキゾチックな味わいが、柔らかい口当たりのクレマを立体的な印象にしてくれます。ちなみに、ワインであればアルバーナ・ディ・ロマーニャを合わせるのがおすすめとのこと。
二皿目は、Pepe Rosso自慢の手打ちパスタです。トスカーナ地方の黒豚「チンタ・セネーゼ」を使ったラグー・ビアンコに、水と粉だけで手延べしたパスタ「ピッチ」を合わせた一品。トスカーナの黒キャベツ、カーボロネーロのほのかな苦みと香味野菜の複雑な香り、海藻のような塩気にNONの「No.5」を合わせました。2021年3月に発売されたばかりのNo.5は、辛口のロゼのようなバランスの良さが特徴です。リコリスやミントの爽やかな香りに、ハイビスカスの酸味とかすかな炭酸が、一口ごとに口の中を洗い流してくれます。はっきりと感じる酸味とスッキリ爽やかな後味は、さまざまな料理とのペアリングが楽しめそうです。ラグー・ビアンコにワインを合わせるなら、辛口のキャンティや同じトスカーナのグイダルベルトなどが良さそうです。
ソーバー・キュリアスの魅力について伺っていると、その背景にはLGBTQやソーシャルな空間におけるパーソナリティの尊重など、カテゴリにとらわれない平等な社会づくりへの共鳴がありました。例えば最先端のレストランには必ずビーガンやハラルのメニューがあるように、バーではオルタナティブアルコールの品揃えがステイタスになる。飲む人も飲まない人も、誰もが自由に食事やソーシャルな空間を楽しめるということ。そんな多様性をなによりも尊重するからこそ、生まれてきた新しい考え方なのかもしれません。これからは、自宅のセラーにお酒以外も揃えておくのがオトナの嗜みになりそうです。気になる方は、オンラインショップ「nolky」でチェックしてみてはいかがでしょうか。
セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードがご利用いただけます。
https://www.no-lky.com/
営業時間
ランチ/12:00〜16:00 LO15:00
ディナー/18:00〜23:00 LO22:00
(定休/日曜・第一月曜)
住所
東京都世田谷区代沢2丁目46−7 エクセル桃井 1F
Tel. 03-6407-8998
https://www.peperosso.co.jp/