隈研吾展
新しい公共性をつくるためのネコの5原則
東京国立近代美術館(東京・北の丸公園)
隈研吾展
新しい公共性をつくるためのネコの5原則
東京国立近代美術館(東京・北の丸公園)
サーバーメンテナンスのため、2021年10月27日(水)AM5:00〜8:00の間
PT MAGAZINEはご覧いただけません。ご了承ください。

わが国に限らず、公共建築には、その大きさからか、どこか人を威圧するようなところがある。ところが、隈 研吾の公共建築には、美しく端正でありながら、抜け道があったり、駅が幕でできていたりと、親しみやすさと意外性を同時に感じる。そこには、人に寄り添うとともに、意外にも「ネコ」の生き方に目をこらした、しなやかな「5原則」があった。本展では、隈 研吾の建築世界を読み解くうえで重要な5つのキーワード、「孔」「粒子」「斜め」「やわらかい」「時間」に沿って展示がなされている。ちなみに、展示されている章解説や作品解説は、全て隈 研吾自身が執筆したものである。

隈建築にとって、「孔」は重要な要素になっている。たとえば《那珂川町馬頭広重美術館》(栃木県那須郡)では、建物にトンネルのような孔をあけることで、街と里山とがつながるようになっている。隈は、建物と建物との間に隙間としてできる空間もまた孔だと考えている。《アオーレ長岡》(新潟県長岡市)は、市庁舎棟とアリーナ(体育館)棟、市民協働センターの入った棟という3つの建物の間に、「ナカドマ」という大きな吹き抜けの空間をつくっている。そこが市民の憩いの場になっているのは、それがどこかで洞窟のような印象を与えるからだろう。隈は「ネコは孔を使って、ある場所へと抜けていく以上に、孔の中に身を隠すことを大事にしている。コロナ後の人間もまた、ハコによって守られるのではなく、孔によって守られる時代をむかえるだろう」と述べている。

粒子

いわゆる公共建築は、ヒューマンスケールを超えた巨大な建築になりがちで、人に威圧感を与えることがある。そこで隈が用いるのが「粒子」である。隈は日本全国、どの製材所でも製造できる幅10.5cmほどの小径木と呼ばれる素材をよく使う。小さな径の木であっても、それをきちんと組み合わせていけば大きな荷重を支えることができる。と同時に、建物をヒューマンスケールにすることができる。このように、建物を小さな単位=粒子の集合体として捉えることで、隈は、建築と、その中におかれるさまざまなモノとを同じレベルで考えることができるようになる、つまり人に優しい建築ができるようになる、と考える(ネコも、のっぺりした空間ではなく、粒子状の肌理=きめ=のある空間を好む)。《雲の上の図書館》(高知県高岡郡檮原町)などはその代表的なもので、大きなスケールを持ちながら、親しみやすい表情をしている。

やわらかい

通常、建築は固いものと思われている。しかし、隈は建築に「やわらかさ」を求めることも可能だと考える。たとえば《高輪ゲートウェイ駅》では、駅全体を覆う屋根の素材に膜を選んでいる。その結果、駅構内には自然光が満ちることになる。もちろん、膜を支える構造は必要だが、隈はそれを、垂直・水平ではなく、斜めに組み合わせていくことで、屋根を、山や丘陵を思わせるものにしている。隈は、建築にやわらかさを導入することで、人にやさしい環境的なものに近づけようとしている(ネコはかたくてつるつるしたものよりも、やわらかくて触感のあるものを好む)。

斜め

軒下で雨宿りができるように、下に向かう傾斜を持つ屋根は「守る」印象を与える。一方、寺社の山門などに見られるような、上に向かう傾斜を持つ屋根は「迎える」印象を与える。隈は、こうした「斜め」をさまざまな形で建築に取り入れ、人にやさしい建築をつくる。しかも、斜めになるのは屋根だけでなく、壁や床も斜めになることがある。2020年に竣工した《東京工業大学 Hisao & Hiroko Taki Plaza》(東京都目黒区大岡山)では、屋根をステップ状にして地面からつなげている。また、屋根上を庭園にすることで、周辺地域とスムーズにつながるようにしている(隈によれば、屋根や塀の上を自由に移動するネコは「大いなる斜めの先達」ということだ)。

