健康意識や生活習慣の見直しから、あえてノンアルコールを選択する「ソバーキュリアス」やノンアルコールカクテル「モクテル」の広まりなど、ドリンクの嗜好や楽しみ方は多様化しています。くさわけは、「香りをのむ」をテーマに掲げるボタニカル飲料ブランド。ハーブやスパイスを組み合わせたもので、ストレートやオンザロック、水割りやソーダ割りなど、お酒を嗜むような新しい選択肢を提案しています。
「お酒とジュースの大きな違いは香りの豊かさです。それならばジュースにも香りを持たせれば、香りについて表現しあったり、余韻を噛み締めたり、お酒のように楽しみを深められるのではないかと考えました」と話すのは、くさわけを主宰する野村 仁嗣(のむら ひとし)さん。大阪の医療機器メーカーに勤めていましたが、バーテンダーに憧れ、25歳の時にバー文化の豊かな長野県松本市に移住。5年ほどの修行を経て、2019年に松本の中心地にジン専門店「KINO」をオープンしました。「ところが開業から半年後にコロナ禍になり、通常営業がままならない状況になりました。ちょうどその頃、自分自身の体質の変化やこどもが生まれたこともあって、ノンアルコールのドリンクに意識が向いていきました」とブランドを立ちあげた当時を振り返ります。
「最初に“素材の多さで勝負しない“と決め、草根木皮それぞれの譯(わけ)をくみとり整えるコンセプトを掲げました。人間も必要とされる環境に身を置くことで力を発揮できるように、少数の素材でも正しいポジションで作用すれば、十分に理想的な表現ができると思っています」と野村さん。
バーテンダーとしてさまざまなお酒と向き合ってきた野村さんですが、当然ものづくりにおいてはゼロからのスタート。「クラフトコーラやクラフトジンジャーエールなど、既存のカテゴリに当てはまってしまうことや、どちらでもないけれどあまりおいしくないなど、試行錯誤の日々が続きました」と開発は難航した様子です。そんな時に参考にしたのが、原点であるジンでした。野村さんのお気に入りのジン、ベルギー産の「BUSS」に着想を得て、カルダモン、レモン、生姜、コリアンダーシード、バニラの5つの素材のみをピックアップ。それぞれの役割とバランスを整え、唯一無二の香りを持つ代表作の「草譯」が誕生しました。
「『草譯』を飲むと、まずはじめにカルダモンの香りが鼻に入ってきます。飲み物としてのボリュームは生姜が担い、アクセントにレモンの酸味。コリアンダーシードは強く香らせず、それぞれの素材の隙間を埋めるようなつなぎの役割。気づかれないかもしれないけれど、なくてはならない大事なポジションです。そして最後にバニラが抜けていくという構成です」
ひとくち頂いてみると、爽やかなカルダモンの香りが口のなかに広がり、その後に続く華やかで複雑な奥行きの余韻に驚かされます。
「カルダモンは揮発性が高いため、そのまま瓶詰めしてしまうとほとんど香りが残りません。煮込む形状やタイミングなどを工夫し、さらに仕上げにカルダモンの蒸留水を入れることで香りを留めています。希釈しないと飲めないような甘いシロップにはしたくなくて、お酒のように飲み方次第で楽しみが広がるように作っています。ストレートはもちろん、水割りやソーダ割り、温めてもまた違った表情をお楽しみいただけます」
草譯に次いで作られた定番アイテム「陽(ひなた)」は、温かみのあるオレンジ色。カシア、シナモン、シナモンリーフ、レモンといったクスノキ科の植物のみでまとめ、一本の線を描くようなイメージで作られました。
「シナモンは広く知られるスパイスですが、意外にもシナモンをおいしく感じられる飲み物は少ない。そこで、陽ではシナモンをテーマにしました。アクセントではなくて真ん中にいる、シナモンの香りを楽しんでいただくアイテムです」と話すように、甘すぎず、強すぎず、それでいてシナモンらしい香ばしさをスッキリと頂ける一杯です。
「新しい香り、新しい味を作るということは、まっさらなところに点を打つということ。その一点を間違えるとすべてが狂っていってしまうので、怖さもありますが、少しずつ私たちの表現が届いている実感もあり、励みになりますね」
現在の定番は「草譯」と「陽」の2種。ゆくゆくは4種をもって完結させる予定とのことで、目下開発中の次作について「今のラインアップは食事に合わせるには少し香りが立ちすぎています。3作目は3種の山椒を使って食事と楽しめるものを作っています。料理の邪魔はしないけれど印象には残る、そんな存在をめざして試行錯誤しています」と教えてくれました。
これらを統括する新たなカテゴリは、ボタニカルを総称する言葉に由来し、「草根木皮(そうこんもくひ)飲料」と名付けられました。「今はまだ説明する時に“ノンアルコールの”という言葉を添えていますが、いずれはそう言わずとも通用するような独立したカテゴリになるのが目標です。お酒が飲めない方は入店できないバーがあったり、快く対応してもらえなかったりするという話もよく聞きます。ライフスタイルや価値観が変わってきているのですから、飲むものだって新しいカテゴリが必要なはずです。誰もが心地良く、おいしく、ナイトライフを楽しめるようになるといいなと思っています」
2024年7月には松本の街中から美ヶ原温泉がある里山辺に製造所を移転。まもなく築100年を迎える元旅館を改装しました。
「あえて街中から離れたところを探していました。建物の良さはもちろん、このあたりの静かな雰囲気が気に入っています。のんびりマイペースにやるのが好きなんです」と野村さん。土間に設けられた製造所は清潔感にあふれ、どこか実験室のようでもあります。3階に上がらせてもらうと、窓の向こうには長閑で気持ちの良い風景が広がっていました。週末には直売所として開放されるので、松本を訪れた際にはぜひ立ち寄りたいスポットです。
草譯のアイテムは、オンラインショップや全国の取扱店でも購入が可能です。定番2種のほかに、季節限定のアイテムもラインアップ。自宅用にはもちろん、お酒が飲めない方へのギフトにもぴったりです。寒い日の朝にはホットで、湯上がりには水割りで、草根木皮飲料との出合いは、きっと人生を豊かにしてくれる、健康的で心地良い選択肢をまたひとつ広げてくれることでしょう。
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