東京・東麻布とその周辺は、世界各国の大使館が立地する国際色豊かな住宅地。青色の外交官ナンバーをつけた車が走っているのをよく見かける。彼らの台所を預かる食品スーパーといってもよさそうなのが「日進ワールドデリカテッセン」。地下鉄麻布十番駅から徒歩5分。通称「環3通り」と呼ばれる環状3号線通りに面した店舗は独立したビルで、独自の品ぞろえによる種類の豊富さが際立つ。
店舗の1階は駐車場、2階はワインを中心としたリカー専門のフロア、3階に「Meat Rush」と名付けられた食品売り場がある。エレベーター、エスカレーター完備で、店内は広々としていて移動も楽。日本の食品も豊富に置いてあるので、ワンストップで買物が間に合う。経営するのは「日進ハム」で知られる日進畜産工業株式会社。製造拠点は埼玉県三芳町にあるが、本社は大正5年(1916年)創業当時のまま、港区東麻布に置いている。店内にはアーノルド・シュワルツェネッガーさんが訪れたときの写真なども飾られており、お客様は国際色豊か。この道40年という根本久雄さんが、手慣れた包丁さばきでステーキ肉を切り分けていた。
このお店に入って直行するのはまず、肉売り場。1枚から切り分けてもらえるので、和牛のサーロイン250gを夫婦二人分、2枚にしてもらう。最近はこの程度の量で十分だ。聖路加国際病院の院長を長く務められ、105歳で亡くなられた日野原重明さんは、朝からステーキを召し上がられていたそうだ。どうも、栄養価の高い食品を適量で、というのが健康長寿の秘訣のようだ。そういえば、今年98歳になる作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんも、朝からステーキだという。こちらはシャンパンつきで、日常の生活がすでに仏様の域に達しているようなので、100歳は軽くクリアしそうだ。食は、健康を維持するための基本中の基本。人の体は食べるものでつくられているので、つくづく食べられることの幸せを思う。さて、ステーキの次はハム売り場。ここのイタリア・パルマ産プロシュートハムは絶品。塩気が抑えられていて、すばらしい食感を味わえる。2mmの厚さに切ってもらって200g。メロンだけでなく、イチジクや柿、ホワイトアスパラなどを巻いてもおいしい。作家の開高 健さんは食について「15cmの快楽」と呼んでいたが、食には空腹を満たすだけでなく、娯楽の要素もある。ともに満たすことができれば最高だ。
経営するのが老舗のハムメーカーだけに、世界中から取り寄せられたハムやソーセージは逸品ぞろい。サラミだけでも何種類もあり、食べたことのない珍しいサラミもたくさんある。ボローニャ、ミラノ、チョリソ・イベリコ……それでもまだ目指すサラミがないと、店員さんに質問しているお客様がいた。肉売り場でも、ローストビーフ用のもも肉を1kg、ブロックで求めているお客様がいた。あいにくこの日は用意がなかったが、これだけの大きな肉をローストビーフにするオーブンを備えているのだろう。食のライフスタイルの多彩なことに、お店側も懸命に応えようとしている。高価なことで知られる世界の三大珍味、キャビア、フォアグラ、トリュフも、この店なら置いている。トリュフは季節性のものなので販売時期が限られるが、売っているお店自体が少ないので、グルメにとっては貴重な存在だろう。店の品ぞろえは、お客さんの要望に応えているうちに充実したものになったという。
各種の肉を冷凍している棚に「Crocodile(クロコダイル)」の名を見つけたときは、あまりに珍しいので感動した。オーストラリア産ワニ肉で、それもTail Meatとあり、尾の髄(ずい)の部分がコラーゲンたっぷりで最もおいしいのだそうだ。100g368円(税込)と、決して高くはない。“怖いもの食べたさ”で挑戦してみたい気もしたが、料理方法がわかってからにする。オーストラリア産ではカンガルーのランプ(Rump)肉というのもある。ランプは牛でいえばサーロインとイチボの間の腰付近の肉だが、カンガルーの場合も同じ区分なのだろうか。近くにオーストラリア大使館があるので、こうした珍しい食材も日常的に食されているのだろう。豪州産のオージービーフはもちろん、ラム肉の種類の豊富なことでは都内でも随一ではないだろうか。台湾産のカエル、北海道・根室産エゾシカのモモ肉、国産牛のアキレス腱など、近所のスーパーではまず手に入らない希少食材の宝庫でもある。
ともかく、同じチーズでも、その種類の豊富さに思わず目移りがする。フレッシュタイプだけでも、クリームチーズ、フロマージュブラン、カッテージチーズ、リコッタ、モッツァレラ、マスカルポーネがあり、そのそれぞれに産地国があって異なるブランドのものがある。白カビタイプ(カマンベールなど)、青カビタイプ(ブルーチーズとも呼ばれる、ロックフォールなど)、ウォッシュタイプ(季節限定のヴァシュラン・モン・ドールが人気)、これに山羊のチーズ(サントモールなど)や長期熟成のセミハード(ゴーダなど)、ハード(パルミジャーノ レジャーノなど)が加わり百花繚乱。パスタもいろとりどりで、選ぶのにしばしとまどう。缶詰のホールトマトやオリーブオイルにはオーガニックの製品も登場しており、選択肢はますます広く深くなっている。
2階のワインショップは圧巻。世界中から取り寄せたワインが、所せましと並べられている。ワイン好きなら、1日中ここで過ごしていても飽きることはなさそうだ。ソムリエの拝藤幸子さんによると「2,000種類はあります。近くにオーストラリア大使館や東京アメリカンクラブなどがありますので、豪州産のワインやカリフォルニア産ワインは特に豊富に取りそろえています」ということだ。1本2,000円前後の手頃な価格帯が中心だが、「Opus One(オーパス・ワン)」のような高級ワインも置いている。「日常的に飲まれているワインがほとんどで、ワインマニアやコレクター向けのものは置いていません」と拝藤さん。ということは、1本5〜6万円前後のワインも、このエリアではごく日常的に愛飲されているということなのだろう。ウイスキーやジン、ウォッカ、ラム酒など、リキュール類も豊富に取り揃えている。
ニューヨークには1934年創業の老舗食料品店「ゼイバーズ(ZABAR’S)」がある。ブロードウェイと西80丁目の角で、観光客にも人気がある。パリのマドレーヌ広場では、1886年創業の高級食料品店フォション(FAUCHON)と1854年創業のエディアール(HEDIARD)が競っており、パリに行ったときは必ず両方のお店に立ち寄った。ロンドンのナイツブリッジにある老舗百貨店ハロッズ(HARRODS)は1849年の創業。地下のフードホールは、まさにデパ地下の鏡ともいうべきもので、ロンドンに滞在中は日に何度も通ったことがある。コロナ禍で観光客が途絶え、経営が思わしくないところもあるようだが、都市にはそれぞれ「顔」となるような立派な食料品店がある。支配人の増澤浩介さんは、顧客向けの英文メッセージにあるように「新鮮な食料品を手頃な価格で提供する」のがお店のミッションだという。このお店の種類の豊富さとリーズナブルな価格こそ、日本に住む海外の人にとっては「東京の顔」であるに違いない。日野原さんや寂聴さんにならって、おいしいものをほどほどにいただく……これこそが最上の健康法なのではないだろうか。
〒106-0044 東京都港区東麻布2丁目32-13
Tel. 03-3583-4586
営業時間:9:00 a.m.~9:00 p.m./年中無休
https://www.nissin-world-delicatessen.jp/
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