人類最古のお酒といわれている「ミード」をご存じですか。蜂蜜と水を発酵させたお酒で、蜂蜜由来の甘みを楽しむものから、果実の酸味やスパイスを効かせた個性的なものまで、その味わいがいま世界を魅了しています。2020年に滋賀県に誕生した日本初のクラフトミーダリー「ANTELOPE」を訪ね、ミードの魅力を教えていただきました。
ミード(Mead)は、蜂蜜と水を酵母菌で発酵させた醸造酒。日本ではまだあまり知られていませんが、アメリカでは2010年頃からミードの醸造所「ミーダリー」が次々と誕生し、クラフトビールやサイダーに続き人気を博しているお酒です。いかにも昨今登場したジャンルのようですが、実はその歴史はワインやビールよりも古く、有史以前の1万4000年以上前から存在していた「人類最古のお酒」と言われています。一般社団法人日本ミード協会によれば、その始まりはミツバチの巣に雨水が溜まり、自然発酵したものを狩人が飲んだことによる偶然の発見だったとされています。長いことその原理が解明されていなかったことから「天からの贈りもの」と信じられてきたというのもすてきなエピソードです。
そんな人類最古の醸造酒ミードが今、お酒を愛する大人の間でじわじわとブームを呼んでいます。火付け役は、滋賀県野洲市にある「ANTELOPE(アンテロープ)」。2020年に開業した日本初のクラフトミーダリーです。アンテロープは英語でカモシカ(羚羊)を意味し、良いお酒と雰囲気を醸す「醸し家」との語呂合わせから名付けられました。もともとクラフトビール業界に身を置き、ブルワリーを開業する予定だったというオーナーの谷澤 優気(やざわ ゆうき)さんが、ミードと出合ったのは2019年のこと。開業前に訪れた国内外のクラフトビールが集まる祭典でのことでした。たまたま出店していたアメリカのミードを口にすると、初めて体験する味わいとそのおいしさに感動。それまでクラフトビールに熱中していた谷澤さんでしたが、引き込まれるように日本で初めてのミーダリーの開業へと舵を切りました。
ミードの作り方は非常にシンプルで、蜂蜜と水を合わせたものに酵母菌を入れ、クラフトビールの醸造と同じ設備を使って発酵させます。ANTELOPEではペーシックなミードはもちろん、そこにフルーツやスパイスなどの副材料を加えたり、ワインやバーボンの樽でじっくり寝かせたりするなど、多彩な味わいのミードを提案しています。
「当時ミードは日本酒の蔵でたまに作られる程度でした。クラフトビールのようなユニークな味わいや楽しみ方をめざすにあたり、まずは海外の文献をもとにレシピを研究するところから始まりました」と話すのは、谷澤さんとともに醸造を担当する岡田 章宏(おかだ あきひろ)さんと春日 佑介(かすが ゆうすけ)さんです。「日本におけるミードカルチャーはまだ誕生したばかり。前例や正解がないので作り手である僕たちも自問自答の日々です。でもだからこそ自由度が高く、おもしろい。黎明期ならではの醍醐味でもあると感じています」と口をそろえます。
2023年には目標のひとつにしているというアメリカのミーダリー「Superstition」を訪ね、最先端のミードカルチャーに触れた経験も大きな刺激になったと振り返ります。「今ちょうど、水を使わずに蜂蜜とブラッドオレンジだけで醸したミードをバーボン樽で寝かせているところです。これはSuperstitionでの見聞を生かしてトライしてみたもの。完成までにはまだもう少し寝かせる必要がありますが、今から楽しみでなりません」と岡田さん。こうした意欲的なクリエイティブマインドが日本のミードづくりの進歩を支えているようです。
蜂蜜が原材料と聞くと、さぞ甘かろうと想像しますが、レシピによってドライからスウィートまで1〜10のレベルに分類されています。「『火入れ』という熱を加える作業によって仕上がりの甘みを調節しています。発酵が進むにつれて糖分が減っていきますので、辛口に仕上げたい場合は火入れを遅くします。甘さを残したい場合は早い段階で熱を入れるという具合です。この火入れのタイミングが一番の肝ですね。ここが腕の見せ所だと思います」と岡田さん。
原材料の蜂蜜はミャンマー産が中心で、マンゴーのような濃厚な甘みが特徴。蜂蜜のみで醸したクラシカルなスタイルを筆頭に、ジンに着想を得てジュニバーベリーとライムを漬けたものや、シンガポールのカクテルを参考にしたパイナップルを使ったものなど、斬新で多彩な味わいが魅力です。アルコール度数も4%程度の比較的軽いタイプから、14%を超えるハイアルコールまでさまざま。発泡性のスパークリングタイプもあり、次々と飲み比べてみたくなるラインアップが好奇心をそそります。
副原料となる果物や野菜の仕入れは、できる限り自分たちの足で農家を訪ねているそうで、「今年醸造したスイカと塩のミードは、私の出身の熊本まで収穫に行きました」と春日さん。これまでにリリースしたミードに使われたブドウ、ニンジン、イチゴ、八朔(はっさく)などもいずれも日本全国の信頼できる農家へ出向き、収穫や仕入れを行いました。「現地に直接行って、生産者さんの話を聞いて、その土地で感じたイメージをミードに反映させています」
2023年からは自分たちで養蜂も始めました。目標はANTELOPEの蜂蜜だけでミードを醸造すること。1年目は無事に冬を乗り越えたものの、仕込みとなるとまだ蜂の数が足りず、2年目の今年も奮闘中だと言います。
「クラフトビールの世界にいたときは、原材料はすべて輸入に頼っていることが当たり前でした。ミードと向き合うようになり、自分たちで原材料を作ってみたいという気持ちが強くなりました」と谷澤さん。ミーダリーのパイオニアとして養蜂から醸造までワンストップで行える体制をめざし、「産業として次世代へ繋いでいきたい」と新しいステージを見据えています。
実際にピンクグレープフルーツと唐辛子のミード「KINOSHITA」を飲んでみると、フレッシュな果実の酸味と苦味の向こうに蜂蜜のほのかな甘み、唐辛子のアクセントが喉のあたりを心地良く刺激し、複雑なフィニッシュがクセになる一杯でした。
都内のバーで頂いたのですが、これまで飲んだことがない味わいがあまりにも新鮮で、思わず隣に居合わせた人に「飲んでみました?」と声をかけたくなる不思議な力を秘めていました。食事やスイーツとの相性も抜群なので、ホームパーティーやキャンプなど人が集まるシーンでも大いに活躍してくれそうです。
オンラインショップでは定番のミードをはじめ、季節の新作や入門にぴったりなアソートセットなどが購入できるだけでなく、ANTELOPEのミードが飲めるお店や買えるお店を知ることもできます。夕暮れ時にグラスを傾けたくなるこの季節に、古くて新しい、魅力にあふれたクラフトミードの世界へ足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
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https://antelopemeadery.com