「和と美意識と豊かな生活」をテーマに掲げ、2025年4月25日にオープンした「TABAYA United Arrows」。ウエア、アクセサリーなどをはじめ、日用品や工芸品、美術品など、世界中の本物がそろう唯一無二のセレクトショップをめざします。創業から磨き上げてきた審美眼によって集められたアイテムは、変化の激しい時代に不変の美学を提示しているようです。
1989年の創業以来、セレクトショップとして国内外の一流品を扱ってきたUNITED ARROWS。「ひとつの目標に向かって直進する矢(ARROW)を束ねた(UNITED)もの」という社名のとおり、ファッションやライフスタイルに新しい価値観を提示し、トレンドを牽引してきました。その象徴ともいえる原宿本店が、このたび大幅なリニューアルを経て「TABAYA United Arrows」へと生まれ変わりました。「和」と「美意識」と「豊かな生活」をアイデンティティとして、最上級の「衣」「食」「住」を提案しています。そこに集められるアイテムは、素材や品質が良いというだけではなく、人生に豊かさを与え、丁寧な所作を⽣み、暮らしに心地良い時間をもたらしてくれるものたちでした。
有名建築が立ち並ぶ表参道から、ストリートカルチャーの雰囲気が漂う原宿通りを抜けた神宮前エリアの北側。スペインの建築家リカルド・ボフィル氏による建築はひときわ異彩を放ちます。新たに植えられたシンボルツリー「潮見の松」が屹立し、神殿のような列柱がゲストを出迎えます。今回の改修では外観には手を加えず、内部の装いに磨きをかけました。土や金属を用いた壁は経年による美しい変化を育み、和紙の壁は大きな窓から差し込む外光を空間に引き込みます。床は多治見の工房による透明感のあるタイルとセメントの洗い出しによるふたつの“白”が繊細です。分裂した建物の中心を通るのは「インテリアストリート」と呼ばれる小径。建物を分けることで、小さな街並みのような景観を作り出しています。それぞれの構造は空中で繋がり、回遊する導線によってセレンディピティを誘発するもの。内と外が緩やかに繋がることで自然と交わり、都市にエアポケットのような余白を生んでいます。
地下1階は、メンズとレディースの服飾のフロア。PRを担当する渡辺 健文(わたなべ たけふみ)さんは「原宿本店のときから扱っているものもありますが、TABAYA United Arrowsのコンセプトに沿って一からラインアップを組みました」と自信をのぞかせます。
「具体的には、日本が影響を受けたもの、または影響を与えたものいうことを軸に据えていて、素材やディテールや柄、あるいは技法などの職人技に対する深い尊敬が込められているブランドをセレクトしています。また、私たちユナイテッドアローズはトラッドを大切にしていますが、それは単にテイストを指すものではなく、本物であることを意味するものです。すなわち一過性のトレンドや1シーズンで着なくなってしまうものではなく、自分のライフスタイルに溶け込んで、永く愛用できるもの。セレクトだけでなく、日本のものづくりの精神に基づき丁寧な縫製と素材選びにこだわった、ユナイテッドアローズオリジナルのジャケットをはじめとするドレスアイテムも並びます」
目移りする気持ちをぐっとこらえて1階へ上がると、ゆったりとしたカウンターとボックスシートのカフェスペースが広がります。恵比寿にある「LESS」のパートナーオーナーでもあるガブリエレ・リヴァ氏によるジェラートやチーズケーキなどが並び、コーヒーやシャンパンと一緒に楽しむことができます。「お買物をされないお連れ様にも寛いでいただけたらうれしい」と話すのは、TABAYA United Arrowsのディレクターを務める田村 麻衣子(たむら まいこ)さん。
「お買物は楽しいけれど、いろいろと悩んだり決心をしたり、ときにはエネルギーを使います。ここは駅からも少し離れていて、神宮前エリアでもわざわざ足を運んでいただく場所なので、せっかくのショッピングをより良い体験にしていただくためにも寛ぎの空間は重要だと考えました。スペシャリティコーヒーを飲んでヒートアップした心を落ち着けられたり、自分へのご褒美を手に入れてシャンパンでお祝いしたり、夜にはバーとしてちょっとした待ち合わせなどにもご利用いただけます。私たちの提案するライフスタイルには、いま目の前の時間を楽しんでほしいという想いがあります。このカフェ・バーは、TABAYA United Arrowsの理念を体現した空間ともいえる場所です」
