“旅館”の新しい解釈
Azumi Setoda
“旅館”の新しい解釈
Azumi Setoda

瀬戸内海の穏やかな気候と、140年前の歴史を持つ豪奢な邸宅を改装した「Azumi Setoda」。余白を感じさせる空間は、伝統的な旅館文化の魅力と日本を旅する素晴らしさに改めて気付かせてくれます。伝説のホテリエであるエイドリアン・ゼッカによって再定義された「現代の旅館」は、地域住民と緩やかに溶け込む新しい旅のフレームワークとしての可能性を秘めていました。

旅館文化の再構築

伝説的なホテリエ、エイドリアン・ゼッカによる旅館ブランドとして誕生した「Azumi Setoda」。ジャーナリストとして東京に暮らしていたこともあるゼッカ氏は、日本各地を旅するなかで、その土地に根付いた主人が営む“旅館”というスタイルに魅せられてきました。目指したのは、家庭的なもてなしや地域に溶け込む心地良さに加え、ホテルライクな快適さやプライベートな感覚を融和させた新しいデスティネーションとしての旅館です。日本古来の旅館を現代風に解釈することで、旅先に新しい心地良さを生み出しました。

蘇る名建築の魅力

ゲストを迎えるのは、かつて瀬戸田で製塩業や海運業を営んでいた豪商「堀内家」の邸宅を受け継いだ建物。140年前、当時最高水準の建築技術をもっていたであろう職人を京都から呼び寄せ、全国から集められた上質な素材をふんだんに使って建てられたと言われています。改修にあたっては、数寄屋造りの日本建築を専門とする京都の建築家、三浦 史朗さんに依頼。木や石などの自然な素材を活かし、瀬戸田の湿気をはらんだ心地よい潮風、日差しと影が織りなす瀬戸内特有の心地よい空間を生み出しました。一階の黒漆喰と二階の白漆喰のコントラストが美しく、「鞠垣」に倣った高い垣根に囲まれた庭園とのバランスは一日を通してさまざまな表情をみせます。緻密に計算されているのにリラックスできる、そんな不思議な空間です。

古の海の民“アズミ族”

瀬戸田のある広島県の生口島は瀬戸内海のほぼ真ん中に位置します。現在では世界有数のサイクリングロード「瀬戸内しまなみ海道」が有名です。瀬戸内海と北海道を繋ぐ「北前船(きたまえぶね)航路」は塩や石炭を運ぶのに適しており、多くの商船が行き来していました。穏やかな瀬戸内を眺めていると、さまざまな民族が海を越え、交わることで現代まで発展してきた歴史を感じます。Azumiの名前も、海の神である「綿津見命(ワタツミ)」を祖とする海人(あま)族のひとつ「アズミ族」から付けられました。太古へのイメージが掻き立てられる、海洋交易の拠点に相応しい名前です。

現代の女将

そして、この場所を旅館たらしめているのが“女将”の存在。ホテルでいうところのジェネラルマネージャー(総支配人)としてプロジェクトに参加したのが窪田 淑(くぼた よし)さん。イギリスのホテル学校を卒業して、最初に働いたのがアメリカのワイオミングにある「アマンガニ」でした。そこからバリ、ブータンとアマンリゾートを渡り歩き、アマネムができるタイミングで日本に帰ってきた生粋のホテリエです。

「弊社代表の岡 雄大や早瀬 文智ともアマンで出会い、このプロジェクトに誘われました。ゼッカ氏と一緒に旅館をはじめると聞いて、すぐに瀬戸田に引っ越しました。それは、この土地の良さや歴史を知識として理解するだけでなく、地元住民の一員になることでゲストやスタッフとの翻訳者になりたいと思ったから。『湯上がりに目の前の商店街でコロッケを買って、レモンサワー片手に海の夕暮れを眺めていた』『近所のお庭に招かれて一緒にミカンをもがせてもらった』といったゲストの体験を伺うと、Azumiがこの土地と同調し始めているのを感じると同時に、これは得がたい贅沢を提供できているのではないかと感じています。普段着で出迎えるけれど、Azumiらしい豊かさはたくさん用意しておく。女将としては、そんな裸足の心地良さを感じて頂けたら嬉しいですね」

地域に溶け込む贅沢

Azumi Setodaの目の前にある「しおまち商店街」を挟んだ向かいに立つのが、「yubune」。宿泊ゲストは無料で利用できるだけでなく、近隣の住民やサイクリストも利用できるいわゆる「銭湯」であり、14室の客室を備えた宿泊施設でもあります。瀬戸内の情景を描いた石張りの作品は美術家のミヤケ マイさんによるもの。「このしおまち商店街は “潮を待つ”が由来。天候が落ち着くまで多くの海夫がこの地を賑わせていた」と、湯船に浸かりながら交わされる地元住民の話が印象的でした。

異国を思わせる料理

Azumi Setodaの料理は、京都の名店「ブランカ」の吉岡哲生さんが監修。この日お料理を振舞ってくれた受川さんは、「コンセプトを決めるとき、“海のシルクロード”というキーワードが出てきました。船で海に出て、新しい文化に触れて持ち帰る。そんなダイナミズムがこの土地の魅力だと感じていて、ここ瀬戸田近郊の新鮮な食材と織り交ぜた時に新しい食体験を提案できると思っています。この大皿も建物と一緒に堀内家から受け継いだものなんですが、あらためて見ると九谷焼のハイカラな雰囲気などは異国情緒を感じさせます。新しいけれど、どこか懐かしさもある。そんな、旅人のパーソナルな体験を刺激するような料理を楽しんで頂きたいですね」と言います。

街が育つ楽しみ

ホテルの快適さと旅館の心地良さ。そして、そこはかとない豊かさを感じるのは、自然と地域に溶け込む体験ができること。旅先で身を預ける宿泊施設としての機能だけでなく、女将やスタッフを通して垣間見るその土地の魅力。これは、大規模なホテルやリゾートでは体験できない旅館ならではの醍醐味です。しおまち商店街には、新しいコミュニティスペース「SOIL SETODA」もオープンし、ますます活気に満ちていきそうです。世界的なリゾートブランドを作り出したゼッカ氏は、この地に小さなコミュニティが持つ多様性と可能性を見出したのかもしれません。涼しくなるこれからの季節に、癒しの旅を満喫できそうです。

Azumi Setoda

〒722-2411 広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田269
Tel. 0845-23-7911
セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードがご利用いただけます。
https://azumi.co/setoda/

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