観光・農業・福祉で地域資産に光を当てる
GOOD NEWSとバターのいとこ
観光・農業・福祉で地域資産に光を当てる
GOOD NEWSとバターのいとこ

栃木県那須市に本社を構える「株式会社GOOD NEWS」。空港やターミナル駅などで注目を集めるお菓子「バターのいとこ」の製造と販売などを行っています。未利用の食材や捨てられてしまうものに価値を付加し、地域を盛り上げる事業はさまざまな広がりを見せています。自然との関わりを考えるきっかけになる場所として、那須市にレストランやショップを有する複合施設「GOOD NEWS」の運営など、観光・農業・福祉を連動させて地方をもり立てる想いに迫ります。

3坪から始まった「バターのいとこ」

「バターのいとこ」は、バターを作る際に大量に余るスキムミルク(無脂肪乳)を活用したお菓子。もともと酪農が盛んな栃木県那須地域では、良質な牛乳からバターを作っていました。しかし約90%が無脂肪乳として安価に取引されてしまいます。森林ノ牧場 代表の山川 将弘(やまかわ まさひろ)さんからそんな課題を相談され、スイーツとして開発を手掛けたのが株式会社GOOD NEWS代表取締役の宮本 吾一(みやもと ごいち)さん。いまでこそ羽田空港や東京駅でも見かけますが、最初に出した店舗はわずか3坪。現在では敷地内には「那須の森 モッツァレラチーズ工房」やカフェもオープンし、「バターのいとこ」を中心に「GOOD NEWS」という商業施設として展開。食を通して那須エリアの魅力を発信しています。

森を活かし、暮らしを育てる

「バターのいとこ」の1号店からほど近い場所に誕生したのが「GOOD NEWS NEIGHBORS」。日常的に環境問題へアクションを起こしている9つの店舗が出店する、森の中の小さな街のような空間です。「森を切り開くなら、昔の里山のように人間が関わることで自然にも良い影響を与えたいと考えました」と話す宮本さん。日本の原風景として語られる里山は、人間が暮らす世界と自然の境界線とも言える場所です。田畑や水車、民家がコンパクトにまとまった機能的な集落によって、人の営みと自然との共生関係を築いてきました。那須町の森を切り開いたこの場所でも、仲間たちと日々試行錯誤しながら現代の里山を目指します。

素材や土地に新しい光を当てる

この考えに賛同し出店したブランドはいずれも独自のアプローチで環境問題に取り組んでいるのが特徴的です。スペシャリティコーヒーを提供する「ONIBUS COFFEE」は、店舗の床材の一部に約9,000杯分のコーヒーかすを活用。コンポストによる資源の再利用にも取り組んでいます。市場に出せない規格外の花に価値をつける「Dear, Folks & Flowers」が手掛けるギャラリーや、バターを作る際に生まれる“バターミルク”を生地に使用した「いとこのドーナツ」、牛乳からチーズを作る過程で大量に出るホエイを活用した“ブラウンチーズ”が主役のお菓子「ブラウンチーズブラザー」など、那須町にちなんだ地産の素材に新たな価値を与えています。いままでポジティブに活用されてこなかった素材たちが、多くの人を喜ばせているのが印象的です。

本当の“観光”地を取り戻す

「GOOD NEWS NEIGHBORS」の場所はそもそも、「バターのいとこ」やそのほかのブランドが増えたことによる生産体制の強化に伴い、新しい工場用地を探していて見つけた場所。まちづくりのような発想に至った経緯について、宮本さんにうかがいました。

「おかげさまで『バターのいとこ』が人気となり、地域の生産者の方々が元気になる姿を見てこの地域に工場を作りたいと思いました。この場所はもともと手入れの行き届かない雑木林で、せっかくなら我々が介入することで経済と自然の両方を良い方向に持っていきたいと思いました。工場で働く300人のスタッフのなかには障がいなどのさまざまな事情で就職が困難だった方々もいるのですが、人口の少ないこの街では貴重な労働力であり、我々にとっては優秀な働き手です。地産の酪農で未利用だった素材に新しい価値を与え、就労支援を組み合わせた多様な雇用を創出する。これを『その土地の光を観る』という本来の“観光”として、“観福農”が連携した事業を展開しています。同じような課題を抱える地域の参考になれたらうれしいですね」