2階に上がると美術館やギャラリーかと見紛う空間が広がります。なかでも、「GO ON」としても活動する伝統工芸の担い手たちが手掛ける作品を並べた空間は圧巻のひとこと。開化堂の茶筒や中川木工芸によるシャンパンクーラーなど、日本を代表する匠の技が惜しげもなく披露されています。「最高級は生活からかけ離れた場所にありますが、最上級は暮らしの延長にある」と田村さんが話すように、一流の手仕事が語りかけてくる不変の美と豊かさを感じさせます。日本の伝統と歴史を紡ぎながらも、現代的な解釈によって暮らしに彩りを添えるアートたち。空中回廊を渡った別館では、「さるや」の楊枝や酒器などの粋な日用品に加え、日本酒の蔵元と一緒に開発した酒類も販売。普段使いの最上級に、ついつい“その気”にさせられてしまいます。
さらに、2階の一部には茶室のような佇まいの「順理庵(じゅんりあん)」もオープン。銀座店、六本木店を移築した店内には、ユナイテッドアローズの創業者である重松 理(しげまつ おさむ)さんが自ら提案する日本製の衣料品や工芸品が並びます。経営戦略本部経営企画部の鶴田 雅之(つるた まさゆき)さんに、その狙いをうかがいました。
「ここはTABAYA United Arrowsのショップインショップの形態で、無垢の木材と土壁、畳を用いた本格的な数寄屋建築の店舗です。『順理庵』とは“理(ことわり)に従う”という意味で、日本の真正なる美の基準を大切にしています。粋を日本のラグジュアリーと捉え、着物の反物や結城紬から仕立てたジャケット、草木染めのストール、タイやカフスなど、和装洋装男女複合のラインアップが特徴です。3階には重松が代表理事を務める『公益財団法人日本服飾文化振興財団』もあるのですが、我々が世界から学んだ“良いもの”と、日本の“良いもの”を次世代に残し、伝えていくことでファッション業界へ恩返しをしていきたいという想いがあるようです。本物に触れる機会を増やすことで、『日本の美を次世代に継承する』という理念を表現していきたいと思います」
1階の別館はギャラリーと位置づけられていて、アーティストの作品を展示販売するなどさまざまなポップアップイベントを開催する場所。月替わりで企画される展示内容は生活と文化の交差点のような試みで、取材時には「UNITED in WHITE」を開催。韓国の伝統工芸作家7名による白磁とファブリック作品が展示されていました。島根県出身で26歳まで日本で過ごしたPark Songkukによる韓国の伝統的な「韓紙」に似た質感を持つ「HANJI」シリーズなど、日本とアジアの文化的な共鳴を感じさせます。2025年6月6日からは、日本の伝統技術を現代アートとして解釈する「ars(アルス)」をはじめ、ジュエリーブランド「Jocalis(ヨカーリス)」、「Sharanpoi(シャランポワ)」、「Adlin Hue(アドリン ヒュー)」の4ブランド合同展示販売会が企画されるなど、意欲的な取り組みはファッション業界のみならずアートシーンからも注目を集めそうです。シームレスにカルチャーを横断する取り組みは、セレクトショップの未来を見据えた一種の社会実験でもあります。店舗のなかに横断的な接点を持つことは、多様な時代に新たな可能性を見せてくれました。
活況を呈してきた70年代以降の日本におけるファッションシーンは、主に欧米の文化を中心としたものでした。私たちはセレクトショップを通して新しいカルチャーに触れ、一流の職人たちによるクラフトマンシップや装うことの楽しさを教えてもらいました。やがてファッションはライフスタイルと融合することでトレンドが多様化し、現代ではSNSを中心にそのサイクルはどんどん短命になっているようです。時代性やムードは形成される前に置き去りにされ、逆説的に“永く使える本当に良いもの”や“いま、自分が本当に欲しいもの”に対する憧れやこだわりが時代性を帯びてきているように感じます。TABAYA UNITED ARROWSは、まさにそうした時代のニーズが生んだ空間です。新しい時代の衣食住遊を提案し、国境や文化、世代の垣根を超えて受け継がれていくに値するものを集めていく。それは、過去に学び、今を知り、未来に問うていくセレクトショップの使命そのものです。感性を育むゆりかごのような空間は、用事がなくてもつい立ち寄りたくなる刺激に満ちていました。実験的な取り組みはいつでも世論に賛否を巻き起こすものですが、セレクトショップの未来に一直線に突き進む姿勢にこれからも注目したいと思います。
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Tel. 050-8893-3357(12:00〜20:00)
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