「雨の日も晴れの日も心からくつろげる暮らし」をコンセプトに、美しい工藝やアートを取り扱う「雨晴/AMAHARE」。東京・白金台にある店舗には器を中心に日本全国からアイテムが集められ、地域性や作り手の個性を感じられるラインアップが人気を集めています。2023年秋、京都に新しいお店「KYO AMAHARE」がオープンしました。錦市場の一本北の筋にある京町家には、中心地でありながら自然と寄り添った心地良い時間が流れています。
富山県高岡市に本社を構えるオモビト株式会社。BaxterやMERIDIANIなどの家具の輸入をはじめ、住宅やホテル、空港といったパブリック空間のインテリアのスタイリングなど幅広い領域で事業を展開しています。そのひとつが東京都港区白金台に店舗を構える「雨晴/AMAHARE」です。日本全国から集められる珠玉の工藝品たちは、「ものの決めごと」という11カ条に則ってセレクトされています。オーセンティックでありながら現代の暮らしや価値観にフィットした独自の世界観は、国内のみならず海外にも多くのファンを生みました。「作家やその作品を通して、自然を暮らしに取り込む豊かさや面白さを学んだ」と話すのは、雨晴事業部の責任者でディレクターを務める金子 憲一(かねこ けんいち)さん。さっそく、2023年11月に誕生した「KYO AMAHARE」を案内していただきました。
雨晴の新しい舞台となるのは、錦市場の一本北の筋にある京町家です。日本人が古来より育んできた自然に対する優しい視点を大切にしながら、現代における心地良い暮らしとはなにか、真摯に問いかけています。
「雨晴のプロジェクトがスタートしたのは北陸新幹線が開通した年で、富山では雨晴海岸(あまはらしかいがん)のポスターを起用していました。社長が現地に連れて行ってくれたことがあって、こんな綺麗な場所を知らなかったんだと思いました。“あまはらし”という言葉も気持ちが良い響きで、自然を取り込みながら暮らしを豊かにするという私たちのビジョンによく馴染む言葉だったので『雨晴』と名付けました。東京に1店舗目を出すときの物件探しは大変でしたが、感度の高い大人が集まる街でもあり、住宅街でもある白金台の物件と出合いました。人が暮らす街で、日用品である工藝のお店を出せたのは幸運だったと思います。その後、コロナ禍では世界各地からオンラインで注文が来るようになり、海外での展開を考えるようになりました。そのときに、まずは京都で始めてみるべきではないかと思ったのです。京都の自然や街、そして人に触れ、時間の流れに身を置くことで、改めて日本人の精神性や美意識を学ばせてもらう。それがKYO AMAHAREを始めるきっかけでした」
こうして出合った歴史的価値のある京町家は、すばらしい状態だったといいます。「ただ、110年前の建築物なので、図面がないのです。なので、まずはこの建物を通して昔の職人たちから色々学ばせていただこうと、町家の調査から始めました」と、町家の専門家である、株式会社 ki-yaの清水宏治さんと有限会社木下建築設計事務所の渡邉篤美さんに調査を依頼。内装設計は白金台店も手掛けたデザイン事務所「TONERICO:INC.(トネリコ)」にお願いしました。“品格とモダンさ、そして自然を感じる空間”というオーダーに対して的確にデザインを提案するものの、清水さんや渡邉さんからその都度“ちょっと待った”と声がかかります。110年前の貴重な建物を可能な限り残したい専門家たちと、現代の工藝作家の作品が映えるモダンな空間を創る為に妥協はできないクリエイティブチームの真剣勝負。「やるのか、やらないのかという意思決定をみんなが納得できるように進めるため、それぞれの提案を慎重に吟味しました。時間も労力もかかりましたが、おかげですべての部分に思い入れのあるすばらしい空間に仕上がりました」
