レザーを育てる喜び
WILDSWANS 東京アトリエ
レザーを育てる喜び
WILDSWANS 東京アトリエ

キャッシュレスやキーレスといったスマート化が進む現代。「あえて持っている」レザーの財布やキーケースは、顕著に個性や嗜好が表現されるものとして改めて注目が集まっています。WILDSWANS(ワイルドスワンズ)は、熟練職人の技が光る上質な革製品で世の革好きを魅了しているレザーブランド。2024年3月には銀座店もリニューアルされたとあって、新たな動きに注目が集まります。今回は東京に新たに設けられたアトリエにうかがい、ブランドの徹底したものづくりと、今後のブランドの在り方について取材しました。

老舗が新たに立ちあげたアトリエ

ブランドを立ち上げた1998年に、茨城県河内町の鉄工所跡にアトリエを構えたWILDSWANS(ワイルドスワンズ)。2023年、東京台東区に二つ目のアトリエをスタートさせました。時計のベルトやオーダーメイドのバッグなど、通常のラインには組み込めない特別で数の少ないプロダクトを生み出すアトリエです。さまざまな機械や道具が整然と並んでいますが、なかでも目を引くのは足踏み式の年季の入ったミシン。「このミシンはすべてのアトリエで使用しています。どんなに踏んでも早く縫えないこのミシンでは作れる量に限りがありますが、ある意味でそれが量産へのストッパーになっています。電動ミシンに比べると時間はかかりますが、ワイルドスワンズのレザークラフトには丁寧な縫製が欠かせません。このミシンを新しいアトリエにも導入していることは、量よりもクオリティを優先させたいという会社の姿勢が現れていると思います」と、東京アトリエのマネージャー、小礒 晃(こいそ ひかる)さんは話します。

ここは、職人の聖域

小礒さんが話すように、東京アトリエはただ生産量を増加させるための工房ではありません。“世界で通用するクリエイティブなものづくり、革の可能性を更に追求する為のスペシャルファクトリー”として開設されたこの場所は、一歩足を踏み入れると選りすぐりの職人たちが黙々と作業に没頭しています。その様子は、まさに“ものづくりの聖域”といった緊張感に満ちています。職人は手間を惜しむことなく、一つひとつの作業に技術と情熱を注いでいました。ここで生み出される製品は、その工程のほとんどがハンドメイドによるもの。もともと手間暇かけた良質なものづくりに定評があったワイルドスワンズですが、それらとも一線を画した技法を用いたプロダクトはどれもが革の持つ迫力を静かに放っています。「最近は海外のお客様も増えていて、時計のケースやベルトなど、かなり嗜好性の高いアイテムのニーズを感じます」と話すのは、商品企画や生産管理から革の仕入れまで担当する山田 豊(やまだ ゆたか)さん。詳しくお話をうかがいました。

レザーを長く使うこともサステナブル

「ワイルドスワンズの製品の特徴のひとつは、肉厚なレザーをふんだんに使っていることです。お財布は薄い方が使いやすい部分もありますが、革が薄いとどうしても耐久性が弱く、使い込んでいくと破れてしまうことがあります。それでは良い革を使っていても本革特有のエイジングを楽しむことが難しい。弊社のお客様には“革そのものが好き”という方が多く、軽さや薄さよりもデザイン性や質感が豊かな革を育てることに喜びを感じていただいているようです」と、レザークラフトの魅力について話します。

ファッション業界では、環境への配慮やサステナブル志向がますます高まっています。エコレザーなども注目されていますが、「上質なレザーを手入れしながら長く使うこともサステナブルではないでしょうか。だからこそ、丁寧な縫製や耐久性の高いものづくりに徹底的に力を入れていきたいですね」と続けます。世の革好きを唸らせるスペシャルファクトリーとして、コバ(革の裁断面)の厚みが9mmある実験的なウォレットもリリースしました。これはもはや、レザーのお財布というよりは“革そのもの”を持ち運ぶかのような存在感です。「小礒さんに限界までコバの厚みを追求してもらって生まれた、ちょっとした遊びの商品です(笑)。でも、予想以上の反響でした」

名門タンナーの革を惜しみなく

ワイルドスワンズのものづくりの核心といえる上質なレザーは、どのようなものでしょうか。

「良いタンナー(革を鞣す会社)の定義は難しいですが、まずは良質な原皮を確保できるかが重要です。どんなに鞣しの技術が優れていても、原皮が悪ければ良い革を製作することができません。昔に比べて世界的に良質な原皮が不足しているため、どこのタンナーもかなり苦労しているのが現状のようです。

