
江戸時代から昭和初期にかけて親しまれていた「江戸味噌」。バランスの取れた味わいとフレッシュな風味を持ち、蕎麦のつけ汁、鰻、鍋料理など、江戸の食文化を支えてきた調味料でした。後半では、時代の変化によって姿を消した江戸味噌の復活の物語、そして現代のライフスタイルに合わせた江戸味噌の楽しみ方をご紹介します。
第二次世界大戦が始まり、国が困窮すると米を大量に使う味噌は贅沢品と見なされ、統制令によって自由な製造が禁止されます。終戦後もGHQによる米の統制は続き、大豆不足も重なったことで江戸味噌が再び作られることはありませんでした。自由な味噌づくりが再開したのは昭和30年代に入ってから。約20年におよぶ空白の中で、江戸味噌は人々の記憶から次第に姿を消していきました。
株式会社日出味噌醸造元の三代目である河村さんが江戸味噌の存在を知ったのは、今から12年ほど前。小学校で味噌の講演を行うことになり、資料として古い文献を手に取ったのがきっかけでした。
「江戸味噌という文字が目に入って、はじめは東京の味噌として知られている『江戸甘味噌』のことが書かれているのだと思いました。ところが、どうも配合が違う。調べていくうちに、江戸味噌というもう一つの味噌が存在していたことがわかり、知れば知るほど、江戸味噌が日本の食文化において大事な役割を果たしていたことが明らかになったのです」と当時を振り返ります。
それからおよそ2年。当時の配合や製法を読み解き、試行錯誤を重ね、70余年ぶりに江戸味噌を現代に蘇らせました。完成した江戸味噌を口にした時、その味わいに心を打たれ、「食文化のこと、そしてこれからの日本の食卓のことを考えたとき、この味噌が誰にも知られないまま消えてしまうのは、大きな損失なのではないかと思いました。食文化として誰かが残していかなければいけない、それならば東京の味噌屋である私たちがやるしかないと思いました」と、江戸味噌の魅力を発信するブランド「東京江戸味噌」を立ち上げました。
オンラインでの販売に加え、2016年には東京・江戸のみそ専門店「東京江戸味噌 広尾本店」をオープン。変体仮名で「みそ」と記されたロゴマークは、江戸時代の味噌屋が掲げていた「切匙」を模した看板をモチーフにしています。モダンでスタイリッシュな店内には、戦前まで主流だった江戸味噌、江戸甘味噌、仙台味噌、田舎味噌が並び、違いをテイスティングしながら好みの味噌を選ぶことができます。
「こうした背景や江戸味噌の特徴を知っていただくと、いろいろな料理に使ってみたいと思っていただけるのではないでしょうか」と河村さん。現代のライフスタイルにも取り入れやすいおすすめレシピを教えていただきました。
<パクチー味噌>
エスニックな味わい!蒸し鶏や野菜のディップにぴったり
作り方
1.フードプロセッサーに松の実、香菜、ごま油を入れて回す
2. 全体が混ざったら味噌を加えペースト状になるまで回す
<スペアリブ>
簡単なのに、ご馳走。香ばしさが食欲をそそる一皿
作り方
1. 江戸味噌、みりん、ハチミツを混ぜあわせる
2. スペアリブと1を合わせもみ込む
3. 保存袋等に入れ空気を抜き15分以上おく
4. 180℃のオーブンで15分焼き、上下を返して更に8分焼く
江戸味噌とカッテージチーズをのせたカナッペや、ジェノベーゼと江戸味噌をバター代わりにしてグリル野菜を挟んだサンドイッチなども試してみたいレシピです。
「甘味、塩味、旨味がバランスよく備わっていますので、和食ならこの味噌を入れるだけで味が決まります。そのシンプルさが素材のそのものの味を引き出してくれるのです。丁寧に施した下ごしらえや素材の良さが素直に料理に出てくれる、とプロの料理人の皆さんにも好評です。スパイスや酸味を加えていけば、和食にとどまらず、いろいろなジャンルやバリエーションでお楽しみいただけると思います」
「実店舗では、どちらの味噌でも100gずつ購入ができます。江戸時代のように、“その日必要な分だけを毎日買いに”というわけにはいきませんが、欲しい量を買うという体験を通じて、江戸の食文化に触れてもらえたらいいなと思いました。私自身もこの味噌に出合ってから、味噌に対する印象が大きく変わりました。ここをきっかけに、私たちが知らなかった味噌のもう一つの側面や文化を知っていただけたらうれしいですね」と河村さん。
文献に残された文字を手がかりに始まった江戸味噌の復活。河村さんの情熱に共感すると共に、もしかすると江戸味噌のように時代の流れの中で忘れられてしまった味覚がまだほかにもあるのではないかと期待してしまいます。取材後、すっかり江戸味噌が気に入ったわが家では、日々のお味噌汁や煮貫を試しています。江戸味噌との出合いは自由な発想で料理の幅を広げると同時に、温故知新の奥深さを改めて考えさせてくれる貴重な体験でした。
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