いのちをいただき、農場の丘に眠る
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KURKKU FIELDS
いのちをいただき、農場の丘に眠る
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KURKKU FIELDS

「農」と「食」がテーマのサステナブルファーム&パークKURKKU FIELDS。2022年に敷地内に完成した宿泊施設「cocoon」では、自らの手で収穫をし、いのちや自然の恵みをいただき、農場を望む丘に眠るという体験を提案しています。シンプルで美しい旅の体験は、私たち人間もまた自然の一部であることを教えてくれました。

循環が体験できるファーム&パーク

千葉県木更津市にある「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」は、「農」と「食」と「アート」がテーマのサステナブルファーム&パーク。都心から車でわずか1時間程度、東京とはちょうど東京湾を挟むように位置し、夜になると丘の上から都会の夜景を望むロケーションです。約9万坪の広大な敷地には、農場、レストラン、ショップ、アートスポットが点在するほか、ビオトープやソーラーファーム、バイオジオフィルターが整えられ、さまざまな循環を感じられる体験を提供しています。農場では畑と酪農が行われており、レストランやショップに並ぶ食品や料理の原材料はほぼ自給自足。どのお店でもここで採れたものを頂けるという食体験もユニークです。

循環型社会のモデルケース

KURKKU FIELDSの総合プロデューサーを務めるのは、音楽家の小林 武史(こばやし たけし)さん。2005年から音楽フェスやアートフェスティバルなどの活動を通じて環境問題や復興に取り組む一方で、2010年にこの場所に農業生産法人「耕す」を設立。10年ほど有機栽培による一次産業を営んだ後、食と農をテーマにした体験型の施設「KURKKU FIELDS」としてオープンしました。

2019年の第1期オープンを皮切りに4期に分けて段階的にコンテンツを充実させ、2021年にはエネルギーの運用を開始、循環型社会のモデルケースと言える環境が整いました。「万が一の時のために一部引き込みをしていますが、基本的には自家発電で施設全体の電力をまかなうことができます」と話すのは、宿泊施設の運営やパーク内のガイドなどを横断的に担当する佐藤 剛(さとう ごう)さん。上下水も大きなインフラとは繋げずに施設内で独自に整えられているため、災害時であっても普段通りの活動が可能だと言います。

宿泊を通じてより深い体験を

そんなKURKKU FIELDSでの体験をより深められる施設「cocoon(コクーン)」が、2022年秋に誕生しました。宿、サウナ、レストランの計10棟からなる宿泊エリアで、すり鉢状の敷地を見渡せる丘の上に位置します。キーワードは「能動的な宿」。特別なサービスや豪奢な設備を期待するのではなく、自分のことは自分でやり、興味や心に従って過ごし方を選ぶ。あるのは自分と時間だけ。シンプルで余計なものがない環境が最大の魅力です。

フランス語で「繭」を意味するcocoonは、その名の通り繭をモチーフにした丸みのある設計が特徴。天井からの採光が美しいバスルームや場内を見渡せるポーチなど、ところどころに繭の中にいるようなアールの効いた壁が現れます。デザイナーの皆川 明(みながわ あきら)さんを総合ディクレターに迎え、設計を建築士の吉田 隆人(よしだ たかと)さん、ランドスケープと植栽をグリーンアーキテクトのSOLSOが担当しました。「皆川さんが客室や庭のラインなど全体のラフ案を描き、それぞれのプロフェッショナルが形にしていきました」と佐藤さん。皆川さんのブランド「ミナペルホネン」のファブリックを基調にしたナチュラルなインテリアも印象的です。客室の家電や食器、書籍なども皆川さんによるセレクト。一点一点丁寧にセレクトされた良質なものが並び、温かみのある落ち着いた空間です。

農場で採れたもの、どういただく?

cocoonでの滞在において核となるのが「食体験」です。“農場で採れたものをいただく”という考えが中心にあり、2つのプランから選ぶことができます。ひとつは、農場で採れる野菜や卵を使って自分たちで調理をするtakka(タッカ)プラン。もうひとつは、それらをシェフに託してディナーコースをいただくperus(ペルース)プラン。takkaと名付けられたフロント兼ラウンジの建物が共同キッチンの機能を備えており、takkaプランを選んだ場合はここで自ら調理をして食事を楽しむことができます。同時に3組まで利用可能で「偶然に隣同士になったグループが意気投合して、お互いの作ったものをシェアすることもありますよ」と佐藤さん。調理器具や食器、調味料などの一式が揃い、農場で採れる素材を生かしたオリジナルのレシピブックも備えてあるのも安心です。これからのプランを魅力的にするのが「ファームツアー」。perus(ペルース)プランのご紹介の前に、独自のプログラムをご紹介しましょう。

食体験を有意義にするファームツアー

宿泊者を対象に無料で開催される「ファームツアー」は、ぜひとも参加していただきたいアクティビティのひとつ。「ツアーに行くのと行かないのとでは、お料理の味わい方が変わってくるんです」とスタッフの皆さんも口を揃えるほどで、いずれの食体験もさらに有意義なものにしてくれます。ツアーの目的は畑や酪農といった生産現場を90分かけてめぐり、今夜の材料を自らの手で採取すること。奄美大島でネイチャーガイドをしていた経験もある佐藤さんとの会話を楽しみながらめぐるツアーはとても心地よい時間でした。採ったばかりの野菜を味見したり、牛舎を見学したり、施設の循環の仕組みを教えてもらったりと内容も盛りだくさんです。

