日本人ビルダーに聞くウクレレの魅力
三井 達也
ukulele studio 七里ヶ浜
日本人ビルダーに聞くウクレレの魅力
三井 達也
ukulele studio 七里ヶ浜

ポロポロと優しい音色が心地よいウクレレ。ハワイアンミュージックだけでなく、ポップスやジャズとも相性がよく、世界中で愛されています。ハワイを象徴する伝統的な楽器ですが、実は日本でも数多くのウクレレビルダーが活躍しているのをご存じですか。日本発のウクレレの魅力を求めて、鎌倉市七里ヶ浜に工房と教室を構えるビルダー三井 達也さんを訪ねました。

いかに華奢に、いかに丈夫に

ukulele studio七里ヶ浜は、江ノ電・七里ヶ浜駅から徒歩10分ほどの丘の上にあります。バルコニーからは海を望み、山からは爽やかな風が吹きおろします。看板犬のルルちゃんに迎えられて中へ入ると、壁一面にずらりとウクレレが並んでいました。
ウクレレには、くびれのあるスタンダード型と丸みが可愛らしいパイナップル型の2つの形があり、「ソプラノ」「コンサート」「テナー」「バリトン」の4つのサイズで種類が分けられます。サイズが大きくなるにつれて音が伸びて深みを増し、表現にも随分と違いが生まれます。
「ウクレレというのは小さなボディで大きな音を鳴らす楽器です。小さな箱をギターと同じように重厚に作ってしまうとボディ内でうまく共鳴せず、音が鳴りません。ですから、ウクレレはあえて華奢に作るのが特徴です。強度を保ちながらどこまで板を薄くできるか、この試行錯誤がおもしろさだと感じています」と話すのは、ハンドメイドウクレレ工房とウクレレ教室「ukulele studio七里ヶ浜」を主宰する三井 達也(みつい たつや)さんです。大阪芸術大学でプロダクトデザインを学び、1990年に国産自動車メーカーに就職。ウクレレとの出合いを機に、プロダクトデザイナーからウクレレビルダー兼ウクレレ講師へと転身した経歴がユニークです。

弾き手思いの緻密な設計

「コロナ禍で立て込んだオーダーもやっと落ち着いてきましたが、それでも2年半から3年ほどお待ちいただいている状況です」と話す三井さんのウクレレは、ファンの間で「ミツレレ」と称される逸品として知られています。そう呼ばれる由縁は、元プロダクトデザイナーのならではの観点で考え抜かれた緻密な設計にあるようです。
「日本人の体格や手の大きさに合わせて、手元が身体から離れすぎない厚みにし、ネックも少し細くしてあります。持って演奏する楽器なので、片手での手捌きがスムーズになるように設計するのです。また手の負担を軽くできるような工夫も所々に施しています。オーダーメードで好みや癖に合わせて細かなところまで調整も可能です」と三井さん。パッと見では気づかれにくいものの、一度演奏してみればその弾きやすさは明白です。ソプラノとコンサートの間に当たる「ミデアム」というオリジナルサイズを作ったり、ピックガードを付けたりと、弾き手でもある三井さんならではの発想も生かされています。

富士山でも演奏できる

技術的な限界への挑戦と遊び心から生まれたオリジナルモデル「F」もユニークです。「最近は行けていませんが、生徒さんたちと富士山に登って、頂上で一曲演奏するというイベントを何年もやってきました」と見せてくれたのは、ソプラノよりも小さいパイナップル型のウクレレ。世界最小のペグ(弦を巻き付ける部品)を使い、ボディも2/3程度まで切り詰めました。ケースも含めても30Lのバックパックに収まります。
「山頂では遮るものがないので、防音室で弾いているような不思議な感覚になります。ただ風も強いので、帰ってくるとサウンドホールから砂が出てきたりすることもありますけどね(笑)」。実際に弾いてもらうと、なんとも可愛らしい音色。しかしながら決しておもちゃではない、楽器としての深みと迫力を感じます。

