暮らしのなかに美と豊かさの本質を見出す
MANUFACTO STORE
暮らしのなかに美と豊かさの本質を見出す
MANUFACTO STORE

イタリアと日本の職人技にモダンなデザインが融合した「Hands on Design」や、イタリアで使われてきた美しい日用品たちを集めた「Memories of Italy」。これらのブランドを立ちあげたデザイナーの椎名 香織さんとパートナーのリカルド・ナルディさんは、2023年にミラノからトスカーナへ移住しました。オルチャ渓谷の中心地であるSan Quirico d'Orcia(サン・クイリコ・ドルチャ)にオープンさせた「MANUFACTO STORE(マヌファクトストア)」で、豊かさや美の本質についてうかがいます。

夢を叶えるためにイタリアへ

デザイナーの椎名 香織(しいな かおり)さんは、インテリアデザイナーを目指して24歳でイタリアへ渡りました。ペルージャの語学学校へ通いながらデザイン学校への進路を考えていたところ、幸運にも建築デザイン会社への就職が決まり、イタリアでの暮らしが大きく変わります。

「日本で学生をしていた当時、たびたびメディアでクリエイターの自宅やオフィスなどが取り上げられていました。斬新でクリエイティブな空間に衝撃を受け、インテリアデザイナーになりたいと思い、イタリアへ留学したのです。語学学校へ通っていた日々は大変ではありましたが、かけがえのないすばらしい時間を過ごすことができました。デザイン学校に進学する準備をしていたのですが、幸運にも『デパス・ドルビーノ・ロマッツィ』という、ミラノでもトップクラスの建築デザイン事務所に就職できることになりました。おかげで、イタリアモダンを追求した1970年代を代表するようなクリエイター達から実践的なデザインを学ぶことができたのです。その頃の私はイタリアでの生活と仕事に没頭していて、たまに日本の母から電話がかかってくると上手に日本語が出てこなくなるほどでした(笑)」

ミラノで立ちあげた「Shiina + Nardi Design」

その後、デザイナーとして独立した椎名さんは、リカルド・ナルディさんと出会います。ミラノ、スイスでデザイナーとして活躍し、トスカーナで照明のデザインをしていたリカルドさんと一緒に立ちあげたのが「Shiina + Nardi Design」。ミラノを拠点に日本やイタリアの職人とともにさまざまなプロダクトを生み出します。その頃、2013年にミラノデザインウィークの企画で、日本関連のイベントをキュレーションするという依頼を受けます。それぞれの業界に精通し、イタリアの職人とその仕事を尊敬していた二人は、イタリアの職人企業とヨーロッパ在住の日本人女性デザイナー6人とのコラボレーションで作品を作るというテーマを選びました。発表した作品もイベントもとても評判が良かったため、2014年のデザインウィークでも同じテーマで、会場や参加者を変えて展覧会を開きます。その展覧会の名前が「Hands on Design」。2015年に、改めてブランドとして発表することになります。

完璧な技と美の追求「Hands on Design」

本格的にブランドとして立ちあがった「Hands on Design」は、コストや生産効率を優先させるのではなく、完璧な美しさを目指して生み出されるプロダクトブランド。最先端のモダンデザインを一流の職人が実現するというもので、あくまで主役は作り手というブランドの姿勢が特徴です。ユニークなのは、デザイナーをコンペ形式で選抜している点。職人の技術や歴史的な背景、地政学的な文脈などをリサーチし、どのようなプロダクトを作ることができるのか緻密なレポートを作成します。その資料をベースに参加希望のデザイナーへ実施されるブリーフィングには、著名デザイナーから学生まで希望者が参加します。

「さまざまなアイデアを職人と相談しながら選抜し、何を作るか決めるのが私たちの仕事です。良い作品を作り上げるためには綿密な打ち合わせが求められます。ですから、新型コロナウイルスによるパンデミックでコミュニケーションが遮断され、プロジェクトは完全にストップしてしまいました」と、椎名さんは当時を振り返ります。

自然と暮らす生活を求めてトスカーナへ

ミラノに暮らしていた二人は、ときおり豊かな自然を求めてサンタ・フィオーラなどのトスカーナ地方にある小さな村で休暇を過ごしていたそうです。トスカーナはリカルドさんの地元でもあり、各地を旅するなかでひときわ心を惹かれたのがオルチャ渓谷です。

