うつわ好きの隠れ家
うつわ 謙心
うつわ好きの隠れ家
うつわ 謙心

食材に旬があるように、器にも旬があるのかもしれない。「うつわ 謙心」で気になる作品を見つけると、そんな気分になります。わずか3坪ほどのギャラリーには一点ものの作品が並び、似合う料理や情景が浮かんでくるような器と出会えることがあるのです。オーナーである佐藤 謙心(さとう けんしん)さんが全国から集めてくる個性豊かな作品たちは、有名なレストランや日本料理の名店で使われることが多いというのもうなずけます。器の持つ魅力について、佐藤さんにお話を伺いました。

“うつわ”と作家に出会う場所

食事をするための食器はひと通り持っているにもかかわらず、どうしても欲しくなる器に出会ってしまうことがあります。歳を重ねるごとに「こんな器でお茶が飲みたい」とか、「秋刀魚を盛り付けたら美味しそう」など、食卓に彩りを添える存在としての“うつわ”に興味をもつようになりました。はじめて「うつわ 謙心」に訪れたのはいまから10年ほど前のこと。渋谷から10分ほどの八幡通り、青山学院の西門近くにある小さなギャラリーには、道具でありながらも作品としての魅力がぎゅっと詰まった“うつわ”たちが並んでいます。

プロとして磨かれた感性

料理雑誌の一コマやドラマのワンシーンに登場する食器たち。オーナーの佐藤 謙心さんは、そんなプロ向けの食器を貸し出す仕事からキャリアをスタートさせました。

「ただ“海外に行けます”という言葉に惹かれて就職しただけで、最初から器に興味を持っていたわけではないんです(笑)。余計なこだわりや好みがなかったからこそ、どんな器が選ばれるのかというニーズをひたすら吸収していました。でも、日本の各地に出張しながらメーカーや作家さんを訪ねるうちに、自然と自分の好みができてきました。このお店は以前も“草(so)”といううつわ屋だったのですが、独立しようと思ったタイミングで移転の話があり、居抜きで借りることにしたのです」

決め手は作家の個性

いわゆる「作家もの」といわれる器やグラスなどの食器には、道具以上の不思議な魅力があります。器に興味がなかった佐藤さんも「作家と交流を重ねるうちに、“うつわ”の魅力にハマった」そうです。どのような瞬間にお店で扱いたいと感じるのでしょうか。

「やっぱり作家性のある作品に出会うと、気になりますよね。驚きを与えてくれる作品、質感が気になる作品、色々とありますが、そういう作品はとりあえず買ってみる。使えない器は売りたくありませんから、まずは暮らしの身近なところに置いて、実際に使ってみます。それで良いなと思えば作家さんに会いに行くようにしています。使ってみて、連絡を取るまでに一年ぐらい悩むこともありますが、形や質感などに現れる作家の強烈な個性には、やっぱりお客さまに紹介したくなる魅力があります」

多面的な表現が魅力 片瀬 和宏

片瀬 和宏(かたせ かずひろ)さんは、おおらかな土の質感と柔らかな色彩感覚、手捻りやろくろや型を使った鋳込みなどの多様な技法を組み合わせた多面的な魅力のある作品を手掛けています。

「たまたま見かけて、気になって買ってみたんです。そしたらカップからお茶が漏れてきて(笑)。その経験が強烈に印象に残ったんです。ファッションや音楽にも造詣の深い作家さんなので、その興味の幅や感性がそのまま作品に表現されていますよね。ある意味で多重人格的な幅の広さが片瀬さんの魅力です」

焼き物の印象を覆す 安達 健

一見、コンクリートや石を切り出したような不思議な表情を見せる安達 健(あだち たけし)さんの作品。高温で焼成しているため灰釉が粘土に浸透し焼き締まる“灰〆”と呼ばれる独自の技法は、焼き物に新しい可能性を感じさせます。

「安達さんは、独立してすぐの頃からお付き合いをさせて頂いている作家さんのひとりです。植物の灰を主成分にした釉薬を塗った焼き物で、大理石のような不思議な表情に惹かれました。高温での焼成中に釉薬が土に浸透することで独自の世界観を生んでいます。とっても職人堅気な作家さんですが、日々の暮らしのなかで使いやすい作品を作られています」

