潮騒と癒やしを求めて
沼津倶楽部
潮騒と癒やしを求めて
沼津倶楽部

明治時代には皇室の御用邸が置かれ、政財界をはじめとする時の要人に安らぎを与えてきた静岡県沼津市。東海道の千本松原に佇む「沼津倶楽部」は、三千坪の庭園「松石園(しょうせきえん)」と有形文化財の「和館」、そして数寄屋建築の匠を受け継ぐ「宿泊棟」など、日本の伝統と風格でもてなしてくれます。海風の香りと潮騒に包まれて過ごす時間は、忙しい日々を送る私たちの心と体を静かに癒やしてくれる絶好の隠れ家といえそうです。

四季を通じて温暖な沼津

伊豆半島の付け根部分に位置する静岡県沼津市。温暖な気候で海の幸と山の幸に恵まれたこの土地は、喧噪から離れた閑静な避寒地として人気を集めてきました。皇室の御用邸が置かれていたこともあり、古来より人々を癒やしてきた場所であったことが伺えます。東海道随一といわれる景勝地「千本松原」には、この地ゆかりの歌人である若山 牧水らの文学碑があり、都会の暮らしに疲れた芸術家にとっても安息の地であったようです。駿河湾越しに臨む松林と富士山を眺めていると、それだけでなんとものどかな気分になっていきます。

潮風を抱く隠れ家

「若山牧水記念館」のすぐそばに、ひっそりと門を構えているのが「沼津倶楽部」。立派な松林に守られながら、重厚な存在感でゲストを迎えます。有形文化財に指定されているかやぶき屋根の「長屋門」を抜けると現れるのが「宿泊棟」。「二期倶楽部本館」の建築を手掛けたことでも知られる建築家・渡辺 明さんによる最後の建築作品です。部屋の前には穏やかな駿河湾と共鳴するような水盤が広がり、水鳥が心地よさそうに寛ぎます。三千坪の敷地には、わずか8室の客室にスパを備えた宿泊棟と和館のメインダイニングのみ。まさに、隠れ家と呼ぶに相応しい佇まいです。

文化遺産を堪能する

この場所の歴史は、明治40年(1907年)まで遡ります。「肝油ドロップ」や薬用石鹸「ミューズ」で知られる「ミツワ石鹸」の二代目社長であった三輪 善兵衛によって、近代和風建築の粋を集めた美しい数寄屋造りの「松岩亭(しょうがんてい)」が作られました。建築を手掛けたのは、当代随一の名棟梁といわれた柏木 祐三郎。すべての部屋が茶室としても使用できるというユニークな構造で、「千人茶会」を行えるように設計されたといわれています。現在の沼津倶楽部では「和館」と呼ばれ、メインダイニングやゲストが憩うサロンとして活用されています。手吹きガラスの窓に映り込む松林が、なんとも風流です。
「現代では再現できないと言われる数寄屋造りの名建築を一部改修し、二棟繋げて活用しております。第二次世界大戦中は陸軍将校たちの休息所となり、戦後には現在の日本国憲法の草案が検討されたと聞いています。将棋の『棋聖戦』が開催されるなど、さまざまな歴史上の出来事の舞台となった建物です」と話すのは、室長の真部 智博さん。文化遺産に触れ、細部までじっくりと堪能できるのは、ゲストだけの特権といえそうです。

ヒューマンサイズのリゾート

客室は、水盤に面した1階部分の5室と、2階に設けられたスイートを含む3室の計8室という贅沢な造り。「和館」に見られる数寄屋造りの匠の手わざが、室内の随所に取り入れられています。沼津倶楽部でのアクティビティは、宿泊棟のスパとメインダイニングでの食事のみと実に潔い内容ですが、これがまた実に居心地が良いのです。というのも、この場所はもともと、メンバーが交流を楽しむための会員制のサロンとして始まりました。やがて宿泊施設として一般にも門を開くことになり、運営を任されたのが株式会社二期リゾート。カルチャーリゾートとして知られ、惜しくも2017年に営業を終了した「二期倶楽部」を運営し、坂 茂さんによる「スイートヴィラ」のオープンが記憶に新しい「アートビオトープ那須」のプロデュースを手掛けている会社です。美味しいものを食べて、ゆっくりと湯船に浸かり、頭の中をからっぽにする。いわば、寛ぎを求める同志が集う“倶楽部”だったからこそ味わうことのできる癒しといえそうです。

心まで満たされる食の安らぎ

数寄屋造りの和館で頂くのは、料理長の青木 聖人さんによる日本料理。二期倶楽部のレストラン「ラ・ブリーズ」の出身で、食通のゲストからは「包丁が切れる」と評判です。「駿河湾など地のものを中心に全国から旬の素材を集めています。旬の味覚を楽しみに、毎月来てくださるお客さまもいらっしゃいますね」と、青木さん。奇をてらうことなく、食材に真摯に向き合った素直な味は、ゲストをほっとさせてくれます。その味が「料亭のようであり、実家のようでもある」と伝えると、「食べる人のために良い食材を探し、手間暇をかける。シンプルだけど、手の込んだ料理とはそういうものです」と、答えてくれました。

ストーンスパで「ととのう」

スパも必要にして十分な設備が整った空間です。最大の特徴は遠赤外線の「ラドン浴」で有名な、オーストリアのバドガシュタインから取り寄せた鉱石を使った「ストーンスパ」。暖められた石の上に寝転んで、じんわりと汗をかくのは至福の時間です。サウナにくらべて身体への負担が少なく、女性に人気というのも頷けます。そのほかに、高温と低温のドライサウナもあり、パナジウムなどのミネラルを豊富に含んだ富士山の伏流水を使った水風呂は、“サウナー”でなくてもととのう心地良さ。外気浴のできる露天風呂もあり、しばし時が経つのを忘れて“湯悦”に浸ります。予約したゲストごとに時間が割り当てられるため、貸し切りで満喫できるのも嬉しいポイントです。

リゾートの本質とは

温暖な気候に美味しい食事。それに快適なスパがあれば、ほかになにもいらない。沼津倶楽部で寛ぐひとときは、そんな気分で満たされます。マネージャーの斎藤 厚さんに感想を伝えると「この場所は、このままで良い」と話します。「新しいものが持つエネルギーや刺激も魅力的ですが、いつでもサッと身を隠せるような、心からリラックスできる場所というのも大事です。そんな場所がひとつぐらい、ずっと残っていてもいいのではないでしょうか。」と、優しく語りかけてくれました。旅にもさまざまなスタイルがありますが、静かに心と身体を休めるための静かな旅に、リゾートの本質を垣間見た気がします。

沼津倶楽部

〒410-0849
静岡県沼津市千本郷林1907
Tel. 055-954-6611(水曜休館)

https://numazu-club.com/

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