無垢なる自然を五感で味わう
MEMU EARTH HOTEL
【後編】滞在することは壮大な社会実験への参加
無垢なる自然を五感で味わう
MEMU EARTH HOTEL
【後編】滞在することは壮大な社会実験への参加
サーバーメンテナンスのため、2021年10月27日(水)AM5:00〜8:00の間
PT MAGAZINEはご覧いただけません。ご了承ください。

寒冷地実験住宅施設を前身とする「MEMU EARTH HOTEL(メム アースホテル)」には、全部で8棟の実験住宅が点在しています。そのうちの5棟には実際に滞在することができ、それぞれ異なるテーマを体験することができます。建築家の視点や考え方によって、このホテルでの体験はまったく違うものになることでしょう。コンセプチュアルなホテルの魅力をご紹介します。

体験の窓口「スタジオメム」

ホテルのレセプションであり、レストランでもある「スタジオメム」。築40年以上経過した牧草保管用の倉庫を建築家の伊東豊雄氏がリノベーションした貴重な建物です。薪の暖炉が印象的な空間には「インスピレーションスペース」と呼ばれるエリアがあります。大きなカヌーや釣り竿、望遠鏡に自転車などのさまざまなアクティビティツールに加え、アイヌ民族に関する文献や、環境建築などに関する書籍が用意されています。この棚を眺めながら「何をして過ごそうか?」と思いを巡らすことから滞在が始まります。

隈研吾による実験住宅「Même」(2011年)

このホテルのアイコンでもある建築家、隈研吾氏による「Même」。アイヌの伝統的な住居である「チセ」をモチーフにした白亜の住宅は、壁が断熱性の高い膜材でできています。触ってみると外壁も内壁も柔らかい布のような素材で構成されており、夜になると室内の明かりを透過し、幻想的な佇まいとなります。膜材の間にできた空間が断熱材の役割を果たし、蓄熱式の床暖房を用いることで、室内は充分に温かく保たれます。内部の仕切りも巧みに膜材で仕切られ、いわゆる「住宅」のイメージを覆す手法に建築の可能性を感じました。

風景と空間が溶け合う「HORIZON HOUSE」(2013年)

ハーバード大学デザイン大学院による「HORIZON HOUSE」は、「大自然のリトリート」がコンセプト。最大の特徴は室内から360°の景観を楽しめる窓。リビングスペースの窓は地面から約80cmの高さに設置され、夏は草で目線が隠され、冬は積もった雪と地続きになるように設計されています。フロアは三層構造になっており、季節に応じて居場所を変えることで一年を通して快適な環境を生み出すというもの。大自然のパノラマ風景と四季折々の変化を感じることができます。

厳しい環境にあえて向き合う「INVERTED HOUSE」(2015)

オスロ建築デザイン大学によって2015年に設計された「INVERTED HOUSE」は、「冬の厳しい寒さを楽しむ」というコンセプトが斬新な一棟。一見、コンクリートの瀟洒な住宅に見えて、完全な室内はごくわずかなエスケープゾーンのみ。リビングや寝室、キッチン、浴室はすべて屋外で過ごすことを前提としています。常に自然と一体となることで環境や季節の変化、天気の移り変わりを敏感に感じることができると、ユニークなアプローチに宿泊を希望するユーザーも多いそうです。(現在、宿泊は夏期のみ)

命の熱を感じて暮らす「BARN HOUSE」(2012)

慶應義塾大学による「BARN HOUSE」のコンセプトは、「納屋の家」。多くのサラブレッドを生み出した「大樹ファーム」の記憶を受け継ぎ、馬と人間が共存する新しい住宅の可能性を表現しています。最大の特徴は、厳しい寒さを命の温もりで暖かく過ごすという発想です。その仕組みは、人間の10倍とも言われる馬の代謝熱と、80℃にもなる堆肥の発酵熱を活用するというもの。今後は自分の飼っている馬と一緒に泊まれる部屋として貸し出すそうで、馬を飼っている家族にとってはどこよりも温かく冬が過ごせる実験住宅です。

“足るを知る”を体現する「町まとう家」(2011)

酪農が盛んな大樹町の青草を活用した「町まとう家」は早稲田大学によるもの。「いまあるもので、今以上の豊かさを得る」というコンセプトで、青草を断熱材として用いているのが特徴です。乾燥した青草を壁に収納する構造で、遮熱スクリーンとしてだけでなく発酵による熱源利用などの実証実験も行われました。「小さな移住先」として連泊するユーザーも多い実験住宅です。

これからの“建築”を考えるきっかけ

“建築の聖地”と呼ばれるMEMU EARTH HOTELには、ここまでに紹介した実験住宅以外にも、意欲的なコンセプトの建築が点在しています。アイヌの伝承に着想を得たスパ「コロボックルネスト(九州大学/2018)」や、畑の家をテーマにしたエディブルハウス「NEST WE GROW(カリフォルニア大学バークレー校/2014)」、季節で建築の役割が変化する「INFINITE FIELD(デンマーク王立芸術アカデミー/2016)」など、いずれも次世代の建築や住宅を示唆するものばかり。さらに、2021年には築30年の厩舎を宿泊室付きの研究施設に改築。競走馬が走っていた巨大な屋内走路を果樹園やカフェとしてオープンするなど、まだまだ実験は続くといいます。

便利さは本当に豊かなのか?

MEMU EARTH HOTELでの滞在は、未来への示唆に富んだ興味深い体験でした。「Même」に滞在した夜、知的好奇心が刺激された私たちの思考は歴史や環境、アイヌの伝統文化やこれからの暮らし方など自由奔放に飛び交いました。そして、都市部への一極集中によって効率や安全性を高めてきた私たちの住環境は、家族構成やライフスタイルによってもっと自由に発想しても良いのだと気付かせてくれます。インターネットによって分からないことはその場で調べられる文明を手にしながら、薄い膜のような外壁の外には圧倒的な大自然が広がっている。頭では理解していても、非日常的な環境に心と身体が解放されていくのを実感しました。便利さや豪華さとはひと味違うコンセプチュアルな宿泊は、新しいラグジュアリー体験としてますます注目を集めそうです。

MEMU EARTH HOTEL

〒089-2113 北海道広尾郡大樹町芽武158-1
Tel. 01558-7-7777

とかち帯広空港より車で約50分(約40km)
釧路空港より車で約120分(約110km)
新千歳空港より車で約180分(約200km)

※敷地内に駐車場をご用意してあります(無料)
※とかち帯広空港からの送迎につきましては、ご予約の際にご相談ください。
http://memu.earthhotel.jp/