湯と本とせせらぎに癒やされる
惣湯テラス/湯河原惣湯Books & Retreat
ソウユテラス/ユガワラソウユブックス&リトリート
湯と本とせせらぎに癒やされる
惣湯テラス/湯河原惣湯Books & Retreat
ソウユテラス/ユガワラソウユブックス&リトリート

古来よりゆっくり読書に耽るひとときは癒やしを得る方法として捉えられてきました。常に情報にさらされ、小さな画面を見つめ続ける現代の暮らしでは、本を読む時間は贅沢なひとときです。2021年に湯河原温泉に誕生した「惣湯(そうゆ)テラス」は、ライブラリーを備えた日帰り温泉施設。源泉かけ流しの湯に浸かり、川のせせらぎに包まれながら読書に耽る。これは、現代の心地良い湯治場体験です。

文学とゆかりの深い温泉郷

都心からのアクセスも良く、奥ゆかしい風情が魅力の湯河原温泉。江戸時代の温泉番付では常に上位に位置し、江戸時代には「薬湯」として幕府に献上していたといわれています。とくに外傷や火傷に効くとの評判から「薬師の湯」として知られ、明治時代は日清・日露戦争の傷病兵の療養所に指定されるなど、湯治場として人々を癒やしてきました。また、この土地は文学とゆかりが深いことでも知られています。万葉集にも「足柄の土肥の河内に出づる湯の 世にもたよらに子ろが言はなくに」と詠まれ、こんこんと湧き出る温泉の様子が恋の情熱にたとえられています。明治時代には国木田独歩、夏目漱石、与謝野晶子といった名だたる文人がこの地を訪れました。

新たに誕生した、知の温泉場

なかでも国木田独歩は湯河原をこよなく愛したことで知られ、『湯河原ゆき』『湯河原より』など、作品の舞台としてたびたび登場しています。こうした由来から、湯河原温泉の玄関口として親しまれる万葉公園内にあった足湯施設は「独歩の湯」と名付けられ、地元住民や観光客の憩いの場として親しまれてきました。しかし、1200年以上の歴史を誇る湯河原温泉も平成不況の煽りを受け、客数の減少や旅館の閉鎖、地域コミュニティの弱体化といった課題を抱えていました。

こうした事情を背景に、2016年から地域全体で「知の温泉場」をテーマに掲げた再生計画がスタート。その一環として町の都市公園である万葉公園の再生事業に「湯河原惣湯」が誕生しました。閉鎖してしまった独歩の湯の跡地が2021年、日帰り温泉施設「惣湯テラス」として生まれ変わります。コンセプトは「Books & Retreat」。あるのは本と静けさのみ、千歳川が流れる森にひっそりと佇む、とっておきの非日常空間です。

惣湯の復活をめざして

「惣湯(そうゆ)」とは江戸時代にあった共同浴場のこと。河原から自然に湧出する温泉を地域の共同湯として大切に管理してきました。日帰り温泉施設をつくるにあたり、古来よりこの地に根付いていた惣湯文化の復活をめざして「惣湯テラス」と名付けられました。旧施設をリノベーションしたダイニング棟は、森に溶け込む黒を基調にした落ち着いた佇まい。1階にはロッカールームとレストランを備えています。回廊のような通路を渡ったところにある浴場棟は、公園内を流れる千歳川に沿うロケーションに新設されました。

半露天の浴場は、葉擦れや川音といった渓流の気配を感じられる贅沢な空間。湯の神を祀る「熊野神社」の膝元とあって、浴場には静粛な空気が流れています。源泉かけ流しの湯は、柔らかく軽やかな湯ざわり。迷路のように仕切られた浴槽は、入る区画によって温度の違いを楽しめるというユニークな作りが特徴的です。サウナもあり、コンパクトながらも十分な設備が整っています。