ワイルドスワンズの革の仕入れ先の一つにイギリスのベイカー社というタンナーがあります。ここは約2000年前の伝統的な技法で、1年以上の時間をかけてじっくり革を製作します。地元の牧場でとれる良質な原皮を常時使うことができるため、高い品質の革を安定して供給してくれます。良質な原皮とそれを鞣す確かな技術が揃って、はじめて上質なレザーが生まれるのです。手間暇かけて鞣された革は繊維密度が高く、手で握るとギュッと音が鳴ります。これは耐久性が優れている証拠です。このような革で製作された製品は末長くエイジングをたのしみながらお使いいただけるのではないかと思います。

普段黙々と作業する職人も本当に良い革を使うと製作作業がはかどるようで「この革良いね。どこの革なの?」なんて声をかけてくれます。すばらしい職人さんは、やはり良い革を知っています。靴業界などジャンルは違っても同じ革業界で働いている職人さんやそこに携わる多くの方々と積極的にコミュニケーションをとることで情報収集を行ない、良質な革を仕入れることができています。

また、洋服でも車でも何でもいいのですが、普段の買物においてもできるだけ良いもの、世界でも最高峰といわれているものを見て、手に取るようにしていると、良いものとそうでないものの違いがわかるようになります。自社の製品を作るうえでも“理想的な革とはどのようなものか”を見分けるヒントが詰まっていますね」

美は細部に宿る

確かなものづくりは、美しいコバの処理やそのカラーリングにも表れています。さらに、「メンテナンスすれば美しい状態のまま長く使い続けることができます」と、ワイルドスワンズではアフターケアにも力を入れています。

「わたしたちの製品の特徴のひとつに、革の厚みを生かしたコバの魅力があります。革を貼り合わせ縫製した縁の部分を“コバ”と呼びますが、鉋(かんな)や包丁で革の断面を丸く削り、ヤスリ掛けした後に磨きと染料を入れています。革を磨いて、色を入れて、また革を磨いて……という作業を繰り返してひとつの製品を生み出します。こうした作業には、ひとつひとつ手間暇を惜しむことなく作業しています。革に厚みがある分、磨くのにも時間がかかりますが、丁寧に染料を入れたコバの美しさはワイルドスワンズのアイコンです。以前、茨城県河内町のアトリエツアーに参加されたお客様にも『こんなに時間を使ってたら商売にならないんじゃない?』と、呆れられたくらいです(笑)。でも、こうした製品だからこそ、長く使うと味のある色合いに成長していきます。コバは一番傷みやすい部分なので、妥協は絶対にできません」

使い込むほどに魅力が増す

ワイルドスワンズが最初に手掛けたのは、肉厚な革を使用した二つ折り財布「Wings(ウイングス)」。現在でこそ、鞄などの大物から名刺入れなどの小物まで幅広く展開していますが、やはり財布はルーツともいえる商品です。最近はキャッシュレス化の影響もあり、コンパクトな財布の人気が高まっているそう。多機能コインケース「TONGUE(タング)」、ミニ財布の「CASA(カーサ)」、小型三つ折り財布の「ENO(イーノ)」が人気の商品です。素材はベイカー社の希少な「フルグレインブライドルレザー」をはじめ、ブランド設立時から使用する「サドルプルアップレザー」、ホーウィン社製「シェルコードバン」の人気が安定していますが、現在はクロコダイルの需要が高まっています。どの素材も使い込むほどにツヤが増し、深味のある色合いへと変化していくエイジングを楽しめるのが醍醐味。また、丁寧に磨き上げられたコバが重厚な財布のアクセントとなり、大人が持つのに相応しい洗練された印象に仕上がっています。「いま、財布は必需品ではなくなりつつあります。でも、レザーの魅力に“どハマり”して、同じシリーズの財布を素材や色を変えて何個も買い続ける方もいる。最近では女性のお客様も増えてきていて、トートバッグのオーダーや時計のベルトなどにこだわる方もいらっしゃいます。これまでは良い革に良いデザインを組み合わせてこちらから提案していましたが、これからはもっとニッチな革好きの方の細かな要望にも応えられるようにしていきたいと思います」と、今後のビジョンについて山田さんは話します。

初めて革そのものの魅力を知った私でも思わずうなずいてしまうほど、ワイルドスワンズのプロダクトは上品なだけではないレザーの存在感や満足感を感じます。コードバン(馬の臀部のコードバン層を削り出して作る希少な革)やブライドルレザー(元は馬具用に作られた強靭な革。牛皮を原皮とする)など、革の美しい表情にコレクションしたくなる衝動が湧きおこります。使い続けるほどに手になじみ、独特のツヤが増していくワイルドスワンズのレザー商品。買った瞬間がピークではなく、使うほどに魅力が増していく「育てる喜び」を味わってみるのはいかがでしょうか。

WILDSWANS銀座店

〒104-0061 東京都中央区銀座2-9-4 アイタワービル(メルキュールホテル)1F
Tel.03-3563-5040
営業時間:12:00〜19:00
定休日:火、水 ※年末年始など休業期間あり

セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カードが
ご利用いただけます。
https://www.wildswans.jp

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