伝統と革新がひと皿に
寿し芳×割烹 いずみのコラボレーションディナー
伝統と革新がひと皿に
寿し芳×割烹 いずみのコラボレーションディナー

かつて大阪で一年にわずか3ヵ月だけ暖簾を掲げる“幻の寿司店”として名を馳せ、現在は拠点を海外に移した『寿し芳』。その寿司シェフである、中ノ上 公起(なかのうえ ひろき)氏と『割烹 いずみ』の料理長 眞﨑 将平(まさき しょうへい)氏との共演がTHE HIRAMATSU 京都にて開催されました。伝統と革新がひと皿に宿るエキサイティングなコラボレーションディナーは、和食の新たな可能性に満ちていました。

同じ風土に育ち、それぞれの美を結ぶもの

日本料理と寿司。どちらも代表的な「和食(WASHOKU)」として世界に知られていますが、そのルーツは大きく異なります。宮廷料理や武家社会に端を発する日本料理は、季節感や器、空間の設えに至る総合芸術として発展してきました。一方で、魚を米で発酵させて保存する「なれずし」をルーツとする寿司は江戸時代のファストフードとして花開き、食のイノベーションとしてさまざまなスタイルを生みだしています。同じ風土に育ちながらもそれぞれ伝統と革新を繰り返しながら今日まで発展してきた日本が誇る食文化は、現在では「和食(WASHOKU)」としてユネスコ無形文化遺産に登録され、日本におけるガストロノミーツーリズムを牽引する役割を担っています。2025年夏に、THE HIRAMATSU 京都を舞台に料理の新しい可能性を感じさせる特別なコラボレーションが実現しました。

舞台はTHE HIRAMATSU 京都

THE HIRAMATSU 京都の『割烹 いずみ』で料理長の眞﨑 将平(まさき しょうへい)さんと一緒に腕を奮うのは、大阪市北区の『寿し芳』を『ミシュランガイド京都・大阪2016』の二つ星にした中ノ上 公起(なかのうえ ひろき)さん。日本で二つ星を8年間にわたって維持したのち、現在は拠点をアジアへと移し香港と台湾、深圳で寿司店を展開しています。そのうちのひとつである台北の店は『ミシュランガイド台北・台中・台南・高雄2022』で一つ星に掲載されて以来、現在までその評価を維持しています。独創的な寿司の世界を築き上げた中ノ上さんと、オーセンティックな日本料理をベースとする眞﨑さんとのコラボレーションは、まさに伝統と革新の融合。カウンターの上でどのような物語が始まるのか、期待が高まります。

普通の料理には興味がない

日本でゲストを前に寿司を握るのは実に2年ぶりという中ノ上さん。今回のコラボレーションについて、お話をうかがいました。

「私が18歳のときに父親が亡くなって以来、寿司店を受け継いでからずっと独学で試行錯誤を繰り返してきました。江戸前寿司に憧れ、食べ歩いたり本で勉強したりして、やりたいことはたくさんありました。東京の江戸前寿司で修行させてもらっても、生来の性格から自分の我も出したくなり、 “王道”や“普通”に対する抵抗もあって、いろいろなことを我慢していたように思います。それでも少しずつ腕も上がり、大阪では江戸前の寿司屋が珍しかったことも手伝ってお客様に贔屓にしていただくようになったのです。やがて海外からの評判も得てミシュランに掲載されると、天邪鬼になって普通の寿司は握りたくなくなってしまいました。自分の料理の方向性を探っているときに海外との縁ができ、向こうで自由にやれる環境を得たのです。私の料理は普通ではありません。誰もが美味しいと思うような料理ではなく、食べた方の1%でいいから一生忘れられなくなるような料理を提供したいのです。しかし、アジアの各地を転々とするなかで、改めて伝統的な日本料理への敬意も感じるようになっていました。そんなタイミングで眞﨑料理長とのご縁をいただき、今回のコラボレーションに至りました。メニューの仕立てを決めるにあたって、しっかりと伝統に根差し、素材の味を最大限に活かす眞﨑さんの料理からは学ぶことが多かったです。本番ではどんな物語が始まるのか、私も今から楽しみです」

新たなインスピレーションに期待

2023年からTHE HIRAMATSU 京都の『割烹 いずみ』で料理長を務める眞﨑さんは、嵐山の『京都吉兆』で9年間修行を積んだ料理人です。伝統の上に自身の料理を求める姿はまさに温故知新。中ノ上さんを迎えるにあたって、どのような気持ちなのでしょうか。

「ひらまつにはたくさんの料理人がいるので、社内でコラボレーションをする機会はありました。でも、ひらまつ以外の料理人と一緒に厨房に入るのは初めての経験です。懐石でも八寸でお寿司を握ったり、蒸し寿司などをお出ししたりすることはありますが、本格的な江戸前をさらにオリジナルの領域まで昇華させている中ノ上さんの技やアイデアからはたくさん刺激をもらいました。例えば、マグロとスイカのような違う味を色で合わせたり、同じ素材でも食感や形を変えて組み合わせたり、その発想力には驚かされます。まるで実験のようでもあり、自分の引き出しもクリエイティブなアイデアで一杯になりました。今回お出しする『鮎の焼き唐揚げ』も20種類以上の試作を繰り返したひと皿です。また、0.01gを計れるスケールでレシピを緻密に組み立てる一方で、お客様にお出しする直前まで試行錯誤を繰り返すのですから、世界の最前線で戦う料理人の姿勢を垣間見た思いがします。食材選びや調理法のバックグラウンドが異なるからこそ、この数ヵ月は刺激に満ちていました。スタッフにも、私が主体で調理をしている時の動き方と中ノ上さんのサポートに入る時の動き方の違いを見せることができるなど、チーム全体の経験値が上がったのを実感しています。キャリアのなかでも記憶に残る経験になったと思います」

