ボンドカーが55年ぶりに復活 DB5 Goldfinger Continuation アストンマーティン・ワークスで生産開始" />
名車「アストンマーティン」の名を世界中に知らしめたのは、紛れもなく映画007シリーズの第3作『007 ゴールドフィンガー』(1964年)だっただろう。この映画で特別装備(秘密兵器)満載のアストンマーティンDB5が爆走するシーンはわずか数分に過ぎないが、その獰猛なまでの走りっぷりは、大方の007ファンにとって「これぞボンドカー」のイメージとして強烈に刻み込まれたのではないだろうか。
1963年から66年にかけて発売されたDB5は、生産台数わずか887台という希少車種。その野生的なフロントグリル、エレガントなサイドビュー、シンプルで無駄のないリアビューは、多くの車好きを虜にした。4.0リッター自然吸気、直列6気筒のエンジンは最高出力294PSを発生、ZF製5速マニュアル・トランスミッションと組み合わせ、アルミニウムの軽量ボディもあって、俊敏な走りを見せていた。コンピュータ仕立ての現代のクルマからすると平凡なスペックのように見えるが、今でも生き物のような佇まいと、ふるいつきたくなるような野生的な魅力は、少しも色褪せていない。
そのDB5が、55年ぶりに蘇った。それも映画『007 ゴールドフィンガー』でジェームズ・ボンドが駆ったボンドカーそのままの姿で登場する。当時の図面はそのまま残っているので、エンジンからボディ、細々とした部品に至るまで、高度なクラフトマンシップによって一から作り直してのハンドビルド・カー、全くの新生DB5である。ボンドカー故に、「秘密兵器」もそのまま再現されている。例えば、リア・スモーク発生装置、フロント&リアの回転式トリプル・ナンバープレート、フロント・ツインマシンガン(模擬)、防弾リアシールド、フロント&リアの伸縮式バンパー、タイヤ・スラッシャー(模擬)などといった具合である。
インテリアにも、レーダー追跡装置(模擬)や運転席ドアに設置された電話、シフトレバーの脱出用ボタン、シート下の武器格納トレイなど、映画に登場するDB5が細部に至るまで忠実に再現されている。何しろ、映画007シリーズの制作会社であるイーオン・プロダクションズとの共同製作なので、当時のボンドカーと同じ仕上がりとなる。生産は、英国バッキンガムシャーのニューポート・パグネルにあるアストンマーティンの創業地。世界的に有名なヘリテージ部門の本社で行われており、どこまでも本物指向を貫いている。生産は世界でわずか25台、気になるお値段は275万ポンド(約4億円)、しかも公道走行用ではないというから驚く。
1913年に英国で創業されたアストンマーティンは、自動車レースの世界で名を馳せていたが、幾度もの経営危機を経て、戦後の1947年に高級車ブランド「ラゴンダ(Lagonda)」とともにデイヴィッド・ブラウン卿(DB)の元に統合され、「アストンマーティン・ラゴンダ」となった。以来、耐久レースやF1の世界で活躍する一方、DBシリーズを始め、ヴァンテージ、ヴァンキッシュ、ヴィラージュ、ラピードなど、数々の人気車種を生み出している。その魅力は、スポーツカーらしい精悍なスタイルと洗練された精巧な造り、パワフルな走りにあると思われる。
写真:オリジナルのDB5。
最新のトピックスは、何と言ってもアストンマーティン初のラグジュアリーSUV、DBXの登場だろう。どこから見てもアストンマーティンの遺伝子を宿した四輪駆動、定員5名のSUVは、4.0リッター、ツインターボ、V8エンジンを搭載、最大出力560PSを発生して、0-100km4.5秒、最高速度291km/hで突っ走るという。9速オートマチックギアボックス、車両重量2,250kgというのも驚きだ。むろん、これだけのパワーを全開にして走ることはないにしても、余裕の走りは容易に想像できる。とりわけ、全長×全幅×全高が5,039×1,998×1,680mmという軽快なボディサイズは、アストンマーティンを日常の車としても使いやすいものにしてくれそうだ。車両本体価格22,995,000円。
写真:2020年7月にウェールズの工場からラインオフしたDBXの1号車。
アストンマーティンの最近の動きは目覚ましい。アストンマーティン初のモーターサイクル「AMB 001」が、100台限定で2020年末には納品開始という。これは、映画『アラビアのロレンス』のモデル、T. E. ロレンスが7台のモデルを所有していたことでも知られるブラフ・シューペリア(Brough Superior)との共同開発。「モーターサイクルのロールス・ロイス」とまで言われる名車だ。997cc VツインDOHCガソリンターボエンジンにはインタークーラーも装備され、最高出力182PSを発生する。全体にカーボンファイバーとアルミ素材を使用したサーキット専用モデルで、まるで異次元のデザイン。希望小売価格は10万8,000ユーロ(約1,300万円)。
写真:AMB 001
もうひとつ、アストンマーティンと、スコットランド・アイラ島の240年の歴史をもつシングルモルトウイスキー、ボウモア(Bowmore)との初のコラボレーションの話。両社は、お互いに1964年が記念すべき年であるところから、この夏「Black Bowmore DB5 1964」を発売した。アストンマーティンにとって、1964年はもちろん映画『007 ゴールドフィンガー』によって、その名を世界中に轟かせ、世界で最も有名な車のひとつとなった記念すべき年。一方、ボウモアにとっても、この年に新たなポットスチルを導入、1993年以来、約6,000本のBlack Bowmoreが発売されたが、「ウイスキーの最高峰」とされるほどの高い評価を得、1本数百万円で販売されているものもある。今回生産された「Black Bowmore DB5 1964」は、わずか27本。そのうち25本が市販されるが、お値段は1本5万ポンド(約672万円)。最高を追求する両社らしい取り組みだ。
アストンマーチンは、2021年からF1にワークス参戦するとか。さらに、「ラゴンダ」ブランドでEV(電気自動車)を開発、フロリダでは潜水艇も準備中というから当分、目が離せない。
写真:Black Bowmore DB5 1964
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