儚い表情がたまらない フクオカ タクヤ

儚く、繊細な印象を与える透け感のある作品。中国の伝統技法「蛍手(ほたるて)」をアレンジした技法を巧みに操るのがフクオカ タクヤさん。澄んだ緑茶などを丁寧に淹れて楽しみたくなる作品です。

「フクオカさんの作品の中では、なんと言ってもこの透け感が特徴的な“komorebi”シリーズが魅力的です。自然の美しさを切り取ったような有機的なフォルムですが、実は型に土をはめて釉薬を穴に埋めることでこの存在感を生み出しています。普段使いをした時に料理や飲み物の印象ががらりと変わるのは、作家ものを使う楽しさのひとつですよね」

良い“うつわ”は洗えば分かる

さまざまな作家の作品を扱う「うつわ 謙心」ですが、「器は道具なので、使えないものは売らない」と佐藤さんは言います。

「多いときは棚4つ分ぐらいの食器を持っていました。大切なコレクションとは別に、ほとんどは勉強のために買った器が多かったですね。道具としてちゃんと使える器かどうかを判断するためには自分で使ってみるのが一番。とくに洗ったときの印象をお客さまに伝えるようにしています。水をよく吸うから乾きにくい、汁物や油っぽいものは落ちにくくなるから一度ぬるま湯に浸してから使う方が良い、とか。洗うときもスポンジではなくタワシの方が良いなど、道具として使って頂く際のアドバイスは大切にしています。食器って洗いやすくないと使いづらく感じるし、ちゃんと洗えていないとすぐにカビが生えて駄目になってしまう事が多いんです」

一度は漆を使って欲しい

数々の作家と交流を重ね、全国から作品を集めてくる佐藤さん。“うつわ”の魅力について伺いました。

「大量生産では生み出せない、作家が丹精込めて作った“うつわ”は、暮らしのなかの景色が豊かになると思いますよ。プラスチックみたいに便利ではないぶん、大事に、丁寧に扱いますし、割れても金継ぎをしたりすることで器が育っていきます。そういう意味では、陶器や磁器だけでなく、漆の食器もぜひ使って欲しいと思います。美しく滑らかな肌触りと、使い込むほどに漆に艶がでて手に馴染んでいく感じは、より暮らしを豊かに感じられると思います」

大切にする気持ち

大事な器を割ってしまったりしないかと心配していると、「誰かが丁寧に作ったものを身近に置くことで、大切にする気持ちが生まれるのではないか」と佐藤さん。確かに適当な食器で食事を繰り返していたら、食器を大切にする気持ちは芽生えません。自分自身を振り返ってみても、子供の頃は器よりも中身の方が重要でしたが、大人になって食事のありがたさが身に沁みるようになった今だからこそ、器にも関心を持つようになったのだと気付きました。一杯のお茶や一皿の料理が愛しくなる“うつわ”。「うつわ 謙心」では、作品と作家に出会える企画展も開催されるので、どうぞお楽しみに。

うつわ 謙心

〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2-3-4 スタービル青山2F
Tel. 03-6427-9282
常設展示:12:00〜19:00 (但し日曜は12:00〜17:00)
展覧会:11:00〜20:00 (最終日 11:00〜17:00)
定休日:水曜と不定休
セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードがご利用いただけます。
http://www.utsuwa-kenshin.com

お酒をたのしむうつわ展

会期:2021年10月7日(木)~12日(火)
時間:11:00〜20:00 (最終日17:00迄)
会場:うつわ謙心
参加作家:安達健、井倉幸太郎、池田麻人、伊藤由紀子、岡崎慧佑、 菅野一美、岳中爽果、森本仁、矢田久美子、村上慶子sabi-nuno
※初日のみ事前予約制(詳細はうつわ謙心のHPまたはSNSでご確認ください。)
※展示会の会期または中止、在廊の変更等の可能性もございます。変更が生じた場合はHPやSNSでお知らせいたします。
※当日の状況により点数制限や入場制限をする可能性もございます。予めご了承ください。

InstagramPTマガジンをインスタグラムで見る