「書くたのしみ」と出合う文具店
カキモリ
「書くたのしみ」と出合う文具店
カキモリ

自分の手で文字を書く機会が減り、文具から縁遠くなった現代。しかしながら手書きの温かさや丁寧さには、変わりなく癒やされるものです。蔵前にある文具店「カキモリ」は、コロナ禍やデジタル化の進む十数年を経て、文具を通じた新しい価値観の創造に挑戦しています。次の10年を見据えるカキモリで、もう一度「書くたのしみ」と出合いました。

稀有なサービスで人気の文具店

2010年、蔵前に「たのしく、書く人。」をコンセプトにオープンした文具店「カキモリ」。表紙、中紙、リング、留め具をそれぞれ選べるオーダーノートや、好みの色を調色できるオーダーインクなど、世界にひとつのオリジナル文具を作ることができるお店として、文具が好きな老若男女から注目を集めました。アナログのぬくもりに満ちた店内は、文具にこだわるマニアのみならず、誰もがワクワクしてしまう雰囲気を持っています。その稀有な存在感ときめ細やかなサービスは海外でも評判となり、国内外から多くの旅行客も訪れる名店となりました。連日お客様で賑わい、“東京のブルックリン”と呼ばれる蔵前のイメージを牽引するお店のひとつです。

過去の成功体験は捨てた

「コロナ禍にはずいぶん考えさせられました」と話すのは、カキモリを営む株式会社ほたか 代表取締役の広瀬 琢磨(ひろせ たくま)さん。客層の三分の一をインバウンドが占め、遠方からの客足にも支えられていたカキモリ。
「ありがたいことに、毎日お店を開ければお客様が自然と来てくれる状況でした。それがコロナ禍でパタリと客足が途絶えてしまったのです。オープンから10年を迎えた頃でしたが、これまでの成功体験をすべて捨てて、新しいカキモリを作らないといけないと感じました」

書くことを「贅沢なこと」に

まず切り替えたのは「書くこと」への考え方でした。
「書く作業や機会はどんどん減っています。寂しいと感じる一方で、仕事でプレッシャーを感じながら書類や資料を書く必要もなくなった。こうした変化は悪いことばかりでもないようです。なので、もう仕事では書かなくてよろしい(笑)。書くことはプライベートで贅沢なものになったんです」と広瀬さん。

お気に入りの文具を持つこと、自分の気持ちや考えをノートに書き留めること、書いたものを見返すこと──カキモリは今、こうした時間や体験そのものが「豊か」で「楽しいもの」だと思える場所になっています。

いつか「古道具」になるような

2021年には、カキモリオリジナルの文具「楽しく書く道具」をリリースしました。プロダクトデザインを手掛けたのは、プロダクトデザイナーの小泉 誠(こいずみ まこと)さん。ボトルインク、ペンレスト、つけペンなどのラインアップは、機能性と情緒性を持ち合わせ、愛嬌のあるフォルムが印象的です。「小泉さんと会話をする中で『いつか古道具になるような』という言葉が出て、私たちらしい文具を作るうえでとてもしっくりきました」。引き出しの中にしまいがちな文具ですが、「新たのしく書く道具」は、いつも机の上にあり、眺めて良し、手にとって良し、使うほどに増していく味わいに期待が膨らみます。

カキモリ、海外へ

2022年の秋には、米国ブルックリンの「Yoseka Stationery」で、「新たのしく書く道具」を中心としたカキモリのPOP-UPイベントが開催されました。安価で高品質な日本の大手ペンメーカーとも高級でデザイン性の高いヨーロッパ製とも一線を画す、品質とデザイン性のほどよいバランスを備えたラインとして評判は上々。
「この要素を世界に持って行きたいと思っています。海外に各国のパートナーを見つけて、小さなカキモリを作るようなイメージです。お客様が来られないなら、こちらが出ていけばいいんです」

店頭ならではの深い体験を

蔵前のお店には客足が戻ってきましたが、過去に甘えることなく店舗もフルリニューアルをして刷新したいという広瀬さん。

「以前は街歩きをしながら立ち寄られる方が多かった印象ですが、今は目的を持ってカキモリに来店されている方が増えています。カキモリのために時間を使ってくれている方に対して、私たちもこれまで以上に深い体験をご用意しないといけないと感じています」

もともと店頭で購入できるものとオンラインで購入できるものを分けるなど、店頭ならではの体験に力を入れてきたカキモリですが、コロナ禍を経て体験価値への意識がより高まったといいます。

自分だけの色を作る

カキモリを代表する圧倒的な体験といえば、やはりオーダー文具。特に2階にブースを構える「Inkstand by Kakimori」でのオリジナルインク作り(予約制)は、ここにしかない特別なものです。作りたい色に合わせてベースカラーを3つまで選び、自分自身で一滴、二滴と色を混ぜていきます。混色と試し書きを繰り返し、納得のいく色味が作れたら、ボトルに詰めてもらい、そのまま持ち帰ることも可能。出来上がった自分だけの色は、万年筆やつけペンのインクとして使えます。レシピは3年間お店で保管してあり、リピートオーダーもできるそうです。

どんどん尖った提案を

「オーダーインクのサービスは非常にニッチな体験ですが、お陰さまでご好評いただいております。以前は書く機会自体を増やすような施策を考えたりもしましたが、時代が変わり、街が変わり、人の行動が変わる中で、体験に求めるものも変わってきている。これまでどおりの成功を繰り返していては興味を持たれなくなってしまうと思うんです。だから、私たちはここ蔵前で、どんどん尖った提案をしていこうと思います」

好みの紙で作ったノート、相性の良いペン、世界にひとつの自分の色。想像するだけで何かをしたためたくなるようなワクワク感が湧いてきます。春はすぐそこ。新しい季節の始まりに、今一度「書くたのしみ」を見つけに行きませんか。

カキモリ

〒111-0055 東京都台東区三筋1-6-2 1F
営業時間 : 平日 12:00〜18:00/土日祝 11:00〜18:00
定休日:月曜(祝日の場合営業)

Inkstand by Kakimori
〒111-0055 東京都台東区三筋1-6-2 M2F
営業時間 : 土日祝日 11:00〜18:00
定休日:平日(祝日の場合営業)

お問い合わせは公式ホームページをご確認ください。
セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードが
ご利用いただけます。
https://kakimori.com

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