あの“うすはり”を生んだ
松徳硝子
しょうとくガラス
あの“うすはり”を生んだ
松徳硝子
しょうとくガラス
サーバーメンテナンスのため、2021年10月27日(水)AM5:00〜8:00の間
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料亭や割烹で頂く一口目のビール。小ぶりで上品なグラスのせいか、とびきり美味しく感じます。そんな「一口ビールグラス」の代名詞ともいえるのが「うすはり」。江戸硝子の老舗「松徳硝子」のオリジナルブランドで、ビールだけでなくワインや日本酒も美味しく飲めるグラスとして人気です。

憧れだった、薄いグラス

少し背伸びをしてお鮨などを食べに行き始めた頃、握ったら割れてしまいそうなほど薄いグラスで飲んだビールの美味しかったこと。自宅で愛用していた6オンスタンブラー(通称ロクタン)は、割れにくさにこだわった実用性がウリなだけに厚手で無骨。それはそれで味わいがありますが、あの儚いほど薄く、しっとりと手に馴染むグラスにはなんとも言えない魅力があります。当時はそれが「うすはり」だとは知らず、たまの贅沢で出会える憧れの存在。いまでこそライフスタイル雑貨を扱うセレクトショップや百貨店で定番アイテムとなった「うすはり」ですが、そのすべてが手作りだと聞いて驚きました。

あの薄さは電球がルーツ

「うすはり」を手掛ける「松徳硝子」は、大正11年(1922年)の創業。大手家電メーカーの下請け工場として、手作りで裸電球のガラス部分をつくっていました。40年前にはそんな工場が都内近郊に100軒以上あったそうですが、いまでは激減してしまいました。0.5〜0.6mmの厚さでガラスを均一に吹く技術を活かして誕生したのが「うすはり」シリーズ。平成元年(1989年)の発売当時は一部の料亭などに卸すだけでしたが、インテリア業界に訪れた和食器のブームで人気に火が付きました。

錦糸町から工場を移転

松徳硝子の工場は、もともと錦糸町にありましたが、令和2年に移転。代表取締役の齊藤 能史さんにお話を伺うと、老朽化により「職人の環境改善が必要だった」とのこと。「手作りのガラスは、正直効率の良いビジネスではないんです。注文があろうがなかろうが、ガラスを溶かす炉の火を止めるわけにはいかないですし、職人を育てるのにも時間がかかる。でも、機械でできないレベルの技術を手作りでできるというのは、私たちの自信であり誇りです。だから、続けていける環境を作るためにも工場を安全に、快適にしたいと思って移転を決意しました」と、経緯について話します。

手作りの限界に挑む

工業規格の製品を作ってきた松徳硝子では、手作りの「うすはり」に明確な製品基準を設けています。「うちがつくっているのは作品ではなく、製品なんです。それを作れる技術を持つのが職人。だからここはアトリエでなく、あくまで工場です」と、厳格な姿勢を貫きます。工場が新しくなったことで、製造の精度も格段に向上しました。1,380℃にもなる炉の前に立ち、グラス一個分の「下玉」を正確に取り出し、素早く型に入れて拭く。17名の吹き職人が一糸乱れぬ所作を繰り返す様は、実用を突き詰めた武芸の型にも通ずるような美しさがあります。

薄いグラスは嘘がつけない

ところでなぜ、割烹などの高級なお店では薄いグラスを使いたがるのでしょうか。「薄いグラスは、良くも悪くも中身がありのまま伝わります。グラスを持ったときの温度や口当たり、風味や香りなど、邪魔するものが少ないぶん、ごまかしがきかない。だからこそ、味に自信のある店ほど薄いグラスを使いたいと思うんでしょうね」といわれ、思わず納得。それは、グラスを作る職人も同じこと。極限まで要素を減らしたデザインのグラスなだけに、わずかな厚さの狂いや小さな気泡などが品質に影響してしまいます。まさに、職人同士の真剣勝負といえます。

「うすはりで飲むとうまいらしい」

齊藤さんが現在のポジションに就いたのは2年前。実は職人を経験したことはなく、以前は広告業界に身を置くクリエイティブディレクターだったといいます。「請負の仕事ばかりしていたので、ものを作る仕事に興味がありました。料理が好きだったので、食器や調理器具にも関心があり、縁あって11年前に松徳硝子に入りました。まさか自分が代表になるとは思ってもいませんでした」と、当時を振り返ります。移転後の意気込みについて伺うと、「うすはりで飲むとうまいらしい、という体験を届けたい」と話します。「器や暮らしに無頓着なのは少しもったいない気がします。こだわる豊かさもあるのではないでしょうか。気持ちのこもった食器で食べる食事は、きっと美味しさも増すはずです」と、笑います。

食事を楽しむための道具たち

現在、松徳硝子では「うすはり」以外にもさまざまなシリーズを展開しています。飲み口だけを薄く成形したウィスキーのためのグラス「ROCK」、日本酒を引き立てる「SHUKI」などのお酒を楽しむシリーズだけでなく、緑茶の味が際立つ「冷茶器」、サラダやそうめんを盛り付けるのにぴったりなボウル型の麺鉢「8 -hachi-」など、いずれも食事が楽しくなりそうなものばかり。「毎日使って生活の中で遊んで欲しい」という言葉通り、早速お風呂上がりのビールにうすはりを使ってみることにしました。うん、うまい!