光と色を閉じ込めるガラス作家
神通硝子製作所+出鴨屋
光と色を閉じ込めるガラス作家
神通硝子製作所+出鴨屋

ガラス作家のサブロウさんは、長らく制作活動の拠点としていた富山県から、生まれ育った滋賀県へと移住しました。きっかけは、琵琶湖のほとりで暮らした故郷への想いと、ドイツでの生活で学んだ足るを知る暮らしの実践でした。マザーレイクが魅せる自然美を表現した淡い色合いは、まるで光を閉じ込めた絵画のようです。その優しい佇まいは、「時間やモノを大切にする」というサブロウさんの暮らし方にも通じます。自身の作品づくりだけでなくガラス体験を開催するなど、さまざまなかたちでガラスの魅力を発信する新しい拠点「神通硝子製作所+出鴨屋」(じんづうがらすせいさくしょ+でがもや)にお邪魔しました。

ドイツで体験したガラスの魅力

サブロウさんは、20代の頃に3年間ほどドイツで生活していました。日本ではロマンチック街道でも知られるハイデルベルクに暮らし、その後ワイン造りの街リューデスハイム・アム・ラインで生活しながらローレライへ向かう船の中でワインを販売していたそうです。あるとき、自身の観光旅行でベルリンを訪れた際に立ち寄ったのが「カイザー・ヴィルヘルム記念教会」。ドイツの戦後を象徴する重要な記念碑となった新教会堂の特徴は、ガラスでできた壁です。フランス人ステンドグラス作家のガブリエル・ロワールによる作品で、壁一面にはめ込まれた青く輝くガラスブロックにサブロウさんは感銘を受けました。「歓声をあげながら跪き十字を切る人を見た時、ガラスを通って届く光の神聖な魅力に惹かれた」と、当時を振り返ります。

絵画的なガラス作品

帰国後、作家として生きていこうと決心したサブロウさんは、ガラスでの表現に可能性を求めて「富山ガラス造形研究所」で一からガラスを学びました。卒業後は作家活動の傍ら、地域の生涯学習教室でも講師を務めています。「地元の主婦やお年寄りが相手だと思って油断していたら、私よりも技術のある生徒さんばかりで冷や汗をかきました。さすがガラスの町だと痛感したのを覚えています」と、笑います。サブロウさんがメインとしていた技法が「キルンワーク」という技術で、電気窯(キルン)を使ってガラスを焼くというもの。パーツや色ごとにガラスの破片を並べて絵や模様を作るガラスフュージングは、教会のステンドグラスなどにも用いられてきました。そうして一枚のガラス板を成形し、今度はお皿や器などの型に合わせて再度焼成します。手間のかかる技法ですが、面としての絵画的な表現と、型で成形する立体としての造形美を追求することで独自の作風が誕生しました。

琵琶湖の波紋を表現した「あふみ」

琵琶湖の自然が魅せる美しさをガラスで表現したのが「あふみ」シリーズ。「近江(あふみ)」とは琵琶湖のことで、万葉集などに登場する呼び名です。京の都から遠い浜名湖を「遠江(とおとうみ)」と呼ぶのに対して、琵琶湖を「近淡海(ちかつあふみ)」と呼んでいました。透明度の高い湖の浅瀬に映る波紋や、光の反射できらきらと輝く色彩を追い求めて、サブロウさんはいまも日々研究しています。

「作家として活動を始めた頃からずっと作り続けているシリーズで、古来から人々に愛される琵琶湖の美しさを模様と色のバランスで表現しています。取り寄せるガラスの質によっても表情が変わるので、毎回データを取って再現性を高めつつ、新しい表現を模索しています。使いやすいサイズ感や料理との相性も考えると、可能性は無限です」

繊細な技術が詰まった「あやいと」

3mmのガラス板を2枚重ね、その間に溝を掘って複雑な表情を生みだすのが「あやいと」シリーズ。糸のように緊張感をもった直線が幾重にも折り重なることで、シンプルな要素ながら繊細な緊張感を与えています。歌川広重の描く浮世絵の雨のような表情がなんとも瑞々しく、ガラスの透明感を引き立てます。彫った溝に色粉を詰めることで浮き出す模様は涼しげで、粋を感じさせるデザイン。切り子のグラスなどとも相性が良さそうです。

「3mmのガラスは非常に繊細なので、溝を掘るのはとても神経を使う作業です。正面から見ると一枚の模様に見えますが、ガラスの重なりでわずかな立体感が生まれ、シャープな線と少し柔らかな線が“ゆらぎ”を見せてくれるのです。ミニマルな要素で多彩な自然美を表現した江戸時代の小紋柄のように、色や柄などの組み合わせで新しい表現を目指していきたいシリーズですね」

「ホットワーク」への新たな挑戦

そして、最近新たに挑戦しているのがホットワーク(吹きガラス)です。窯に入れてガラスを焼成するキルンワークに対して、鉄の棒に熱いガラスの塊を巻き付け、穴を開けて水蒸気でガラスを膨らませながら整形するピンブロー技法もそのひとつ。重力で自然に浮かび上がる形を回転させながら整えるため、「まるでスポーツのような作業で、日々練習と鍛錬が必要」と話します。ホットワークに挑戦することになったきっかけはコロナ禍でガラスの素材供給が不安定になり、自ら素材を作るために溶解炉を購入したことに始まります。これによっていままでの型による成形だけでなく、花瓶やグラスなど背の高い作品が自由に作れるようになりました。表現の幅が広がったことで「今後は独自に生み出した色の組み合わせや、模様などを取り入れた透明感のある作品を作っていきたい」と、意欲を燃やします。

まだまだ未開拓なガラスの魅力

そもそも個人の作家によるガラス作品の制作というのは、1960年代にアメリカから始まったスタジオグラス・ムーブメントが契機。芸術のなかでも比較的新しい表現手法のため、技法や設備、素材などにまだまだ可能性が眠っているところも魅力です。さらに、基本的な成分は同じでありながら、色味や硬度などは千差万別。温度によって硬さを自在に変化させることで、さまざまな形や表情を生み出していきます。サブロウさんによれば、「これほど表情が豊かな素材はほかにない」と、ガラスの持つ魅力と難しさについて話します。現在「神通硝子製作所+出鴨屋」では、工房だけでなく地域のコミュニティとしてガラス体験やワークショップなども開催。ドイツで学んだ「自然とともに足るを知る」暮らしを実践しながら、ガラスを使う楽しさだけでなく、作るおもしろさや可能性も伝えるサブロウさん。澄んだ琵琶湖の水のような作品には、親しみと同時に暮らしが潤うような魅力を感じました。暑い日が増えるこれからの季節、個人的には「あふみ」の涼しげな大皿が気になります。これでそうめんなどを頂いたら、さぞかし美味しいことでしょう。

神通硝子製作所+出鴨屋

〒520-1111 滋賀県高島市鴨1430
Tel. 0740-33-7212
※見学は事前に電話にて予約が必要です

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