自然に触れ、学ぶ「森の木曜日」

宮本さんは「森でも人でも、大きなインパクトを考える前に、まずは関わり、できることから始める」と続けます。敷地はおよそ15,000坪あり、そのうち3,000坪を切り開きました。敷地全体の約80%を占める広大な森には野鳥のための鳥小屋やミツバチの巣などが設置され、生き物との共存が図られています。施設の有機ゴミをコンポストで堆肥にしてハーブを育てたり、生態系の変化を長期的にアプリで管理したり、楽しみながらも自然から多くを学んでいるそうです。さらに、毎月第二木曜日を「森の木曜日」と設定し、全館の定休日にして森の手入れを行っています。マルシェに向けて、伐採した竹でブースを作ったり、伐採した木を建築資材やウッドチップに活用したりするなど、ポジティブなアクションを継続しています。今後は環境省が認定する「自然共生サイト」に登録するための活動など、関係人口全体の幸福度に貢献する取り組みを目指します。

那須の大きな食卓「Chus」

宮本さんの原点とも言える場所が「Chus(チャウス)」。那須塩原市の黒磯駅から真っ直ぐ伸びる板室街道を10分ほど歩いた場所に位置し、入り口にはこの土地の食材を中心としたショーケースの「MARCHE」、奥にレストランスペースの「TABLE」、そして2階には「YADO」という宿泊機能を持った複合施設です。那須エリアを盛り上げる動機はどこにあるのでしょうか。

「もともとこの街に思い入れがあったわけではなくて(笑)。二十歳くらいの頃から日本でアルバイトをしては海外に出かけて、ワーキングホリデーで滞在したりバックパッカーをしていました。そのとき、一緒に食事をすることで誰かと仲良くなる体験や、自然の近くで暮らす心地良さを知ったのです。帰国後も東京が嫌で、たまたまこの地に辿り着いたという縁です。少しずつ知り合いが増え、みんなが地に足の着いた暮らしをしている姿を見て、自分も何か生み出したいと思って始めたのが『那須朝市』というマルシェです。最終的に5,000人もの来場者を記録したのですが、ほぼボランティアだったこともあり疲弊してしまい、出口戦略として始めたのが『Chus』です。“那須の大きな食卓”というコンセプトで東京のレストランからシェフを呼んで地元のみんなに紹介したり、緩やかなコミュニティを作っていました。パティシエなどの繋がりもできたことで『バターのいとこ』が生まれたのです。がむしゃらに動いたことが自然とバトンのように次の展開に繋がり、いまここに至っているという感じです」

地方の豊かさのおかげで生きてこられた

「バターのいとこ」はフードロスを解消している側面もありますが、それ自体が目的ではありません。「そもそも良い酪農家の素材なので、スキムミルクも質が良いのです。問題は経済的なロットだけ。だからお菓子にして街の親善大使になってもらおうと考えたのです」と宮本さんが話すように、那須のストーリーがポジティブに込められ、おいしいスイーツとして完成しているからこそ、お土産として人気になっているわけです。
GOOD NEWSという社名には、東西南北の良いものを見つけ、活性化させるという意味が込められています。日本の各地で「観福農」を土台に、日本各地の素材を使った新たな商品開発も進んでいるとのこと。ビジネスに福祉を絡めて観光業や地域のブランディングとして展開し、その利益を地域に還元していく。そのプロセスに地場産業の在り方を観たような思いがします。地方の魅力に光を当てる今後の展開が楽しみです。

持続可能なまち「GOOD NEWS

〒325-0303栃木県那須郡那須町高久乙24-1

セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードが
ご利用いただけます。
https://gooooodnews.com/

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