飲食店等から集めた使用済みのコルク栓を再生し、新しい活用方法を試みる「TOKYO CORK PROJECT」。再生コルクから生まれたプロダクトには、製品そのものの魅力に加えて、資源の寿命を伸ばすことで“気持ちの良い選択肢”を増やしたいという想いがありました。サスティナビリティを求められる現代において、捨てられることを前提に環境へのインパクトを考慮したプロダクトブランドが「THE TOKYO CORK」。もの作りと消費スタイルの新しい可能性が広がっていくのを感じます。
大量にモノを消費する大都市。東京都の飲食店に置けるワインの消費もそのひとつで、コロナ以前は日本のワイン消費量の30%を東京が占め、ボトルに換算すると年間1億5000万本にも及んだそうです(※)。ボトルはガラスとしてリサイクルされますが、コルク栓はゴミとして廃棄されていました。コルクは「コルク樫」という植物の樹皮から作られ、ボトルの栓以外にも幅広い分野で活用される天然の高機能素材。一度の利用で捨てられるのではなく、もう一度リユースして素材の寿命を延ばすことはできないか。そう考えて、東京の飲食店から使用済みのコルク栓を集め始めたのが「TOKYO CORK PROJECT」。プロジェクトを運営する「株式会社GOOD DEAL COMPANY」代表の北村 真吾(きたむら しんご)さんにお話を伺いました。
※国税庁「酒のしおり(令和3年3月)」
「21世紀に入ってから、なんとなく“使い捨て” や“大量消費”って気持ちの良いことではなくなってきたと思うんです。世界的には2015年にSDGsが採択されたことは大きいですが、その前からこうしたムーブメントに敏感に反応しているひとたちがいて、彼らのライフスタイルはSNSなどを通して広がりました。 “誰かが決めたから守ろう”という強制的な流れよりも、美味しいとか格好いいとか、気持ち良いから選ぶみたいなポジティブなカルチャーになってきましたよね。そんななか、ワインも美味しくて楽しい飲み物だけれど、飲食業界で働いていたときに大量に捨てられるコルク栓を見て、なんとなく違和感を感じたんです。いろいろと調べていくうちに、素材としてのポテンシャルが高いこと、日本では100%輸入に頼っていたことなどを知り、コルク栓を集めて再資源化するプロジェクトを始めました」
この再生コルクは「永柳工業株式会社」の茨城県にある工場で、職人の手によって作られています。以前、都内にあるホテルのロビーで再生されたコルクを使ったスツールを見たことを話すと、「素材のブランドとして、オーダーメイドでさまざまなプロダクトを提供している」といいます。再生コルクという素材自体をつくっているブランドとして、プロダクトブランドと一緒にものづくりに取り組む。それがプロジェクトを広げていくうえで大切な姿勢だと北村さんは話します。
「 “環境に良いから買ってください”というより、“気に入って買ってみたら、環境にも優しかった”という流れをスタンダードにしていきたいです。良いことのためになにかを犠牲にする気持ちで使うのではなく、プロダクト自体が良くなければ続いていかないと思うんです。ブランドが持つそれぞれの考え方と、お互いが得意とする技術や素材がコラボレーションすることで生まれるエネルギーを大切にしていきたいですね」
北村さんのアトリエにお邪魔すると、まるでシャンパンコルクを思わせるシンプルなスツールが気になりました。以前ホテルで見たものとは少し違うデザインですが、同じ雰囲気を纏っています。再生コルクを使ったプロダクトブランド「THE TOKYO CORK」によるこのスツールは、座面部分のコルクの成形を「田口音響研究所」が手掛けています。田口 和典氏による世界的なオートクチュールスピーカーブランドです。なぜ、世界屈指の音響メーカーがコルクを使って椅子を作っているのでしょうか。
北村さんは当時、コルクを加工するためにNC旋盤を使える工場を探していました。そこで知人に田口音響研究所を紹介され、工場長のエリック・フリアントさんに製作を手伝ってもらっています。
「コルクは初めての素材でしたが、音響素材としても興味はありました。でも、コルクを円錐状に削るのは初めてだったので、何度か試行錯誤が必要でした。ひとつだけ作るのと、量産の仕組みを作るのは違いますからね。柔らかい素材なので、120mmの厚さを1mmずつ削って行くため時間がかかります。最初は北村さんが“自分でやりたい”というので、NC旋盤の使い方を教えていましたが、あるとき刃を壊してしまいました。いまとなっては良い想い出ですが、それからは私がサポートしています(笑)」と、エリックさん。
「THE TOKYO CORK」では、スツール以外にもさまざまなプロダクトを展開しています。そのひとつが「anela(アネラ)」というアニマルフレンドリーなシリーズ。リメイクデニムを展開する「OVERDESIGN(埼玉県)」と老舗枕メーカー「KITAMURA MAKURA(愛知県)」がコラボレーションした「BUDDY BED」や、「畑萬陶苑(佐賀県)」のリサイクル珪土を使用した陶器と、「スタジオリライト(石川県)」による蛍光灯をリサイクルした蛍光管ガラスの器から選べる「BUDDY BOWL」など、共に暮らす動物たちに嬉しいラインアップです。いずれも作り手のこだわりが込められたプロダクトですが、北村さんは「プロダクトデザイナーとベストな生産者を探していったら、結果的に日本各地の素晴らしい職人のみなさんと繋がりました」と、開発の経緯について話します。人間と動物、そして植物の垣根がなくなり、ひとつのプロダクトのなかで融和する。この自然な感じが、なんとも旬な感性を刺激します。
再生コルクの供給者であり、さまざまなメーカーと積極的にコラボレーションを進めていく北村さん。プロダクトへの想いを伺うと「捨てることを前提に作っている」と意外な発言。
「アップサイクルやサスティナブルという言葉は、一般に浸透してきたことでマーケティング手法として一人歩きしてしまっているという側面もあります。環境配慮を装うグリーンウォッシング企業なども問題視されるようなりました。でも、実際問題として一つのものを生涯使い続けるとか、素材によっては永遠に再利用するなんてことは現実的ではない。とはいえ、なにもしないのは気持ちが悪い。だから、私たちは良いものをオーダーベースで生産し、最後に捨てられるときも手軽に素材を分別できるように作っています。無理をすれば、このプロジェクト自体を続けていくことが難しくなってしまいます。自然体で社会へのインパクトを考えることが、私たちの“気持ちの良い選択”なのだと思います。」
北村さんにお話を伺っていると、社会や地球といった大きな言葉が生活やビジネスの一部として自然に出てきます。プロジェクトに手間と労力を注いでいるにもかかわらず、そこには人に押しつけるような力みは感じられず、環境汚染や廃棄物問題についても自らの範囲を超えて語られることはありません。再生コルクをはじめとするリサイクル資源を使ったものづくりは、特別なことではないけれどちょっと素敵なこと。そんな考え方が、結果的には資源消費を抑え、豊かな生活環境を作ることに結びついていました。エシカルやサスティナブルというのはあえて言葉に出して喧伝するようなものではなく、もっと自然に生活に取り入れられるのではないか。これからの“気持ちの良い消費”には、私たちの「受け取る力」が大切になっているのだと、再生コルクから生まれたプロダクトを通して改めて考えさせられました。
公式サイトから商品をお買い求めいただけます。
セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードがご利用いただけます。
https://thetokyocork.com