無垢なる自然を五感で味わう
MEMU EARTH HOTEL
【前編】壮大な自然に身を浸し、本質的な豊かさに想いを馳せる
無垢なる自然を五感で味わう
MEMU EARTH HOTEL
【前編】壮大な自然に身を浸し、本質的な豊かさに想いを馳せる

北海道の雄大な景色のなかに佇むのは、隈 研吾氏をはじめ、世界中の建築家によるいくつもの実験住宅。これらの先進的な建物をホテルへコンバートしたのが「MEMU EARTH HOTEL(メム アースホテル)」。「地球に泊まり、風土から学ぶ」というコンセプトは、これからの時代になにを示してくれるのでしょうか。前編と後編の2回にわたってその魅力に迫ります。

宇宙に近い場所

北海道の中央から南部を貫く日高山脈。その東側に広がる十勝平野は、大規模農業や酪農、畜産などが盛んな地域として知られています。また、MEMU EARTH HOTELのある大樹町は、穀倉地帯としてだけでなく「宇宙のまち」としても注目を集めています。きっかけは「インターステラテクノロジズ株式会社」が開発した観測ロケット「MOMO(モモ)」。日本の民間企業が開発し、初めて宇宙空間に到達したロケットということで大きな話題となりました。雪が少なく、晴天日数も多いという気象条件に加え、広がる大地と空、そして海のそばという地理的条件からも、世界有数のロケット打ち上げに適した環境といわれています。大自然を五感で感じるのにも最適な環境といえそうです。

きっかけは10年前の東日本大震災

この場所にはもともと、多くのサラブレッドを産みだした「大樹ファーム」のトレーニングセンターがありました。2011年に牧場の移転と東日本大震災が重なり、「公益財団法人LIXIL住生活財団(現・一般財団法人住環境財団)」が寒冷地における持続可能な暮らしを住宅の視点から実験する「メム メドウズ」というプロジェクトをスタートさせました。その第一号が建築家の隈 研吾氏による「寒冷地における実験住宅 Même」。翌年から「国際大学建築コンペ」の最優秀作品を施設内に建設していくことで、いつしか建築の聖地と呼ばれるようになったのです。「当時のメム メドウズはSDGsなどの研究者にしか活用されていませんでした。そこで、施設の魅力を多くの人に知ってもらおうと始まったのがMEMU EARTH HOTELなのです」と、代表取締役社長の野村 昌広さんはホテルのルーツについて話します。

“地球に泊まる”とは?

以前から教育や自然環境に関心があった野村さん。初めてこの場所を訪れたときに「この建築に泊まってみたい」と思ったそうです。

「環境問題は大切だと思うけれど、具体的に何をすればいいのかわからない部分がありました。しかし、こうした建築に実際に宿泊することで、サステナビリティや新しいライフスタイルへの気付きが得られるのではないだろうか。難しい話よりも、まずは自然のすばらしさを体験することが一番だと思いました。大自然は過酷な環境に思えますが、すばらしい作物はできるし、明かりが無いから星が美しい、静かだから風の音が聞こえる。余計なものが存在しない無垢な場所で過ごす原体験を“地球に泊まる”と表現しています」。ちなみに「MEMU」というのは、アイヌの言葉で「水の湧き出る地」を意味するそうです。

そして、“風土から学ぶ”

MEMU EARTH HOTELの試みは、寒冷地における実験住宅を宿泊施設に変えただけではありません。食やアクティビティを通じて十勝の自然を全身で体感することで、より具体的に持続可能なライフスタイルの社会実装を試みています。その一環として“資源再読”をテーマに、持続可能性の研究に取り組む「東京大学生産技術研究所」と連携。研究所内に「MEMU ERATH LAB」を立ち上げ、十勝という大地から多くの学びを得て世界へ発信しています。最終的には「十勝という大地をまるごと保存する実験」というから、そのスケールは壮大です。

大量生産農法からの気付き

また、料理も風土から学ぶアクティビティのひとつです。レセプションとレストランを兼ねた「スタジオメム」でいただくのは、まさに十勝をまるごと凝縮したようなコース料理。シェフの石川大地さんは「十勝でできた食材は、ともかく味が濃い」といいます。「そもそもこの辺は大規模農業がメインです。しかし、環境と自分たちの繋がりを実感した生産者たちがアクションを起こしたことで、一気に土地の個性が豊かに感じられるようになりました。農地の土を変えたことで草が変わり、それを餌とする牛の牛乳や肉の味が良くなったのです」と、石川さん。東京での修行を経て、久しぶりに戻った地元で強烈な魅力を放つ素材に感銘を受けました。そのインパクトを素直に表現した料理だからこそ、食事を楽しみに来るリピーターが多いというのもうなずけます。

地産地消のインパクト

コース仕立ての料理に使われる素材は十勝周辺の生産者から届いたものばかり。札内川の伏流で育ったマッシュルームを乾燥させて出汁をとった「飲むマッシュルーム」や、イースト菌を使わずに発酵させた自家製のパン、秋鮭のムニエルや「食べるスープ」、日高山脈で完全放牧されたグラスフェッドビーフなど、ローカルガストロノミーを堪能することができます。都市部には流通していない地産地消の食材たちは、素朴な見た目とは裏腹に、強烈な個性と野生味のあるうまみを発散させていました。

さまざまなかたちのサステナビリティ

次回は“建築の聖地”と呼ばれる由来となった、数々の意欲的な建築物についてご紹介します。プロジェクトのコンセプトモデルを設計した隈 研吾氏の実験住宅「Même」をはじめ、伊東豊雄氏によるリノベーション建築である「スタジオメム」や国際大学建築コンペの最優秀作品群。すべての建物に共通する基本テーマは「寒冷地における持続可能な暮らし」。それぞれの建築家が未来へ向ける眼差しを実際に体感することで、自分なりのライフスタイルや自然に対する視座を養うきっかけが生まれてきそうです。これからの生き方に求められる“本質的な豊かさ”とは、いったいどのようなものでしょうか。後編をどうぞお楽しみに。

MEMU EARTH HOTEL

〒089-2113 北海道広尾郡大樹町芽武158-1
Tel. 01558-7-7777

とかち帯広空港より車で約50分(約40km)
釧路空港より車で約120分(約110km)
新千歳空港より車で約180分(約200km)

※敷地内に駐車場をご用意してあります(無料)
※とかち帯広空港からの送迎につきましては、ご予約の際にご相談ください。
http://memu.earthhotel.jp/

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