1本の包丁に豊かさを感じる
ひとひら東京/Hitohira
1本の包丁に豊かさを感じる
ひとひら東京/Hitohira

三軒茶屋駅と下高井戸駅を結ぶ東急世田谷線の上町駅からすぐ、世田谷通り沿いに店舗を構える「ひとひら東京」。包丁や砥石の販売、研ぎ直しのサービスを行う一方で、日本製の包丁ブランド「Hitohira」として海外にも展開しています。包丁の美しさや鋭い切れ味を求める気持ちに洋の東西は関係ないようで、世界中の包丁専門店からオーダーが入ります。誰もが使ったことのある身近な道具でありながら、意外と知らない包丁の魅力について、代表の相澤 北斗(あいざわ ほくと)さんにお話を伺いました。

刃物は人類が考えた最初の道具

黒曜石などの堅い石を割って作られた鏃(やじり)やナイフが、およそ50万年前の旧石器時代の地層から発掘され、刃物は人類が生み出した最初の道具だと言われています。日本では江戸時代に全国で食文化が花開き、料理人のニーズに合わせて多様な種類の包丁が生まれました。一般家庭では一本で肉、魚、野菜を切ることのできる「三徳包丁」が多く流通していますが、野菜を切る「菜切り包丁」や魚をさばく「出刃包丁」など、用途に合わせたさまざまな包丁が存在します。
自分に合った良い包丁と、その包丁のベストな状態の切れ味を知るのはなかなか難しいもの。2022年2月、東急電鉄世田谷線の上町駅からすぐ、世田谷通り沿いに小さな包丁専門店がオープンしたのでさっそく出掛けてきました。

海外で知った包丁の魅力

代表の相澤 北斗さんが包丁の価値と魅力を知ったのは海外でのこと。大学卒業後にバックパックひとつで世界中を旅していたとき、収入を得るために働いた飲食店で日本製の包丁を自慢されることが多かったそうです。たまたま立ち寄ったカナダのトロントで仕事を探す際に「Tosho Knife Arts」という日本製の包丁を専門に扱うお店に出会い、そこで働くことになりました。

「初めて店内に足を踏み入れた時のことは今でも鮮明に覚えています。包丁がまるで絵画のように美しく陳列されていて、西洋人のスタッフが砥石を使って包丁や大工道具を研いでいました。その光景がとてもかっこよく見えたんです。その後、包丁の構造や歴史、研いで使うという道具の文化を学び、どんどんのめり込んでいきました。このときは、早朝から深夜まで研ぎのことだけを考えて働いていました。帰国後も包丁に携わる仕事がしたいという想いがあり、Tosho Knife Arts向けに国内で仕入れた包丁を取りまとめる仕事として始まったのが『ひとひら』です」

地域や文化が育てた道具

日本は良質な砂鉄が豊富だったこともあり、刀剣作りの文化が発展しました。しかし「廃刀令」によって刀を作ることができなくなり、技術の高い刀剣鍛冶が大工道具のカンナやノミ、包丁等を作り初めたことから良質な刃物が一般人にも流通していったと言われています。

「包丁を使って食品を加工するという風習は、世界各国で独自の文化を形作ってきました。国内だけでも地方により形状は様々です。例えば鰻を捌く『鰻裂き』という包丁は『江戸型』、『大阪型』、『京型』、『名古屋型』と大きく分けて4種類あります。江戸型は【腹切り】を連想させないために背開きで鰻を捌くために作られた独自の形です。このように鰻裂き一種類だけをとっても、その国や地方の歴史を感じることができるのが包丁の面白いところだと思います」

海外に文化を届けたい

株式会社ひとひらでは、実際に鍛冶屋や研ぎ師のように包丁の製造はしていません。主な仕事は、海外の包丁販売店から受けた注文をとりまとめ、「一片」の銘を打って送り出す輸出専門の商社のような存在です。

「本当に良質な日本の包丁を正しい知識で扱ってくれる販売店を世界各国の主要都市に作り、包丁と研ぎの文化を広めることを使命としています。カナダで包丁を販売していた時のことですが、包丁店の熱意に反して日本側からの情報や説明が少なく、現地の販売店は手探りでいろいろと調べながら対応していました。ですから、当社では海外の販売店と定期的な会議を開き、商品説明や職人さんの近況を共有ながら販売を行っています。一生懸命勉強しているカナダの若者たちを見て、いつか彼らの役に立ちたい、日本の文化から“ひとひら(一片) ”でも分けて、他国に文化の芽を咲かせてあげたいという思いから、この名前をつけました。現在私たちの包丁は世界10カ国の厳選された17店舗で販売されていて、そのすべてが包丁を専門に扱う『包丁店』です」

