「IZUMO HOTEL THE CLIFF」は、日本海に面した自然一体型のホテル。断崖に建ち、窓一面に海を望むロケーションが静かな非日常を体験させてくれます。ミニマルで上質な空間、地域の素材を生かした独創的な料理など、ホテル自体が新たな旅の目的地となるアプローチは、2024年7月に山陰地方で唯一「ミシュランキーホテル」にも選ばれました。
島根県出雲市。大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)を主祭神として祀る「出雲大社」があり、2023年には年間で1200万人もの観光客が訪れました。「雲が出ずる国」という文字通り雲が発達しやすい地形で、雲の多い冬の空には神々しい雰囲気さえ漂います。
出雲市最西端の町「多伎(たき)町」は、海と風、そしてイチジクが特産品。海岸沿いの「キララビーチライン」を走ると目印の風車たちが出迎えてくれます。この町の「食から始める地方創再生」としてスタートしたのが複合施設「WINDY FARM ATMOSPHERE(ウィンディファーム アトモスフィア)」です。その土地が持つ素材にさまざまな角度から光を当てることで、“当たり前が持つ本当の魅力”を伝えています。
自然の断崖が残る多伎町は風力発電の町としても知られ、まちづくりプロジェクトの総称としてWINDY FARM ATMOSPHEREと名付けられました。運営を手掛けるのは飲食事業を軸に地域創生に取り組む株式会社バルニバービ。プロジェクトの責任者である石倉 治(いしくら おさむ)さんにお話をうかがいました。
「我々は大阪の南船場で1軒のカフェからスタートしました。当時はまだ人通りが少なかったのですが、お店を起点に少しずつ活気が満ちてきて、町が変化していく様子を目の当たりにしました。その様子に、代表取締役会長の佐藤 裕久や創業メンバーは食と場がもたらす力を確信したそうです。現在、全国で100店舗近く展開しておりますが、いずれも地域に根差した展開を心がけ、画一的なチェーン展開は行っておりません。『バッドロケーション戦略』という交通の便が悪い、店前通行料が少ないなど一見飲食店には不向きな”バッド”でも、潜在的な魅力に溢れるエリアに積極的に出店してきた結果、現在は全国を視野に食を起点とした地方創再生開発を手掛けています。今後もWINDY FARM ATMOSPHEREは島根を回遊する拠点として展開していく予定です」
海沿いにはフードエリアを備えた「出雲湖陵パーキングエリア」、日本海に面したレストラン「GARB CLIFF TERRACE IZUMO」、そして「IZUMO HOTEL THE CLIFF」が並びます。これまではただ通り過ぎるだけだったビーチ沿いの道に立ち寄り、風を浴びながらひと息つく。時にはレストランで海を眺めながら、地産食材の新たな魅力に気づく。そして、滞在することで時の流れと向き合い、大自然のなかの静寂にどっぷりと浸る。数十分から数日にわたるさまざまな時間軸に切り取られた風土は、実に多彩な表情をみせてくれます。地域を楽しむ装置のような複合施設は、インバウンドや観光客だけでなく地域の拠り所としても機能し始めているようです。
IZUMO HOTEL THE CLIFFは、客室とサウナのみのシンプルな構成。客室もすべての要素が日本海に面したピクチャーウィンドウに向いており、ミニマルなレイアウトです。支配人の黒川 浩輔(くろかわ こうすけ)さんにお話をうかがいました。
「このホテルはあくまでレストランの付帯施設として、食後の余韻に浸るための場所という位置づけです。構成要素を極限まで削ぎ落とすことで、時間や自然といった普段なかなか意識できない存在にフォーカスを絞っています。雲が動くのを眺めていて風の存在に気づいたり、止めどなく押し寄せる波や動き続ける光と影によって時の流れを感じたり。自然の揺らぎに没頭することで日々の雑事から解き放たれ、自由に想像力を膨らませていただけます。以前、『客室で夕陽を見ていたいので、ディナーを少し遅くしてほしい』と希望されるお客様がいらっしゃいました。この土地の本当の魅力をお伝えできた気がして、とてもうれしかったですね」
早速、GARB CLIFF TERRACE IZUMOで季節のコースを頂きました。
アミューズのオニオンスープは冷えた体がじんわり暖まる一皿。地元の蔵元「出雲富士」の酒粕と「しまね和牛」の出汁がタマネギの甘さに奥行きを与えます。フォアグラと金柑のコンフィチュールを挟んだ最中で味覚を刺激したあとは、冷たい前菜に島根県産の真鯛を発酵塩レモンで。レモンの爽やかな風味と炙った皮の香ばしさが食欲をそそります。温菜は島根県産「鰆(さわら)の炭火焼き」です。“あすっこ”という島根県オリジナルの野菜がほろ苦く、鰆の脂と相性抜群。出雲の個性豊かな食材が勢ぞろいしたシグネチャープレートを挟んで、全国の銘柄牛が肉質を競う2つの大会で全国1位に輝いた「しまね和牛のロースト」を頂きました。もも肉の中で特にやわらかく脂肪の少ない“ランイチ”に、椎茸の旨味が効いたマデイラ酒のソースとのマリアージュをしばし堪能します。
おいしさの王道にありながら、野性味や繊細さ、香りや食感などで驚きを与える島根尽くしのコース。GARB CLIFF TERRACE IZUMOの料理長を務める畔上 誉志夫(あぜがみ よしお)さんに、料理への想いをうかがいました。
「私は長野の出身で、学生時代のアルバイトからずっと料理をしてきました。31歳でバルニバービに入社し、現在は複数の店舗の監修とシェフの教育なども担当しています。私の料理はフレンチとイタリアンをメインにした薪料理です。口に入れた瞬間はシンプルにおいしいけれど、味わううちに素材の奥行きやソースの複雑さを感じていただけると思います。出雲では開業前から現地で生産者を訪ね、黒イチジクや椎茸、あすっこなどすばらしい食材にも出合えました。朝食では同じ食材を和食に仕立てることで、この土地の魅力をさまざまな角度でご紹介したいと思っています。海と山が近く、食事に集中できるすばらしい環境なので、今後は地元の伝統料理なども取り入れながら旬を切り取ってゲストに楽しんでいただきたいと思っています」
開業からわずか1年目にして、IZUMO HOTEL THE CLIFFは1ミシュランキーホテルにセレクトされました。パリ万博で地下鉄が開通した1900年、ドライバーのためのガイドブックとしてスタートしたミシュランガイドが、ライフスタイルの変遷に合わせてグルメガイド、ミシュラングリーンスター、ミシュランキーホテルと多様な指標を提案してきたように、風土を堪能できる食と滞在空間は旅の魅力を再定義しているようにも感じました。無駄を省き、旅の目的にフォーカスする新しいトラベルスタイルは、地方活性にも大きな可能性を提示しています。これからも全国にあるバッドロケーションを見つけて、その隠された魅力を教えてほしいと思います。
〒699-0901 島根県出雲市多伎町久村1870 B1F
Tel. 0853-86-3300(9:00〜18:00)
セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードが
ご利用いただけます。
https://hotel-the-cliff.jp