酒粕、コーヒーの出し殻、カカオの外皮、余剰ビール。本来ならば捨てられるはずだったものに隠れた才能を見出し、ジンの原料として活用する蒸溜ベンチャー「エシカル・スピリッツ株式会社」。廃棄される素材を蒸留することで魅力的なお酒に変える循環型の生産方式に注目が集まります。創業以来次々と個性豊かなクラフトジンを発表し、2021年には東京・蔵前に再生型蒸留所「東京リーバーサイド蒸溜所」をオープンしました。大きな夢を描く東京のマイクロ蒸留所を覗いてみました。
自由な発想から作られるクリエイティブなお酒として、世界的にもブームとなっているクラフトジン。ジュニパーベリーの香りを主とし、アルコール度数37.5%以上というルールのみ。原料やレシピの自由度が高いため、小さな蒸留所でも参入しやすく日本でも多くの銘柄が誕生しています。地域や蒸留所ごとの個性が楽しめるとあって、ジン好きはもちろん、若い世代の間でもカジュアルに楽しめるお酒として人気です。そんな新しいトレンドにセンセーショナルな話題を提供するのが、廃棄予定の酒粕などを原料にしたエシカル・クラフトジンを製造する「エシカル・スピリッツ」です。
筆者がエシカル・スピリッツを知ったのは2020年のこと。新型コロナウイルス感染拡大の影響で余剰となったビールをクラフトジンとして生まれ変わらせるシリーズ「REVIVE」の第一弾がリリースされた時でした。「外食産業が影響を受けたコロナ禍で国産のビールは製造を調整することができても、国内に入ってきてしまっている輸入ビールは行き先のないまま消費期限が迫り、廃棄するしかないとういう状況でした。その量は約8万杯にも相当しました」と話すのは、株式会社エシカル・スピリッツ代表の山本 祐也(やまもと ゆうや)さん。すでに日本酒の製造過程で出る酒粕の可能性に着目し、粕取り焼酎を原料にジンを作ることに取り組んでいた山本さんたちに、苦境に立たされたメーカーから声がかかりました。余剰ビールから生まれたジンは話題性もさることながら、ビール独自の風味や香りが好評で、2022年4月には新たにヒューガルデンとシカゴ発のIPAをベースとした2種も登場しました。
こうしたエシカル・クラフトジンの世界をまるごと体験できるのが、東京・蔵前にオープンした「東京リーバーサイド蒸溜所」。エシカル・スピリッツが運営する複合施設で、鮮やかなブルーのファサードが目印です。印刷所だった建物を活かした蒸留所にオフィシャルストア、Bar & Dining「Stage」、屋上のボタニカルガーデンを増設し、世界初のエシカル生産及び消費に特化した再生蒸留所としてスタートしました。「蔵前にはクラフトマンシップの精神が根付いていて、街の雰囲気と私たちのやりたいことがフィットしていると感じました」と山本さん。
「World Gin Awards 2021」「The Gin Masters」といった品評会でも高く評価されているエシカル・スピリッツのクラフトジン。2階にあるBar&Dining「Stage」では、ハーブやスパイスを効かせた逸品とともにこれらのジンを楽しむことができます。ソーダやトニック割はもちろん、シグネチャーカクテルでいただくのもおすすめ。鳥取県にある酒蔵千代むすびが蒸留した酒粕を使用した「LAST ELEGANT」で作るホワイトネグローニ、廃棄を迫られた日本酒と古木茶、間引きされたすだち、茗荷の茎などを使用した「REVIE from NINJA」で作る梅マティーニハイボールなど、エシカル・スピリッツのジンの魅力を引き出したカクテルが自慢です。「食中酒としてお料理と共存できるように工夫しています」と話すのは店長兼バーテンダーの内山 ももえさん。
「料理やカクテルに使っているハーブは屋上にあるボタニカルガーデンで育てているものを使っています。季節にもよりますが、今は18種類ほどが育っています」と料理長の阿部 匠海(あべ たくみ)さんが教えてくれました。ジンと同じく、未利用魚やバターミルクといった廃棄される予定だったものを素材として生かすことも多いと言います。「Stageという屋号には、そうした日陰の存在を表舞台=ステージに引き上げて光を当てたいという想いを込めました」。(料理:白鳥翔大共同監修)
「Starring the hidden gem(隠れた才能をステージへ)」をテーマに掲げ、世の中にまだ認識されていないけれど本当は価値があるものや、その魅力が見出されていないものをアルコール原料やボタニカルとして活用していくエシカル・スピリッツ。
「一番美味しいものを作ろうとするとき、選択肢は多い方がいいはずです。私たちのプロジェクトでは、既存の素材を使うこともできるし、新たに見出した素材を原料にすることもできる。原料の数が多ければ多いほど、繊細で多彩な表現が可能だと考えています。エシカルなのに、とか、エシカルだから、とかではなくて、一番美味しいものを作るための原料がエシカルなものだった、という流れを作っていきたいですね」
エシカルプロダクトというと量産できないイメージもあります。「新しい食のスタンダードまで引き上げていくためには、きちんと商業ベースに耐えうるボリュームを作り、日常的に買えるように流通させていくことも大切」と山本さんは続けます。
さまざまなバックグラウンドを持つクラフトジンのお話を聞いていると、隠れた才能や魅力は日常や身の回りにも潜んでいるのかもしれないと考えされられます。エシカル・スピリッツが運営する会費制コミュニティ「エシカル・スピリッツ・メイト」では毎月限定のクラフトジンが届くほか、蒸留所で開催されるイベントへの招待など、さらに深くこの世界を知ることができそうです。ファンとのコミュニケーションに力を入れつつも「ぜひ難しいことを考えずにいらしてください。気楽に美味しいお酒と食事を楽しんでいただき、ジンやエシカルを暮らしに取り入れるきっかけになれれば嬉しいですね」と山本さん。
今年の6月には主原料を木とするWood Spiritsの製品化と販売への挑戦を発表しました。これは木の中に存在するセルロースを表出させてアルコールを作るための糖として活用するもの。実現すれば、ジンやラムに並ぶお酒の新しいカテゴリーを作ることになる一大プロジェクトです。小さな蒸留所から発信される大きなニュースに今後も目が離せません。
〒111-0051 東京都台東区蔵前3-9-3
1F/エシカル・スピリッツ・オフィシャルストア
通常営業時間:13:00-19:00 ※変動あり、月曜定休
2F Bar&dining Stage
通常営業時間:18:00-23:00 ※変動あり、月曜定休
セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードが
ご利用いただけます。
https://ethicalspirits.jp/