時間

隈における方法論としての「時間」はちょっと独特だ。古くなった建物は、ボロくなることで、その物としてのあり方が弱くなるが、隈は、「物を弱くすることで公共空間が楽しくなり、人間のものになる」と考える。それゆえ彼は、古くなった建物を用途変更したりしながら再生する、いわゆるリノベーションのときに、ぴかぴかにきれいにすることをせず、自転車の車輪を装飾に使ったり、経年変化しやすい木材を用いたりするなど、あえてボロさが出るようにすることがある(ネコがボロい空間が大好きなのは言うまでもない)。

先端技術を用いた体験展示

本展では、隈が設計した建築の「実際」を、先端技術を用いた新作映像を通して紹介している。その一つが「高知県梼原(ゆすはら)にある6つの隈建築×瀧本幹也(+坂本龍一)」である。高知県西部の山間にある小さなまち梼原町には、初期から最近作まで、6つの隈建築が存在する。それらを、写真家・映像作家の瀧本幹也がハイスピードカメラを用いて撮影。リアル4Kによるリリカルな映像インスタレーションへと昇華させている。坂本龍一の音楽とともに、日本の伝統的建築にインスパイアされた隈建築の造形美を堪能できる。

もう一つは、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館初の分館となる《V&Aダンディー》である。これは、スコットランド北部の都市、ダンディー(Dundee)のウォーターフロントに建つスコットランド初のデザインミュージアムで、世界の名だたる建築家の中から隈研吾が設計者に選ばれたもの。これを、アイルランドのマクローリン兄弟がアヴァンギャルドなタイムラプス映像で紹介している。隈の「孔」の概念、「粒子」の考え方、「斜め」の思想などが凝縮されている。

さらに、富山市民に人気の図書館・美術館・銀行の複合施設《TOYAMA キラリ》を360度VRで紹介している。(360度VRの体験は13歳以上に限定)

猫目線の東京計画 2020

今回、隈研吾が発表するのが《東京計画2020(ニャンニャン) ネコちゃん建築の5656(ゴロゴロ)原則》である。日本を代表するデザイン・イノベーション・ファームTakramとの協働により、隈自身が住む神楽坂でネコの生態をリサーチ。そうして導き出されたのが「テンテン」「ザラザラ」「シゲミ」「シルシ」「スキマ」「ノラミチ」という5656原則。これを、3DCGのアニメーションにより紹介する。「スキマ」のパートでは、ちょっとかわったプロジェクションマッピングも用いている。(360度VRの体験は13歳以上に限定)

見落としてならないのが、隈が設計に参画した《国立競技場》のスタディ模型と、競技後のインタビューゾーン(フラッシュインタビューゾーン)に設置されている隈デザインの大型の行灯のような照明。大量につくられた競技場の模型の中から、約40点を厳選して展示するスタディ模型は展覧会の中で公開されるのは世界初だ。

隈研吾と一度、言葉を交わしたことがある。その印象は長身の堂々たる偉丈夫。優しい目線と穏やかな口調は親しみやすく、飾らない人柄が自然とにじみ出る。多くのクライアントが彼の虜(とりこ)になるのもよくわかる。

隈研吾 プロフィール

1954年生。東京大学建築学科大学院修了。コロンビア大学客員研究員を経て、1990年隈研吾建築都市設計事務所設立。2009 年より 2020 年3月まで東京大学教授。現在、東京大学 特別教授・名誉教授。1964 年東京オリンピック時に見た丹下健三の国立屋内総合競技場に衝撃を受け、幼少期より建築家を志す。その土地の環境、文化に溶け込む建築を目指し、ヒューマンスケールのやさしく、やわらかなデザインを提案。また、コンクリートや鉄に代わる新しい素材の探求を通じて、工業化社会の後の建築のあり方を追求している。これまで 20 か国を超す国々で建築を設計し、日本建築学会賞、毎日芸術賞、芸術選奨文部科学大臣賞、国際木の建築賞(フィンランド)、国際石の建築賞(イタリア)等、受賞多数。

トップビジュアル
展示風景(高知県立美術館) 撮影:中島健蔵

隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則

会期:2021年6月18日(金)〜9月26日(日)
会場:東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー(東京・北の丸公園)
〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1
開館時間:10:00〜17:00(金曜日・土曜日/10:00〜21:00 入館は閉館時間の30分前まで)
休館日:月曜日(7月26日・8月2日9日30日・9月20日は開館)・8月10日(火)・9月21日(火)
観 覧 料:一般 1,300円・大学生 800円
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会特設サイト:https://kumakengo2020.jp/