思い思いの時間を過ごす

惣湯テラスでの滞在を充実させてくれるのが、ダイニング棟2階に設けられたライブラリー。一冊ずつ平置きされた書籍が整列し、足を踏み入れた瞬間に好奇心を刺激されます。プロの選書家によって選ばれた約1,500冊を超す蔵書は、湯河原にゆかりのある文人の作品をはじめ、湯河原付近在住の作家の作品を中心にしたラインアップ。知的で、良い意味で偏った視点が興味をそそります。森を望む窓の付近は読書スペースになっており、好みの席で本を読んだり、何もせずにただ外を眺めたり、思い思いの時間を過ごせる環境が整っています。「静かな豊かさを体験いただきたいので、BGMは流していません。床に座っていただいても構いませんし、壁に寄りかかったり、外階段に寝転がったり。皆さん自由にのびのびと過ごされています」と教えてくれたのは惣湯テラス責任者の根本さん。
施設の利用は完全予約制で、「食事付き5時間」と「食事なし3時間」の2つから選ぶことができます。蒸篭ご飯が付いた季節の旬を頂ける料理も人気です。

惣湯テラスの“秘湯”「奥の湯」

惣湯テラスからさらに上流へ3分ほど歩いたところにある「奥の湯」も必見のスポット。惣湯テラスの利用者のみ、来館時に記名予約制で利用できる貸切り浴場です。館内着を着て川沿いを歩いて向かう道すがら、森の樹々や花の香りに包まれ、湯船とはまた違った癒やしを得ることができます。

シンプルな建て付けの入り口をくぐると、簡易的な脱衣所と小ぢんまりとした程よいサイズ感の浴場が現れます。少し山を登っただけですが、先ほどの浴場とは川の音が変わるような気がします。プライベートな特別感に満たされ、あっという間に時間が過ぎてゆきます。蛍小屋を改装したという待合スペースも実に贅沢な設えで、待ち時間を過ごすだけではもったいない空間です。

温泉場の再生を担う、湯河原惣湯

そして、万葉公園の入り口にあるもうひとつの建物が「玄関テラス」。その名のとおり、湯河原の玄関口としてゲストを迎え、カフェ、観光案内、コワーキングスペース、ライブラリーといったソーシャルな役割を担っています。カフェで購入したドリンクやフードを持って、川沿いのテラス席やウッドデッキなど公園内で自由に過ごすことも可能です。

「玄関テラス」と川沿いに設けられた10ヵ所のテラス、そして「惣湯テラス」を合わせて、施設一帯を「湯河原惣湯(ゆがわらそうゆ)」と総称。「都心からも1時間半とストレスなく来られる距離感ですので、喧騒から日帰りのエスケープ先としてもぴったりです。日本で一番気持ちの良い公園をめざしています」と、根本さんは話します。

読書の秋、現代の湯治場へ

古代ギリシャの図書館の扉には「魂の癒やしの場所」と書かれていたというほど、古来より本を読むことは癒やしを得る方法として捉えられてきました。ある研究によれば読書によるストレス軽減率は6割以上とも言われています。根本さんが「お連れ様と来られても、個々の時間に没頭できる空間です。ですからお一人でも気兼ねなくご利用いただけます」と話すとおり、敷地内はソリチュードにぴったりの雰囲気。

どこでもできるのが読書のメリットですが、読書に没頭できるお気に入りの空間を知っていることは、雑念の多い現代の暮らしにおいて大きな意味を持ちそうです。源泉かけ流しの湯に浸かり、心と身体をほぐしたあとに、森の中のリトリートで読書に耽る。読書の秋が深まる頃、知と癒やしを求めて、現代の湯治場「惣湯テラス」へ出掛けてみませんか。

湯河原惣湯Books & Retreat

〒259-0314 神奈川県足柄下郡湯河原町宮上566番地

玄関テラス(カフェ)
Tel. 0465-43-7830
営業時間:10:00〜17:30
定休日:第2火曜日

惣湯テラス(温泉)※完全予約制
Tel. 0465-43-8105
営業時間:10:00〜18:00(最終入館時間 16:30)
定休日:水曜日、第2火曜日

セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードが
ご利用いただけます。
https://yugawarasoyu.jp

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