「天候や季節によっては野菜が採れない時もあります。そういう時はどうするんですか? と聞かれますが、“あるものでなんとかする”が私たちの答えです。ないものはないと諦めること、便利な時代に忘れてしまっていることではないでしょうか」

施設から車で10分ほど走ったところには、KURKKU FIELDSと木更津市が共同で運営する肉食処理施設もあるそう。「オーガニックブリッジ」と名付けられた処理場で、害獣として駆除された猪や鹿は30分以内にここに持ち込まれます。新鮮なうちに処理され、場内のシャルキュトリーでソーセージやハムへと加工。レストランで提供されたり、ショップで購入することもできます。

レストランで楽しむ採れたてディナ−

さて、ツアーの後はいよいよディナーです。コース仕立ての「perus」プランを選ぶと、8席のカウンターのレストランでシェフとの会話を楽しみながらゆったりと食事を楽しむことができます。前菜からデザートまで、すべてのお皿にはこの場所で採れた素材が使われており、農場の季節をダイレクトに感じられます。水牛の乳から作ったモッツアレラチーズ、全粒粉の手打ちパスタ、先ほど自分たちで収穫した野菜との再会にも胸が踊ります。猪を薪火で焼き上げるメイン料理は、天気がよければ屋外に用意されたテーブルへと移動し、星空の下でいただきます。

シェフの山名新貴(やまな よしき)さんは鳥取県出身。大阪や東京のイタリアンで経験を積み、まだ20代の若さでperusの切り盛りを任されています。「都会にいるときは点だったものが、ここへきて線に繋がった感覚があります。一次産業がすぐそこにあるという環境に育てられ、料理への意識とかかわる姿勢が深くなりました。今までは相性や盛り付けの美しさで食材を選んでいましたが、ここでは何故この食材を使っているのかを自信を持って語ることができ、限られた食材の中で最高のパフォーマンスを突き詰めることができます」と話します。ワイン、どぶろく、芋焼酎などアルコールのペアリングを楽しむのはもちろん、場内で採れたハーブや果物を使った自家製ノンアルドリンクとのペアリングコースもおすすめです。

深夜に地中で読書する

滞在にアカデミックな体験を添えてくれるのが「地中図書館」の存在。cocoonと同じく2022年にオープンした施設で、17時〜翌11時まではcocoonの宿泊者が優先的に利用することができます。手掛けたのは建築家の中村 拓志(なかむら ひろし)さん。地中に埋もれるように建つ建物は、秘密基地のようなワクワク感と幻想的な雰囲気に包まれています。選書家の川上 洋平(かわかみ ようへい)さんによってセレクトされた約3000冊が蔵書されています。「さまよう」をコンセプトにした地中図書館では、偶然の出合いを大切にしてほしいとジャンル毎の棚がランダムに配置されているのも特徴的。「図書館への道も『さまよう』を連想させるように、くねくねと曲がっているんです」と佐藤さん。街灯のない暗がりを散歩しながら図書館へ向かい、深夜にひっそりと本を読む。いつもよりしっとりと、言葉が心に染み入るような読書もここならではの体験です。

心を調律する旅へ

私たちの暮らしにはどれくらいの水や食料が必要で、どれくらいのエネルギーがあれば十分なのでしょうか。サステナブルや循環型社会という言葉をよく耳にするようになった昨今。地球に負荷をかけないライフスタイルを考える一方で、誰かが作ってくれたものや与えられたものを消費する私たちの生活は、そもそも暮らしに必要な適量がわからなくなっているのかもしれません。KURKKU FIELDSでは、サステナブルや循環型社会が言葉だけではなく目の前で営まれ、何が必要で何が不必要かを問いかけます。そしてcocoonでの滞在は、いのちをいただき、農場に眠る体験を通じて、「足るを知る」という感覚に気付かせてくれました。

2022年秋に第4期オープンを迎えたKURKKU FIELDSでは、メンバーシップ制度を導入。一次産業から六次産業化をめざして行ってきたさまざまな取り組みや活動を基盤に、サステナビリティと農、食のあり方、ライフスタイルといった課題をメンバーとともに考えていくプラットフォームをめざしていくと言います。「ここでのような暮らしをすぐにライフスタイルに落とし込むのは難しいかもしれません。それならまずはこの場所を体験することで、食、環境、ゴミのことや未来のことを考えてみる機会にしていただけたらいいのではないでしょうか」と佐藤さん。新しい年の始まり、考え方や暮らし方を整え、心を調律してくるような旅へ出掛けてみてはいかがでしょうか。

cocoon /KURKKU FIELDS

〒292-0812千葉県木更津市矢那2503
定休日:火・水曜日

セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードが
ご利用いただけます。
https://kurkkufields.jp/stay/cocoon/

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