もともと布や布製品を扱う商店だったこの空間を魅力的にしている要素のひとつが「庭」です。玄関から室内へと緩やかに繋ぐ「通り庭」、手前の和室に自然を取り込む「中庭」、そして母屋と蔵の間に位置する「奥庭」。この三つの庭があることで空間の内と外の境界線が曖昧になり、建物のどこにいても季節のシズル感を感じさせてくれます。陽の移ろいを陰で感じ、雨の気配を風が運ぶ。自然とともに時間が流れていくのを感じます。あるとき、伸びきった中庭を整理しているとつくばいから銅でできた蟹の置物が出てきたそうです。「水辺に蟹を置くという遊びと、素材に銅を選ぶことで水を綺麗にするという機能性を兼ねているのでしょうと渡邉さんが教えてくださいました」と、金子さんもその知恵に脱帽の様子。庭は外と内の緩やかな結界のような役割だけでなく、暮らしにおける遊び心をそっと偲ばせる場所でもあったのかもしれません。
この場所では、作品を預かっている作家とのコラボレーションも考えていたという金子さん。和紙作家のハタノワタルさんに、内装の一部を相談していましたが、どこで実施するか決め手がないまま解体作業にはいったとのこと。そんななか、階段脇から古い和紙を貼り付けた壁が出てきました。
「その和紙は書道などを勉強した後のいわば裏紙のようなもので、だからこそ当時の暮らしぶりをリアルに感じさせるものでした。壁の手前にはKYO AMAHAREを象徴する階段を木で制作する予定でしたが、和紙の壁に導かれるようにハタノさんにすぐに相談をして、“壁はそのまま残し、この階段を和紙にしよう”となりました。新しく作り直した和紙の階段を上ると、110年前の和紙の壁が現れる。そのドラマチックな展開を想像してワクワクしたのを覚えています。しかも、この階段は土足のままでいいというから驚きました。ハタノさんは“破れたらまた貼って直せるのが和紙の良いところ”と、歯牙にもかけない様子でした。和紙を使い込んでいくことで段々と110年の和紙に近づいていくというコンセプトで進めればよいのでは?”というハタノさんの提案にも痺れましたね」
ブランドの誕生から8年を迎える雨晴は、この場所でいくつかの新しい試みに取り組んでいます。そのひとつが「雨跡/AMART」の常設。「雨跡/AMART」は工藝の延長線上にあるアート作品を扱うブランドで、Baxer Tokyoや白金台店では3年ほど前から企画展が開催されていました。店内を埋める比較的サイズが大きかったり、用途が抽象的な作品たちは刺激的な試みとはいえ、なかなか常設することが難しかったようです。KYO AMAHAREの2階ではこれらの作品を常設し、2ヵ月に一度ほどのペースで作家ごとの展覧会を開催していく予定です。作家の作品が並ぶ1階と、よりサイトスペシフィックな体験ができる2階という構成は、雨晴のコンセプトを深く体験できる試みです。窓から庭を見下ろす空間には、インテリアを超えて空間を作りたいと考える作家の想いが結実していました。
町家に詳しい方々から学んだことや金子さんご自身が町家と対話することで気が付いたことを伺うと、数奇者の家主と当時の名大工たちのやりとりや、暮らしを楽しもうとする遊び心がありありと見てとれます。また、店舗として営業していた入り口の敷居の低さと、奥へ進むにつれてプライバシーが保たれる感じに京都らしい非日常性を感じました。モダンでありながら、日本らしい感性を芳醇に感じられるKYO AMAHARE。オープン初日の心境をうかがうと「計画どおりに行かなかったこともありましたが、だからこそコミュニケーションが生まれ、より良いものになったとのだと思います。完成が少し寂しいですね」と話します。
しかし、この物語にはまだ少し続きがあるようです。2024年3月には奥庭の向こうにある蔵を改装した茶房を準備中。コラボレーションの相手は福岡県の赤坂にある茶酒房「万 yorozu」の茶司である德淵卓さん。レセプションパーティではそのエッセンスを味わうことができました。お茶だけでなく茶酒や果子なども楽しめる空間になるそうです。その名は「茶房 居雨」。雨と居るところ、雨と過ごすところという意味が込められています。京都に増えた新しい目的地に、ぜひ立ち寄ってみてください。雨の日も、晴れの日も、きっと暮らしを豊かにするヒントが見つかるはずです。
〒604-8063 京都府京都市中京区蛸薬師通柳馬場東入油屋町127番地
Tel. 075-256-3280
営業時間:11:00〜18:00
定休日:水曜日
セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードが
ご利用いただけます。
https://kyo.amahare.jp