ショットの乾杯から始まる特別な夜

会期中のある夜のコースをご紹介します。
スタートは中ノ上さん考案の「新子SHOT!!!」。江戸前寿司の夏の風物詩である新子を酢と一緒にひとくちで飲み干すスタイルは、まるでテキーラのショットを彷彿とさせます。中ノ上さんと眞﨑さんはお猪口に薫り高い白酒を注いで乾杯、お客様とともに特別な夜のはじまりを祝います。漬けマグロの塩味と炒めた西瓜の甘味にスパイスを効かせた「マグロ西瓜豆板醤」、春巻きの皮の食感と柴漬けの白和えが濃厚なウニの味と不思議なほど合うタルト、クリームチーズの酸味と海苔の香りのコントラストにスナックのような食感が楽しい「雷干しコーン」など、圧倒的な味覚と食感のエンターテインメントが続きます。椀ものはスッポンの飛竜頭(ひりょうず/関西版がんもどき)に初物の松茸をあわせました。長く続いた酷暑に疲れたからだがじわりと癒やされ、ほっと一息。そして京都の夏の風物詩、鱧は粥寿司に。粥寿司は山形県の郷土料理で、発酵させたトマトのソースが梅酢のように鱧を引き立てます。珍しい鱧の子の塩辛とカラスミの塩梅が上品で、シャリで頂くお寿司とはひと味違う体験が新鮮なひと皿でした。

想像と創造がぶつかるひと皿

晩夏から初秋にかけての旬を余すことなく堪能できるコースは、ハイライトに向けて盛り上がりを見せます。
眞﨑さんの考案した「タコの生春巻き」は、見た目のインパクトもさることながら、梅肉のソースとアーモンド醤油の香ばしさをそれぞれ楽しめます。風味とテクスチャが複雑に入り交じり、タコの味わいに奥行きを与えます。20回以上も試作したという「鮎の焼き唐揚げ」は、難易度の高い一品。サクサクした食感と香ばしい香り、そして鮎の甘味がパウダー状にしたタデの苦みで引き締まり、食欲をそそります。目にも涼しげな「鮑の冷やし担々麺」は、ハスの葉にのせられたジュンサイをスープに落としてつけ麺のように頂きました。万願寺唐辛子と鰹に効かせた柚子胡椒の爽やかな辛みとともに、夏の名残を惜しむようなひと皿です。台湾の屋台で食べる「蛋餅(ダンピン)」には、鰻とトウモロコシ、木の芽をのせて春巻きのように巻いて頂きます。五味のすべてがモチモチの皮に包まれ、なんとも奥深い味わい。付け合わせの桃の浅漬けがなんとも爽やかです。そして味覚のエンターテインメントは最高潮を迎えます。満を持して出てきたのは、美しい握り8品。卵の海苔巻きのうえに海老のにぎりをのせているのは、江戸時代の文献に出てきたスタイルを模したもの。江戸前寿司の真骨頂ともいえる丁寧な仕事が施されたネタと小ぶりなシャリの一体感は絶品のひと言。それでいて鯵の棒寿司にはバルサミコを使うなど、新鮮な驚きにも満ちていました。

新しい“WASHOKU”の萌芽

初日を終えて「眞﨑さんとの料理だけでなく、久しぶりにお客様との会話を楽しみながら一体感が得られた」と、中ノ上シェフ。一方眞﨑さんは「自分にはなかったものをたくさん得られ、海外での料理も経験してみたくなった」と話します。
料理人とは世界中の食材を扱い、自分の思い描いた味をひと皿に表現する職人であり、芸術家でもあります。しかし、お店を構えるとそこから自由に離れることはなかなか叶わず、お客様をお迎えするために準備をし、ひたすら待つ仕事でもあります。ましてや他のプロフェッショナルと一緒に仕事をする機会に恵まれるということがいかに貴重な経験か、二人の嬉々として調理に向かう姿を見ていると良く分かります。日本を超え、アジア全体の風土が渾然一体となったコース料理は、和食の新しい可能性に満ちていました。それぞれがこれからどのような新しいWASHOKUを世界に魅せてくれるのか、フーディならずともその日が楽しみになる一夜でした。

THE HIRAMATSU 京都

〒604-8174 京都市中京区室町通三条上る 役行者町361
Tel. 075-211-1751

セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードが
ご利用いただけます。
https://www.hiramatsuhotels.com/kyoto/

割烹 いずみ

ご夕食: 18:00~21:00(19:00 L.O.)
定休日: 不定休

セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードが
ご利用いただけます。
https://www.hiramatsurestaurant.jp/izumi/

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