優れた耐久性とスタイリッシュな佇まいが魅力の直火可能なテーブルウエア「HEGE」。プロダクトが生まれた背景には「食」を通じた豊かな時間への想いがあり、その想いを実現したのは、自動車や電化製品の見えない部分に用いられてきた日本の安全なものづくりの技術でした。
「HEGE(ヘゲ)」は、煮る、炊く、蒸すなどの調理ができる、直火可能なアルミ製のテーブルウエアブランド。卓上での効率の良い調理を叶えながら、器に移さずに温かいまま食べられるという変幻自在な存在に由来し、変化の古語「へげ」から名付けられました。わずか3mmのシームレスでシンプルな佇まいながら、タフに使い込める耐久性があり、合理的な機能美を備えたプロダクトです。
HEGEを製造、販売するのは、金属表面処理加工メーカーの日東電化工業株式会社ヘルスケア事業部。金属表面処理加工とは、いわゆる「めっき加工」のことで、自動車や家電製品などに錆びない表面加工を施す技術です。同社のメッキ処理は金属イオン、すなわちミネラルを活用するもので、1959年の創業以来、ミネラルの研究も続けてきました。
そうした研究体制やノウハウを生かし、2004年に美容を中心とした自社ブランド開発を行うヘルスケア事業部が設立されました。すでに分社化していますが、同事業部が手がけた「OSAJI(オサジ)」は、皮膚科学に基づいたスキンケアライフスタイルブランドとして星野リゾートや白井屋ホテルなどのアメニティにも採用されるなど、広く知られています。
「化粧品というのは最後の砦だと考えています。皮膚科学の観点では、食べたものが体をつくり、肌をつくる。しかも食は、健やかな肌にとって鍵となる自律神経の領域にもタッチすることができます。スキンケアの手前にある日々の食事や食習慣によるインナーケアの重要性を、ブランドを通じてお伝えしています」と話すのは、HEGEおよびOSAJIのブランドディレクターを務める、日東電化工業株式会社 専務取締兼株式会社OSAJI 代表取締役の茂田 正和(しげた まさかず)さん。
「そうは言っても現代人は忙しい。食事の大切さをわかっていても、なかなか時間が取れないというのが現実です。そこで卓上で火にかけられるテーブルウエアを通じて、手軽ながら豊かな食事の時間をご提案したいと考えました」
素材は再生可能資源のアルミニウム。軽量で加工に適し、無害、無臭。熱や電気を通しやすいという特性に工業的な技術を掛け合わせ、一枚のアルミ板から調理器具と食器を兼ねるプロダクトを実現しました。
HEGEに用いられている技術は主に3つ。はじめに「へら絞り」という技術でベースとなるボウル型に成形します。成板状の素材を回転させながらへらと呼ばれる棒を押し当てて加工するもので、容器や照明器具、大きなものではパラボラアンテナなどにも用いられています。続いて「ブラスト加工」。粒状の研磨剤を投射し、繊細で均一な凹凸を作る表面処理技術で、HEGEの特徴的な意匠である光沢をおさえたマットな質感にはこの技術が生かされています。
最後は表面の仕上げの工程にある「アルマイト加工」。iPhoneやMacBookの表面処理技術というとイメージがしやすいでしょうか。アルミニウムを電解液に浸し、電流を流して表面にナノレベルの酸化被膜を作るという原理で、HEGEにおいては硬度や耐摩耗性の向上、熱伝導率の調整、変色や腐食の防止といった効果が期待できます。
今回特別にアルマイト加工を行う工場を見学させていただきましたが、驚いたのは、工業的な技術を使いながらもそのほとんどが手作業だということ。完成までのプロセスには非常に手間が掛かっていました。「着色もこの工程で行います。染料の入った液体に浸け、被膜の厚みを増すことで濃淡を調整します」と話すのは、HEGEの製造責任者でアルマイト加工を担当する内田 謙太郎(うちだ けんたろう)さんです。
HEGEの立ち上げにあたり新たに設置したという加工ラインも内田さんが監修。HEGEらしさを表現するために、各工程の所要時間は秒単位でのテストを重ねて割り出され、すべての工程において細かくカスタマイズされています。また製品同士がぶつかると傷がついてしまうため、一度に加工できるのは2つまで。液体を乾燥させるブローイングの最終作業まで、細心の注意が払われながら手作業によって行われます。「大量生産はできませんし、手間が掛かりますが、美しく仕上がった製品がお客様の元に届き、料理が収まって『おいしそう!』と思っていただける風景を想像するとうれしくなりますね」と話す笑顔が印象的です。
「『Less is more』の考え方で、少ない方が豊かであるという引き算の美学のもと、器としても鍋としても成立しつつ、できるだけ無駄のないデザインを追求しました」と茂田さん。あまりにもシンプルがゆえに一見繊細にも見えますが、実は非常にタフで、使い込むほどに風合いが出てくるのもHEGEの特徴。
「例えばテフロン製品は塗装が剥げてしまうと機能が失われてしまいますが、アルミは傷が付き、色が剥げても機能自体が失われることはありません。アルミには『朽ちる』という表現がしっくりくる。使い込んで風合いが出てこそ、この製品の完成だと思っていますので、例えばデニムのように、美しく朽ちる過程も含めて楽しんでいただきたいですね」
お米が2合まで炊ける「φ250直火鍋」が中心のラインアップですが、2024年の秋には冬季限定で3合炊きが可能な「φ280直火鍋」が登場しました。シルエットはそのままに、たっぷり4人前の料理も余裕を持って楽しめるサイズ感です。
「スープやお鍋ももちろんですが、ぜひお米を炊いていただきたいですね。お酒を飲み、会話をしながら、みんなでご飯が炊けるのを待つ。湯気の上がる食卓ってとても豊かじゃないですか」と茂田さん。専用の木蓋や保温冷用のアンダーボウルといったアクセサリーも充実しており、1人2人でぱぱっと作るデイリーな料理にも、みんなで食卓を囲う機会にも、いつもと違った豊かな時間をもたらしてくれそうです。
調理器具と器の機能を備える合理的な機能美の背景にある、日本の安全なものづくりの技術。手間をかけたプロセスが重なりあったプロダクトからは、不思議と温もりを感じます。使い込むほどに風合いを増す工芸品のような側面も愛おしく、またひとつ、共に年を重ねていくすてきなアイテムとの出合いになりました。
セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードが
ご利用いただけます。
https://www.hege.jp