「1本の木をまるごと使い切る」というテーマで、林業に向き合う「東京チェンソーズ」。木材の生産やプロダクトの開発を通じて、山と人とのつながりを提案しています。2024年には枝や根株、板にできないサイズの広葉樹など、普通の流通では出回りにくい部材を活用したブランド「木山もの/somamono」を新たにローンチしました。東京の山を育て、捨てられてしまう木材にも価値を与える“森のプロフェッショナル”たちにお話をうかがいました。
アスファルトと高層ビルに囲まれた世界有数の大都市「東京」。しかし、多摩地域をはじめとする実に4割もの面積を森林が占め、東京は意外にも自然が身近な都市でもあります。これらの多くは、戦後の建設ラッシュを前に植えられた木材用の人工林。植林から約70年の年月が経過したスギやヒノキは、その多くが収穫期を迎えています。しかし、輸入木材の影響で国産木材の需要は落ち込んだため、多くの職人が林業から離れて深刻な人手不足に陥っています。1960年には2000人を超えていた東京都の林業従事者も2020年にはわずか350人にまで減少。木材の自給率は2000年ごろが一番低く、20%を切る状態でしたが、2005年からは少しずつ上昇し、2020年以降は40%台となっています。為替や資材高騰を背景に、主要な消費地である都市部に近い東京産の木材は新たな活用が期待されています。
そもそも人工的に植林された森は自然のサイクルから離れ、人間による手入れを必要とします。そんな現代の東京の森で活動するのが「東京チェンソーズ」。檜原村を拠点に林業を営んでいます。山の所有者から森の管理を委託され、間伐や伐採から木材の販売、プロダクトの開発、森林空間の活用まで一貫して活動している点がユニークです。コミュニケーション事業部の木田 正人(きだ まさと)さんにお話をうかがいました。
「もともと私は雑誌の仕事をしていたのですが、自然の中で働く仕事に憧れていました。それで林業に興味を持ち、『東京都森林組合』に入ったのです。その昔、山の所有者はどのように山を育てたいかイメージしながら自分で管理していました。しかし、現在では広大な山林を受け継いだもののどうしたら良いかわからない継承者がほとんどです。そうした山林が放置されて土砂災害などを引き起こさないために、東京都森林組合では山の持ち主から委託された山林で、国からのサポートを利用しながら間伐などの森林整備をしていました。しかし、効率的に管理をしようとすると作業が画一化されてしまい、山の状況に合わせた手入れをすることが難しくなってしまいます。そこで、本来の林業に立ち返ろうと独立し、仲間と立ちあげたのが東京チェンソーズです。地域に根差し、組合とも連携しながら山や森の特性に合わせた森の育成を行っています」
東京チェンソーズでは森の管理だけでなく、育てた樹木を1本丸ごと活用できるプロダクトも開発しています。2024年に立ちあがった新しいブランドが「木山もの / somamono」。「杣(そま)」という言葉は、木材を生産するために人が木を植えた山や森林を意味します。本来は一文字で表現しますが、「木」と「山」を分けることでひとつの山、一本の木に込められた物語を知ってほしいという願いが込められています。「苗木を植え、下草を刈りながら見守り、枝打ちや間伐といった保育作業を行いながら長い年月をかけて育ててきた樹木の魅力を余すことなく伝えたい」と、木田さんは話します。ラインアップは現在スツール、テーブル、トレーの3種類で構成されています。それぞれに森での活動を生業とする人々の想いが込められ、木の持つ素朴な表情を活かしつつも高度な技術で加工されているのが特徴です。
これまでも森の素材を使ったプロダクトを作ってきましたが、木を無駄にしないこと自体にフォーカスした製品も多く、デザイン性や商品としての精度に踏み切れなかった部分があったと言います。そこで、素材の魅力と技術力の高さを認知してもらうために、改めて自分たちの姿勢を伝えていく必要があると考え、ブランドを立ちあげました。プロダクト製作を担当した工房長の関谷 駿(せきや しゅん)さんにお話をうかがいました。
「生まれは東京都墨田区ですが、少年時代は羽村市で育ち、里山で遊んでいました。中学生の時に不登校になり、自然に癒やされる経験をしたのが森との原体験です。高校へ進学した時に、自分が自然からもらった癒やしを都会の人たちにも届けたいと思うようになり、専門学校では自然環境について学びました。東京チェンソーズにはインターンで入り、その後は造園土木などを経て正式に入社しました。10歳の時に電動糸鋸を買ってもらって以来ずっと木工が趣味だったこともあり、フリーハンドのものづくりが得意です。ただ、技術はあってもプロダクトデザインとしての精度を高められなかったので、『木山もの / somamono』では外部のデザイナーと連携しながらプロダクトを開発しました。1本の木の半分ほどしか活用できていない木材産業界において、捨ててしまう残りの部分を活用して利益にすることはとても価値があると考えています」
「木山もの / somamono」のプロダクトは木の温もりや優しさだけでなく、山そのものが持つ生命力や厳しさ、そしてありのままの美しさを伝えているように感じます。とくにスツールは「山」と「街」という普遍的なイメージを明確に可視化したアプローチが新鮮でした。木の美しい表情を活かした丸棒で組んだ「街のスツール marubou」と、枝の歪みや節などをそのまま活かした「山のスツール eda」は、並べることでそのユニークさが際立ちます。関谷さんは「規格の定まらない枝を使って一定以上の構造を支える仕組みは高度な木工技術が必要で、開発するのに1年以上の歳月をかけた」といいます。こうした枝や細い幹は、一般的には活用されることのない端材。活用する手間を惜しめば廃棄され、山にも街にも価値や利益を生むことはありません。
都会で暮らしていると自然の森や山を身近に感じることは難しいかもしれません。ましてや一本の木をじっくり眺めてみたり、その木が育った長い年月に想いを馳せたりすることはなかなかありません。しかし、まだ木の香りが残る「木山もの / somamono」のプロダクトに触れていると、私たちの暮らしはちゃんと森と繋がっているのだと安心します。樹木が落とした葉は土になり、栄養を含んだ柔らかい土が新しい木を育てる。大地に雨水が染み渡ると長い年月をかけて磨かれ、やがて沢から川を通って海へと流れていく。海の栄養は海産物を育み、世界を巡ります。そして、大地のミネラルを含んだ綺麗な水がおいしい農作物を育て、やがて私たちの身体をつくる栄養になる。森はこの大きな循環の一部であり、これらの自然は手つかずのものではなく、林業に携わる人々が手を加えながら育て、守っているものなのです。「山仕事承ります」という彼らの言葉が、実に頼もしく感じました。
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