トレードマークの寄木細工

素材となる木の種類もウクレレの個性を形成する大事な要素。ハワイのカマカ社製に代表される「ハワイアンコア」やギターで知られるマーチン社が採用した「マホガニー」をはじめ、スプルース、トチノキ、シカモアなど、工房には材料が所狭しと並んでいます。
箱根の寄木細工のワンポイントもミツレレのトレードマーク。「ハワイ生まれの楽器を日本で作っているので、日本らしさを表現できないかと思って始めました」と三井さん。また、ヘッドやネックなどに好きなモチーフを入れられるのもオーダーメードならではといえる楽しみ方です。「星、イルカ、ハイビスカスといったシンプルなモチーフの依頼もあれば、『ナイル川』や『モニュメントバレー』といった難題もありましたね」とさまざまなオーダーにも繊細な技術とアイデアで応えてきました。

導かれるように始めたウクレレ

そんな三井さんがウクレレを始めたのは、30年ほど前のこと。「ある日『ウクレレを弾いてみようかな』と思いつきで口にしたんです。そしたらその場にいた同僚がウクレレを持っているから貸してあげるよ、と。人があまりやっていない楽器に興味がありましたし、大学時代に下宿先で聞こえてきたウクレレの音色が記憶のどこかに残っていたのも影響していたかもしれませんね」と当時を振り返ります。
「その頃はウクレレといえばハワイアンミュージックをやるのが一般的でした。ところがあるラジオ番組にウクレレ奏者のハーブ・オオタが出演していて、ハワイアンミュージックではない楽曲を演奏していたんです。ウクレレでこんなことができるんだと驚きました。同じ頃にちょうど友人が幅広いジャンルの楽曲の弾き方を教えてくれる教室を見つけてきて。一緒に通うことになったのがこの『ukulele studio七里ヶ浜』でした。偶然の出合いが重なり、導かれるようにウクレレの世界に進んできたように思います」

スタジオを受け継ぐ

教室に通い始めて5年ほど経った頃、先代がハワイに移住することになり、後継者として三井さんに声がかかりました。 「先代がウクレレを修理したり製作している姿を見て、私もウクレレ作りに興味を持っていました。時々材料を譲ってもらって自分で作っていたのを見込んでくれたのかもしれません。思いがけない話に驚きましたが、レッスンでここへ来る度に海の近くでこんな暮らしもいいな、とぼんやり思っていたこともあり、会社を辞めて引き継ぐことにしました」と三井さん。まだウクレレビルダーという存在があまり知られていない時代になんとも思い切った転身ですが、先代から受け継いだスタジオは2025年で24年目を迎えました。

「自動車のデザインは4年ごとにモデルチェンジし、10年も経てば乗られなくなることがほとんど。自分がデザインしたものが世に出る頃には2つくらい先のプロジェクトに取り掛かっているので、新鮮味や愛着が気薄になっていたように思います。ところが楽器は、誕生したときからずっと同じデザインのままで、廃れることもなく、むしろ世代を超えて受け継がれています。その形に機能的な必然性が詰まっているんですよね。自分が作ったものが誰かの手に渡り、弾き込まれて成長し、故障すればまた私が面倒を見ることができる。責任を持って関わり続けることで、自分にも正直でいられるような気がしています」

小さなボディに詰まった大きな魅力

「一本目は廉価なものでスタートしてもいいと思います。ウクレレを好きになって、自分の好みや癖がわかってきたら、オーダーでオリジナルを作ってみると楽しみが広がるのではないでしょうか。ウクレレは生活に溶け込んでいる楽器です。その辺に置いてあって、ソファに寝っ転がりながらちょっと弾いてみたり、携帯性も良いのでいろんなところで練習ができます。ちょっとたどたどしくても、それも長閑に感じてもらえる緩さもいいところです」と話すように、他の楽器にはない“ハードルの低さ”も魅力のひとつかもしれません。
手にしたその日から奏でられる手軽さと、音を楽しむ喜びを身近な存在にしてくれるウクレレ。忙しい日常の合間に、旅先でのひと時に、誰かと笑いあう時間に。さまざまな場面に寄り添い、毎日を少しだけ豊かにしてくれるはずです。
一本のウクレレから人生が大きく変わった三井さん。何かを始めることは、人生の転機と出合うチャンスなのかもしれません。心の中に留めている「そろそろ始めてみたい趣味」のリストに、そっと加えておきたくなりました。

ukulele studio 七里ヶ浜

〒248-0026 神奈川県鎌倉市七里ヶ浜1-12-27
Tel. 0467-32-4857

https://ukulelestudio.jp

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