料理が変わる3本をご紹介

早速、自宅用にと選んでもらったのが福井県越前産の「ペティナイフ」。小振りながら持ったときのバランスが良く、試し切りでも力を入れずにスッと切れる感じがクセになります。
「小回りが効いて、簡単な料理ならこれ一本で済んでしまいます。すでに三徳包丁などをお持ちなら、120~130mmぐらいのサイズが良いでしょう。出番が多いと思うので、素材はステンレスの錆びにくいものを選んで、こまめに研ぐのがおすすめです」

野菜の切りやすさを求めている方におすすめの一本が「菜切り包丁」。大きな野菜でも切りやすいサイズ感と、適度な重みが心地よく、調理の負担を軽減してくれます。和式柄(わしきえ)のものなら柄が差し替えられるため、研ぎながら永く使い続けることができます。
「実は日本らしい包丁のひとつで、たくさんの野菜を細かく刻んだり、白菜やキャベツなどの大振りな野菜を調理するのにぴったりのデザインなんです。刃先から手元まで均等な重量バランスで、刃が直線に近いため繊切りなどにも向いています」

海外のシェフなどがよく使っているのが牛刀と呼ばれる「Chef’s Knife (シェフのナイフ)」。先が尖っていて刃渡りがあり、肉を切るのに優れています。
「デザインも美しいですし、三徳包丁よりもスマートな印象です。肉だけでなく食材全般に向いていますが、大振りなものが多いのでキッチンサイズに合わせて選ぶのがコツです。プロのこだわりに合わせて発展してきた歴史があり、さまざまな素材の美しさも堪能できます。サイズの展開も豊富ですし、デザイン性が優れたものもの多いので、料理好きの方はお好みの一本を選ぶのが楽しいと思います」

瞑想に近い研ぎの魅力

お気に入りの一本を見つけたら、ベストな切れ味を保つための「研ぎ」が欠かせません。日本は良質な砥石が京都を中心に全国で採掘されたこともあり、研ぎの文化が発達しました。自宅でも見よう見まねで研いではいるものの、いまいち切れ味に自信が持てず、色々と教えてもらいました。

「“研ぎ”の極意は“音”だとおもいます。基本的に刃物は砥石の番手を上げ、なおかつ前の番手の目を残さなければ切れ味が良くなります。刃物と砥石から聞こえてくる小さな音に耳を済ませながら、指先に伝わってくる微かな振動を感じて同じ動作を反復する。その作業は、どことなく祈りや瞑想に近い効果があるのではないかと思っています。2万5千年ほど前の新石器時代には石で作った刃物を別の石に擦りつけて鋭利にしていたと言いますから、“研ぐ”という行為にはどこか人を惹きつける魅力があるのでしょう。自宅で日々のケアとして研ぐなら“仕上げ砥”がおすすめです。料理の前に軽く研ぐだけで、どこか気持ちがスッキリするし、切れ味も長持ちします。切れ味が戻らなくなったら、“ひとひら”に持ってきてもらえればしっかり刃を付けてお戻しします」

料理の時間が贅沢に感じる

早速購入したペティナイフを自宅で使ってみました。トマトが面白いほど綺麗に切れます。少し小さいかもしれないと心配していましたが、刃物全体のバランスも良く、パッと出してサッと使えるのが思いのほか便利。ちょっとレモンを切ったり果物をむいたり、いままで面倒だと感じていたひと手間が楽しくなりました。自宅で使用していた三徳包丁も研いでもらったところ、その切れ味の変化には驚きました。毎日キッチンに立つ方も、たまの休日に腕を振るう方も、ぜひ「ひとひら東京」で“料理のための良い道具”を体験してみてはいかがでしょうか。きっと、料理の時間をとても贅沢に感じられると思います。

ひとひら東京

住所:〒154-0017東京都世田谷区世田谷1-22-10
TEL:03-6413-6904
営業時間:13:30〜18:30
定休日:日曜日
Instagramアカウントはこちら

セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードがご利用いただけます。
https://hitohira.business.site

 

InstagramPTマガジンをインスタグラムで見る