ただ在るだけで美しく、心地良い
wa/ter
ウォーター
ただ在るだけで美しく、心地良い
wa/ter
ウォーター

高価なもの、安価なもの、便利なもの。溢れんばかりにさまざまな商品が市場に並び、何でも手軽に手に入る時代。自分の人生を自分らしく生きるためには、そのなかからひとつずつ丁寧に選び出さなければいけません。今回ご紹介する「wa/ter」は「人や環境とともに循環していくプロダクト」をテーマにしたブランド。インテリアデザイナーとして活躍する小倉 寛之さんは、なぜこのプロジェクトを始めたのでしょうか。彼の手掛ける淡路島の宿泊施設「 ISLAND LIVING」でお話をうかがいました

疑問こそが出発点

ユニークなプロダクトブランド「wa/ter(ウォーター)」の小倉 寛之(おぐら ひろゆき)さんは、大阪を拠点に全国の商業施設やホテルなどのデザインや設計を手掛けるインテリアデザイナー。「DRAWERS(ドロワーズ)」というオフィスを主宰し、自身も現場で設計やデザインを手掛けています。社名には「線を引く(Drawing)」ことと、アイデアや新しい可能性を「引き出す(Draw)」という想いを込めました。様々な空間に携わるうえで、新しいものを作るために次々と壊されていく現状を見て、クリエイターが提供するべき本質的な価値に疑問を抱いたそうです。ブランド名の「wa/ter」は「水平を疑い、見え方を変えてみる」という意味で付けられ、素材やプロダクトの存在そのものが持つ魅力を追求しています。

等身大のサステナビリティ

ブランドの根底には「廃れない時代性を備えた良質なプロダクトこそ、クリエイティブの本質である」というサステナブルな発想があります。仕事柄、さまざまなプロダクトの生産現場へ足を運んでいた小倉さんは、生産プロセスの“ついで”に生まれた廃棄物に目がとまったそうです。そこには“無駄をなくそう”とか“環境のため”といった気負いはなく、純粋に「綺麗だな」と感じさせる魅力がありました。

「ブラウン管や蛍光灯の再生ガラス、合成樹脂加工の調色用ブロックなど、生産現場に置いてあった素材自体に惹かれたんです。例えば再生ガラスをキャストという型に流し込んでみると、無機とも有機ともつかない不思議なフォルムを持ちます。キラキラと輝くだけで、何の用途も持たないその存在は、まるで“光の容れ物”のように感じたのです。特定の機能を持たないからこそ廃れない。“純粋な存在”としてのプロダクトがあってもいいのではないかと考えました。時間や発想に制約のない仕事をしたいという想いと重なり、ただ美しい素材としてのプロダクトを作ってみたかったのです」

規格と余白のコントラスト

その思考プロセスは仕事にも影響を与えます。「自分たちが欲しいと思えるものを作ったことで共感して仕事を頼んでくれるクライアントが増えた」と言います。

「スクラップアンドビルドはなぜ起きるのかを考えたとき、その責任の一端は自分たちにもあるという事実に向き合えたんです。それからは商業建築においてもゼロベースの発想だけでなく、すでにあるものの魅力を引き継ぐような設計が自然と提案できるようになりました。お客様も我々の考え方を理解して依頼してくれるので、クリエイティブの幅が広がります。インテリアプロダクトも同様で、機能や合理性から生まれた“規格モノ”だけでは豊かさを感じられなくなってきているのではないでしょうか。整然とそろった気持ち良さも大切にしつつ、どこか余白のようなものを取り込む余裕が欲しいなと。それを心地良いと感じるようになりましたね」

©wa/ter

命を吹き込まれた素材たち

「wa/ter」ではさまざまな素材を扱っています。鮮やかなアクリルの塊は、製品を作るうえで必要な調色という工程で生まれたもので、表と裏で異なる表情を持っています。一輪挿しなどにデザインされていますが、その無垢な佇まいは空間に柔らかな彩りを添えてくれます。有機的なガラスのオブジェは、蛍光灯やブラウン管テレビのガラスを再生したもの。役目を終えた存在に、お香立てやリングピローなどの新しい役目を与えています。実際に手に取ってみると機能性よりも素材自体の持つ美しさに強く惹かれました。家具などの木工製品を製作する過程で生まれた木の端材をリデザインしたブロックは、木工家具の職人による積み木に。少し積み上げにくいところもポイントで、厳選された木材の木目や素材の色味などをじっくり堪能しながら意外とハマってしまう玩具です。ほかにも愛知県尾州地方の再生ウールを使ったブランケットやヴィンテージ家具、書籍やフレグランスなど、暮らしに余白を与えるアイテムは多彩です。

未来のために何を作るか

今回取材をさせていただいた淡路島の宿泊施設「 ISLAND LIVING(アイランドリビング)」も、いわば「wa/ter」と同一線上のプロジェクトのように感じます。これからの暮らしにおけるヒントがたくさん詰まっているような場所でした。

「アイランドリビングは古民家をリノベーションしたもので、砂浜が目の前というロケーションと、巨大なアローカリアの借景が気に入っています。光や風、温度などを感じるための別荘のような場所で、ゲストも含めみんなが思い思いの過ごし方をしています。今後は淡路島の魅力を活かしたコミュニティや、地場産業などの歴史ある営みを未来へつなげるようなプロジェクトも考えています。今年はアイランドリビングの近くにアロマオイルを精油から作るための施設も企画しています。これもこの島の特性を活かしたアイデアで、新しいモノと古いモノ、街と自然、便利と手間など、相反する両方を楽しむライフスタイルが豊かさの幅を広げてくれる気がしています。自分たちの仕事を通して未来につながるデザイン、未来に残せるクリエイティブを続けていきたいですね」

何に価値を見出すか

知り合いのデザイナーから初めて「wa/ter」のプロダクトを紹介されたとき、不思議な引力のようなものを感じました。ひと目見て気になる存在感というか、何に役立つかを考える前に所有したくなる感覚。真っ青なフラワーベースが自宅に届いたときは、こどもの頃に抱いていたようなワクワクした気持ちに満たされました。私たちが生活を送る「家」という場所は、どうしても暮らしに必要なモノで溢れてしまいます。役に立つモノと、それらの残骸に囲まれていると、ときおり無性に“ただ欲しくなる瞬間”があります。それは家具であったりアートであったり食器であったり。すでに同じような機能のアイテムは持っていて、ことさら必要なわけではないけれど、あることで暮らしを豊かにしてくれそうな愛しいモノたち。小倉さんの言葉は、「好きなモノをそばに置いておく幸せもある」ということに気付かせてくれました。存在そのものを肯定する優しい目線は、これからの社会に「豊かさとはなにか」を問いかけているようです。「自然と直結するような香りのプロジェクトを考えている」とのことなので、今後の展開が楽しみです。

wa/ter

公式サイト、オンラインストアから商品をお買い求めいただけます。
セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードが
ご利用いただけます。
https://water-sup.com

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