「30年前に初めてオルチャ渓谷を訪れた時に、自然を見て心の底から湧いてくる感動に涙が止まらなかったのです。その後、何度もこの地を訪れ、いつか移住することを夢見ていました。本格的に移住を検討するにあたって冬のオルチャ渓谷も体験してみようということで、ペトロイオという街に家を借りて2年ほど2拠点生活を送りました。やはり美しい景色はすばらしく、トスカーナに暮らすという夢を実現したいと強く思うようになりました。そんなタイミングで、借りていた家の隣の物件が空いたという知らせを受け、その家に憧れていた私たちは決断を迫られたのです」

すぐにミラノの自宅を売却できないか検討したところ、これもタイミング良く話が進んだこともあり、ついに二人は移住を決意します。家が早く売れてしまったため新居の改装にあまり時間がとれず大変だったそうですが、愛犬のプパ(ラゴット・ロマニョーロ)との穏やかな生活を手に入れることができました。リカルドさんが「私は都会での暮らしは好きになれませんでした。自然のそばで暮らしたかったのです」と話すとおり、もとの住人だったイギリス人が手を入れたという庭からはオルチャ渓谷の絶景が望めます。

思い出とともに語る「Memories of Italy」

コロナによって変化したのは生活拠点だけではありませんでした。外に出られず自宅で過ごす時間が増えた椎名さんは、イタリアで昔から使われてきた暮らしの道具たちに新しい気付きを得ます。それはワインなどを入れるカラフェやグラス、大理石のすり鉢など、イタリア人ならおなじみの道具たちです。

「改めて生活と向き合ったときに、長いイタリア生活のなかで普段使ってきた道具にある種の懐かしさを感じたのです。日本人である私ですが、すでにイタリアの道具に懐かしさを覚えていることに驚きました。新しいデザインを求めてきましたが、イタリアで過ごしたこれまでの時間を振り返りながら、私なりにイタリアでの生活を編み直すプロジェクトを始めたいと思いました」と、インスピレーションのきっかけを話します。テラコッタで作られたカラフェなど、そのままでは素朴過ぎるアイテムも、椎名さんの手にかかると洗練された雰囲気に仕上がるから不思議です。

暮らしにデザインを提案する「MANUFACTO STORE」

ミラノから離れた二人は活動の拠点として、オルチャ渓谷の中心地であるSan Quirico d'Orcia(サン・クイリコ・ドルチャ)にオフィスを兼ねたショップ「MANUFACTO STORE(マヌファクトストア)」をオープンしました。「Hands on Design」や「Memories of Italy」をはじめ、日本とイタリアの職人による“心のこもったもの”だけを扱うお店です。椎名さんからそれぞれのアイテムにまつわるエピソードを教えてもらうと、時を超えても残る作り手の想いを感じます。暮らしに潤いを与えるプロダクトは、効率や手軽さだけを追い求めず、それでいて実用性や美しさを手放さないライフスタイルに共鳴するのでしょう。美しい街並みに相応しい品揃えはバカンスで訪れた都会暮らしの富裕層にも評判で、少しずつコミュニティの輪が広がっています。

美しさには人を癒やす力がある

ひとはなぜ美しさを求めるのでしょうか。椎名さんとのインタビューのなかで、ペトロイオの自宅を改修するにあたって工事がうまく進まなかったエピソードがありました。環境の変化などもあり、とても強いストレスを感じたそうですが、それでもオルチャ渓谷の美しい景色を眺めると心が癒やされたそうです。ミラノで忙しく活躍していた日々を振り返り、「金曜の夜になると都会の喧噪から逃げ出すような暮らしよりも、美しい自然に抱かれ、生活を楽しみながら丁寧に仕事を発展させていきたい」と話します。そして、「美しいものには人を癒やす力がある」と続けた言葉が印象的でした。そこには、日々の営みにおける“特別ではない瞬間”に美しさと豊かさを見出す優しいまなざしを感じます。2024年10月には「阪急うめだ本店」にて開催される「イタリアフェア 2024」にて「Memories of Italy」も初出店するとのこと。ぜひ、イタリアの美と豊かさのエッセンスに触れてみてください。

イベント詳細

「イタリアフェア 2024」
場所/阪急うめだ本店 9階 催場・祝祭広場
期間/2024年10月30日(水)〜11月4日(月・休)
問い合わせ/06-6361-1381(代表)
対応時間:10:00~20:00

Manufacto Store

Via Dante Alighieri 89
53027 San Quirico d’Orcia (SI)

https://manufacto-store.com/

Memories of Italy

https://memoriesofitaly.it/ja/

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