湖北の美しさに満たされる
福田屋
湖北の美しさに満たされる
福田屋

湖上交通の要衝として栄え、宿場町や船待ち処として賑わった近江の今津(いまづ)。地域で一番の店構えを誇り、浜通りのランドマーク的な存在でもあった「福田屋」が、2020年に一棟貸しの宿として生まれ変わりました。1日1組のためだけに提供されるもてなしは、実に贅沢な体験です。琵琶湖を眼前に望む圧倒的なロケーション、料理人である主人の振る舞う滋味溢れる湖水料理など、福田屋に滞在すると何気ない時間が満たされていきます。

美しい古代湖

日本一の面積を誇る湖であり、近畿地方の水源としてライフラインを支えている琵琶湖。地元では「Mother Lake(母なる湖)」として親しまれています。通常、湖は山々が蓄えた水とともに少しずつ堆積する土砂によって1万年程度で消滅してしまうのですが、琵琶湖は約400万年以上も昔から存在しています。10万年以上の歴史を持ち、なおかつ固有の生物が生息している湖は「古代湖」と呼ばれますが、琵琶湖もそのひとつ。澄んだ淡水には1700種を超える水生の動植物が生息しており、「ビワマス」など60種を超える固有種が確認されています。比叡山や比良山の麓を通る「西近江路(にしおうみじ)」や鯖街道としても知られる「若狭(わかさ)街道」を主なルートとして、古来より北陸と京都や奈良を繋ぐ交通の要衝として栄えました。

今日は今津か長浜か

琵琶湖の北西部にある高島市は、琵琶湖に注ぐ水の約3割を生み出している安曇川(あどがわ)の流れる地域。日本列島の日本海側と太平洋側を区切る中央分水嶺でもあり、対岸の長浜と船で結ばれています。日常生活においても山から注ぎ込む天然水や湧き水が使われ、水を大切にする文化がいまなお根強いエリアです。安曇川を少し北に上った今津は、琵琶湖を行き交う船の玄関口として栄えた町。古くより海上安全の守護神として祀られた「住吉神社」など、宿場町の風情をいまに伝えます。後の近江兄弟社として「メンターム」を普及させた建築家、ウィリアム・メレル・ヴォーリズによる建築群なども多く残り、街を歩くと往時の賑わいを思わせます。海沿いの街道とはひと味違う、さらりと軽やかな空気が心地よく、穏やかな琵琶湖によく合います。

街のランドマーク「福田屋」

琵琶湖に最も近い浜通りには、その昔多くの旅籠や商店が立ち並び、商人や文化人で賑わったといいます。内海のほとりに建つ福田屋は地域でも一番の店構えを誇り、築140年を越える建物は6年ほどかけて改修されました。1階には旅籠を思わせる番台がそのまま残され、趣のある和室や浴室などがそろい、坪庭が視線を奥へと誘います。囲炉裏から漂う懐かしい香りを追って進むと、目の前には瑠璃色に輝く琵琶湖が広がります。モダンに改装されたダイニングからそのまま湖へ出て泳ぐこともでき、静と動のコントラストがなんとも鮮やか。身体が冷えたらデッキからそのまま浴室へ向かい、湯船に浸かることができるというのも立地を生かした楽しいアクティビティです。2階の宴会場を改装した客間は、ゆったりと寛げる畳の間。大きな窓からは湖の対岸に伊吹山を望み、竹生島へ向かう船がときおり波を立てていきます。ゲストは1日1組(最大6名)なので、静かな風情を心ゆくまで堪能することができます。

自分でもてなしたかった

福田屋の運営は広島県尾道市のAzumi Setodaと同じ株式会社ナル・デベロップメンツによるもの。主人を務める西村 一樹(にしむら かずき)さんは、ラグジュアリーホテルで料理人として修行しながら腕を磨きました。

「もともと比較的大きなホテルで料理を作っていたのですが、もっとお客様の顔が見えるおもてなしがしたいと思っていたんです。そんなタイミングで代表の早瀬に誘われたのがきっかけで滋賀に来ることになりました。この景色と心を尽くした手料理を堪能してもらいたいと思って、サービスのコンセプトは“おばあちゃんの家”にしています。“食材の良さと生産者の魅力を伝える”というのが私の役割だと思っていますので、料理は近所の魚屋さんから揚がる琵琶湖の淡水魚を中心に、福井県の小浜湾から仕入れた新鮮な魚介類や、琵琶湖の対岸から届く近江牛などをご用意しています。朝食では粒が大きな『いのちの壱』を炊きたてでお召し上がりいただきます。伝統的な湖水料理の魅力をゆっくり味わいながら、ふるさとに帰ってきたようなつもりでこの景色や風土を堪能してもらえたらうれしいです」

繊細な味で楽しむ旬の変化

最近では「ゲストの要望に合わせてどんどん料理の幅が広がっている」と笑う西村さん。囲炉裏で煮込んだ近江地鶏のスープは翡翠ナスの葛寄せ豆腐が地鶏の食感を引き立て、ブータン産の松茸が秋の訪れを感じさせるひと皿です。お造りは湯引きしたハス、ウグイ、ビワマスなど、琵琶湖の恵みと繊細な味の違いを楽しめます。瀬戸田の八朔(はっさく)の酸味が効いた摘み野菜のサラダをいただいていると、炭火焼きの香ばしい香りが漂ってきました。近江牛のヒレはオリジナルの黒胡椒ソースと合わせていただくのですが、香ばしい香りと脂の甘さが際立つ一品。イチジクの葉に包まれた近江牛のすじ肉では、ブルゴーニュの白がよく合いました。締めには地元高島のマキノ栗を使った炊き込みご飯に鯉濃(こいこく)を合わせて。お米のほのかな塩みと栗の甘さが後を引きます。

気軽な滞在に最適な「うさぎ屋」

福田屋から浜通りを歩いて数分の場所にあるのが、姉妹宿「うさぎ屋」です。こちらはいわゆるキッチン付きのレイクサイドハウスで、2階建てのフレキシブルな空間は長期滞在にもおすすめ。福田屋から料理を届けてもらうことはもちろん、立派なキッチンが設置されているので、地元の食材を買ってきて自分たちで料理するのもまた一興です。モダンな1階の洋室と、広々した2階の和室を使い分けることができ、それぞれ備えられたお風呂では異なる雰囲気を楽しむことができます。こちらも福田屋と同じように琵琶湖に直接アクセスできるので、泳いだりカヤックなどの水遊びをするのにもぴったり。春には1階の半露天風呂から桜が望めるとのことで、なんとも風流な雰囲気に身を浸すことができそうです。

京都から足を伸ばして

「冬になると雪景色のなか、湖面から湯気が立ち上るんです。そこに水鳥がやってきてなんともいえない幻想的な美しさに包まれます。夏の入道雲も秋の紅葉も、この景色は何百年も昔から変わらないと思うと不思議です」と、好きな季節について話す西村さん。最近では、日本の魅力をより深く知りたいと、インバウンドのゲストが京都から足を伸ばしてくるケースも増えているそうです。そこで、福田屋ではさまざまなゲストが好きな時間に夕食を楽しめるように、予約時間を17:30〜21:30と余裕を持たせています。すべてが自分のためだけに用意されているという心地よさは、何物にも代えがたい贅沢です。琵琶湖のほとりで宿の本質に触れた気がしました。この冬、湖北の美しさに浸ってみてはいかがでしょうか。

福田屋

〒520-1621 滋賀県高島市今津町今津 76
Tel. 0740-22-0029

セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードが
ご利用いただけます。
https://fukudaya.jp

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