2025年4月にオープンした、丸善ジュンク堂書店による「magmabooks(マグマブックス)」。興奮と創造性に焦点を当てた新しいスタイルの書店です。インスピレーションを掻き立てる書棚だけでなく、創造性を引き出すクリエイティブな空間に仕立てられ、これまでにないユニークな書店体験を提案しています。
日本における本屋の歴史は江戸時代に遡ります。出版と販売を兼ねる「書林」が登場し、学術書や庶民向けの挿絵が入った草双紙(くさぞうし)などを扱っていました。明治以降は近代的な出版流通が確立。1980年代、街の個性的な本屋さんから駅前の大型書店までさまざまなバリエーションが林立します。文庫や新書はもちろん、専門書から雑誌、写真集やコミックなど多様な文化を育んできました。しかし、オンラインで本が買えるようになり、2000年代初頭には全国で約2万店あった書店は、2023年には約1.1万店へと半減。街から本屋が姿を消し、大型店舗はテーマ性の高い体験型の文化拠点へと進化します。その最先端ともいえる新しい試みが、丸善ジュンク堂書店の新業態「magmabooks」。本を読む前から知的な興奮を覚える書店です。
場所は虎ノ門ヒルズのステーションタワーと森タワーの間に位置する「Glass Rock」内。社会課題解決に取り組む共創コミュニティとも連携し、ソーシャルアクションの一翼を担います。「知は熱いうちに打て。」というコンセプトを体現するマグマというネーミングも「ふつふつと知的興奮が湧き立つ感情」というイメージから名付けられたもの。店内は2階と3階に分かれ、書店における体験をさらに進化させています。フロアを結ぶ階段の壁面には、名著から一節を切り取った「言葉の雨」が降り注ぎ、ふらりと訪れただけのはずが、すっかり読む気にさせられてしまいます。店内は主に書籍が並ぶ「書棚エリア」と想像力を発散させる「magmalounge」エリアで構成されていて、図書館に近い機能を備えています。本との出会いから読後の余韻まで、一貫した知的体験を提供している新しい本屋です。
2階はテーマに沿って選書された「FOREST of knowledge」となっており、森に見立てたオリジナルデザインの書棚がユニーク。現在、過去、未来にゾーニングされた書棚を目で追っていると、迷路のようにさまざまなテーマに出合います。これらの選書は丸善ジュンク堂の書店員によって横断的に集められたもので、まるでインスピレーションのセレンディピティを引き寄せてくれるようです。もうひとつの仕掛けが「問い」を片手に書籍を巡る「問い散歩」。つい手に取りたくなる魅力的な問いかけが並び、その答えやヒントとなる書籍が裏面に紹介されています。その書籍を探し、迷っているうちにまた新たな問いや気づきに出合う。まさに知の森に迷い込んだ興奮に頭が沸騰してしまいそうです。
3階には新刊やジャンルがわかりやすくまとめられ、ビジネスやアート、雑誌などが並びます。書棚エリアで知的な刺激を受けたあと、そのインスピレーションを発散できるのが「magmalounge」(有料)です。読書や執筆、仕事など、多目的に使えるデスクエリア「FOCUS」ゾーンは、ハニカム構造の半個室と完全個室タイプから選ぶことができます。ドリンクやスナックなどが含まれて1時間1,800円(半個室)と料金も手頃で、思いついたアイデアを形にしたり、じっくり読書をしたいと思ったときにすぐ利用できる手軽さが魅力です。さらに特筆すべきスペースが、集中から解放される「CALM」ゾーン。照度が落とされた瞑想室のような空間には、「サウンドビオトープ・システム」による水の滴る音が空間を包みます。目を瞑って呼吸に集中していると興奮気味だった脳が休まり、思考がクリアになることで再び創造力が漲ってくるのがわかります。
書店の在り方に一石を投じるmagmabooks。店長の渡辺 泰弘(わたなべ やすひろ)さんに、立ちあげの経緯についてうかがいました。
「丸善ジュンク堂は、これまで比較的大型の書店を全国に展開してきました。しかし、必要な本を探す場合においてはPCやスマホの検索に敵いません。そこで“本との出会いを提供する場所”という原点に立ち返ることでmagmabooksは生まれました。統計やデータからだけでは出てこない“本のプロ”による独自の選書はもちろん、ふつふつと湧き上がってきたインスピレーションをその場で発散できるラウンジなど、本との出会いによって得られる体験をさまざまな切り口から提案しています。書棚を眺めていて自身でも気づいていなかった興味や関心が刺激される体験は、リアルな書店ならではといえる醍醐味です。棚の左上からベストセラーや入門的なタイトルを並べ、言葉のコントラストや装丁デザインも楽しめるように、奥の本が見えるようにレイアウトを工夫しています。人類が紡いできた物語や想いに、時を超えて出合い、触れること。それは、読書によって得られる体験の本質だと思っています。これからの時代に相応しい新しい書店の在り方を今後も探究していきたいと思っています」
私がmagmabooksを知ったのは、銀座線の虎ノ門駅から日比谷線の虎ノ門ヒルズ駅へ乗り換える途中のこと。地下1階の「Glass Rock Gallery」にて開催されていた「本でちょっと立ち話-越境-」という展示をたまたま目にしたことがきっかけでした。展示されている書籍が買えるという案内に従いmagmabooksの店内に足を踏み入れると、 “普通の本屋”とはまるで違う本屋の在り方に心が浮き立ちました。テーマやタイトルの並べ方も斬新で、まるで親しくなった友人の本棚を垣間見るような親近感を感じます。「タイパやコスパも大事ですが、良い本との出会いは一生心に残る」という渡辺さんの言葉に、本と出会う意義を再認識しました。時を経てなお輝く物語や先人の言葉に触れ、紙の手触りを感じながらページをめくる悦び。秋の夜長に読みたくなる一冊を求めて、知の森に迷い込んでみてはいかがでしょうか。
〒105-0001東京都港区虎ノ門1-22-1 グラスロック2F・3F
Tel. 03-6273-3873
セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードが
ご利用いただけます。
https://www.instagram.com/magmabook/